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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
96/250

"1"と"9"


赤髪のサングラスの男が戦った女性は全身火傷で死亡。


それ以外にも審判が即死。

他のステージで燃えた選手たちも重症という、闘技大会はじまって以来の惨劇であった。


だが女性が息を引き取るまでに時間差があり、審判においては生死が大会失格に影響を及ぼすわけでもない。


運良く"赤髪の男"と"青髪の青年レイ"の2人は予選を勝った。

さらに、この2人の試合を見た闘技大会関係者はナイトガイ同様に本戦出場を決める。


なぜ失格にしないかは闘技大会を行う上での本質によるものだった。


"最も強い人間を決める"


これに尽きる。

なによりも今大会はいままでの大会とは異なる部分があった。


それは優勝賞品である"特別な武具"の存在であった。


____________



イース・ガルダン 東地区



夕刻。

ガイとローラ、エリザヴェートは闘技場を後にして酒場にいた。


広い酒場はほとんどが闘技大会出場者たちで埋め尽くされ、店員の女性が忙しなく動く。

冒険者たちはあちらこちらで騒いで、たまにパーティ同士の口喧嘩すらあった。


ガイたちは酒場の隅のテーブル席においやられ、残り少ないと言われた食事を名残惜しそうに口へと運んでいた。

一つの皿に乗ったサラダと少しの焼かれた肉だけだ。


「これで明日どうやって戦えっていうのよ」


「仕方ないだろ。だけど、まさかこんなに早く本戦になるなんてな」


それは今日、闘技場であった一件によるものと推測された。

負傷者が多く出たことによってか大会は早く進み、次の日にあるはずだった予選は前倒しになり急遽、翌日が本戦という形になった。


「こうなることなら、無理してでもサンシェルマのスイーツ食べに行くんだったわ」


ローラの発言に呆れ顔のガイ。

一方、エリザヴェートの表情は相変わらず長い黒髪で覆われて見えず、何を考えているのかわからない。


「それにしても、なんなのよあの赤髪の男」


「あれは恐らくワイルド・ナインだな」


ローラも察しはついていた。

明らかにスキルによって模られた炎。

そして"音"によって人体を発火させる特殊な仕様だ。

間違いなくワイルド・ナインであると断定してもいい。


「あんな化け物がいるなんて聞いてないわよ」


「そうだな……今の俺たちで勝つのは厳しいかもしれない」


「……」


その時、無言だったエリザヴェートがスッと控えめに手を上げた。


「わ、わ、私が出るわ」


「え?」


「わ、わ、私には相手の波動は関係ない。どんなに強い波動でも吸い取ってしまうから」


「なるほど、そうか」


ローラの表情が一転して明るくなった。

さっきの闘技場での戦闘の際、エリザヴェートは耳を塞いでいないにも関わらず燃えなかった。

つまりエリザヴェートが持つ闇の波動のスキルの前では"相手の波動が効かない"のだ。


「相手は2人だし、どちらが出てくるかは交互なんだから前の試合を見てれば確実にわかる。そこにエリザを当てれば勝機はあるわね!」


「大将戦ですら純粋な肉弾戦になるってわけか……でも、それはそれで大丈夫なのか?」


「え、え、ええ。大丈夫よ。あの赤髪の男は恐らく遠距離型だわ。わ、私は近距離型だから波動が使えない遠距離型との相性はいい」


ガイとローラは顔を見合わせた。

"これはいける"そう2人は心の中で思った。

なにせエリザヴェートはS級冒険者だ。

それに、いくら相手がワイルド・ナインであろうとも、そのアイデンティティーとも言うべき波動が封じられてしまったら意味はない。


「それにしても珍しいと言われる割にはワイルド・ナイン集まっちゃってるわね」


「そうだな……」


ワイルド・ナインはその名の通り世界に9人しかいないと言われているが、この町に数人いることになる。


「俺とローラ、クロードと赤髪の男……」


「そういえばクロードも低波動だったわね。それだと4人もいるじゃない」


「ク、ク、クロード?」


そう反応したのはエリザヴェートだ。

相変わらず長い黒髪を前へ流しているので表情は見えないが。


「ああ。俺たちの仲間なんだ」


「エリザと同じで触った人の波動がわかるみたい。それで町で起こった事件を解決してるのよ」


「……」


妙な間があった。

そして少ししてからエリザヴェートが口を開く。


「そ、そ、そのクロードという人物の波動属性は?」


「え?」


「そういえば……見たことないな」


ガイは眉を顰める。

ここまで様々な戦闘はあったがクロードが波動を使っているところは見たことがなかった。


「波動数値は?」


「俺が出会った時は"3"だって言ってたけど」


「……そ、そう」


エリザヴェートは首を傾げて長い黒髪を揺らす。

再びガイとローラは顔を見合わせた。


「どうしたんだ、何かあるのか?」


「……もし触った物の波動がわかるなら、原初の波動の"闇属性"である可能性が高い。で、でも、そうなると辻褄が合わないの」


「どういう意味だ?」


「"ワイルド・ナイン"という能力者は世界に9人しかいない。死ぬと生まれ変わって別の人間に移ると言われている。その中で"2"から"8"はランダムな六属性だけど、"1"と"9"だけは決まってると古い文献で読んだことがあるわ」


ガイとローラは息を呑んだ。

今までに聞いたことのない話であり、何か大変なことに巻き込まれようとしている……そう思って嫌な汗が額から滴った。


「"1"は光の波動の使い手。"9"は闇の波動の使い手で固定される。つまり"2"から"8"の波動数値に光の波動と闇の波動の使い手はいないのよ」


おかしな話だった。

ガイが聞くにはクロードは六大英雄だ。

その"3"という数字に当てはまる低波動のはず。

だが持っている能力と数値が見合わない。


クロードの波動属性はいまだに知らないため確実なことは言えなかったが、ガイとローラは妙に嫌な後味のままこの日を終えた。

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