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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
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推理(2)


ゲインの突然の告白に一同が言葉を失っていた。


ザラ姫に罪をなすりつけようとサンシェルマのホリーを殺害し、さらにはザラ姫を毒殺しようとした知能犯。


その人物はザラの予定を事前に知っており、さらに行動を先読みできるほど彼女の性格を熟知した者。


そう言われれば、みなが思い浮かぶ人間がいた。


「私を疑うのは勝手だが、姫様がサンシェルマへ行っている時間には私はアカデミアにいた。私が店主を殺すなど不可能だ」


「確かにそうだな。だが、なぜワインを買い占めた?」


「一ヶ月前に貴族相手のパーティーがあった。そこで振る舞うために姫様から用意してほしいと命じられたので購入しただけだ」


この"パーティー"というのはナイトガイのメンバーがフィラルクスに到着したあたりに王都で行われたものだ。

ラズゥ家やスペルシオ家なども参加していた。


「確かにワインの購入は姫様がこの町に来ることが決定した後だ。だが、これは偶然でしかない」


「ワインの購入前にザラ姫がこの町に来ることを知っていた者は?」


「ここにいるユーゲル団長とクラリス副団長、ブリハケット施設長だけだ。あの夜、ユーゲル団長は君と一緒だっただろう。ブリハケットは私と一緒にいたから犯行は不可能だ。君の推理通りなら姫様の護衛のクラリスも外れるだろう」


「もう一人……サイフィス副団長殿は知っていたのか?」


クロードは入り口付近に佇むサイフィスへと視線を向けた。

顔が覆われた冑によって表情は見えず、何を考えているのかは計り知れなかった。


だがクロードから投げかけられた質問に答えたのはサイフィスではなくユーゲルだった。


「サイフィス副団長は他の第五騎士団の者達と一緒にいましたよ。ザラ姫が来ることは一週間ほど前に伝えました」


「そうか……しかし、そうなると……」


容疑者が消えてしまった。

こうなると辿り着くところは一つしかない。

間髪入れずゲインが言った。


「やはり店主は自殺だろう。手の込んだことをしたのは姫様に罪をなすりつけて辱めるためと考えるのが妥当だ」


「まだザラ姫の犯行という推理も残っているが」


「だが君はさっきの推理で"可能性は低い"と言っただろう。姫様を陥れようとした第三者というのがサンシェルマの店主であった。最後に毒入りのワインを用意して姫様を殺害しようとしたのは、二年前と同様に姫様が無実を手に入れた場合の保険であった……これでどうかな?」


どちらの推理にも証拠は無い。

疑問は残るがゲインの推理内容で済ませたなら簡単な話だ。

これ以上、調べたとしてもザラが犯人である物証が出てこないのであれば、ゲインの推理で終わってしまうだろう。


「これでこの話は終わりだな。私は自室に行くよ」


ゲインはゆっくりとソファから立ち上がるとクロードとリリアンを通り過ぎ部屋を出て行ってしまった。

この際、婚約者であるはずのリリアンには目も向けることがなかったことが印象的だった。


____________



アカデミアの廊下を歩くクロードとリリアン。

どちらの表情も険しい。


「本当にゲイン卿が言った通りなの?」


「それはわからないな。ホリーが自ら毒入りワインと自殺を一緒に計画したというのは、かなり無理がある」


「そうね。毒入りワインなんてすぐに用意なんてできないでしょう」


「ホリーは事前にザラ姫が町に来ることを知っていたことは間違いないだろう」


「そうなるとユーゲル団長しかいない気がするけど。彼がザラ姫の件を教えて、その後にホリーを殺害?なんのために?」


「その場合の理由は不明。理由はさておいてもユーゲルにホリーを殺すことは不可能だ。彼はサンシェルマから火が上がった時に僕たちと一緒にいた。それに最初に気づいたのは彼だ」


「そうなるとやっぱり自殺になる……そうでないとしてもザラ姫犯人説になるけど」


「ああ。今回もザラ姫犯人説が一番しっくりくるが物証が無い以上、証明は不可能だ」


「……これで、本当に終りなの?」


「終わらせるしかあるまい。もしホリーにザラ姫が来ることを教え、彼女を殺した真犯人がいるとするなら捕まらないだろう。しかし判然としない事件だ。"何か"から目を逸らさせようとしている……そんな意図を感じる。だが、それが何なのかわからない」


2人は同時にため息を漏らした。

意味のわからない事件だった。

ヒントが沢山あり、推理すればわかりそうな事件ではあるが本質が全く見えない。



そんな時、廊下を歩く2人の背後から男の声がした。


「すいません!!」


2人が振り向くと平民らしき若者が息を切らしていた。


「あなた、クロードさん?」


「ああ、そうだが。君は?」


「俺はマイヤーズさんの使いで来た者です。手紙を届けたくて探してました!」


クロードとリリアンは顔を見合わせた。


「僕はマイヤーズという人物とは面識は無いが」


「あ、いえ、手紙はメイアさんという女の子から預かってまして。マイヤーズさんを介してあなたへと」


そう言って若者は懐から手紙を取り出してクロードに差し出した。

それを受け取ると若者は深く頭を下げて走り去っていった。


「こんな夜更けにご苦労なものだな」


「それより、メイアはマイヤーズと会ったということかしら?」


「そのようだね」


クロードは封筒から手紙を取り出して読んだ。

他愛もない学校生活のことが書かれた手紙だった。

だが最後の方に気になる文章が書かれており、クロードは眉を顰めたのち、すぐに笑みを溢す。


「なに?」


「読んでみてくれ」


リリアンが手紙を受け取ると読み始める。

それは"学校での生活が楽しい"、"友達が沢山できた"、"怖い男子がいるけど、本当は自分のことが好きみたいだ"など微笑ましい内容だった。

そして最後にはマイヤーズという男性と会ってアドバイスをもらったと書かれていた。


「なんだか学校生活が懐かしくなっちゃうわね。でも、これが何か?」


「最後にメイアの所感しょかんが書かれてあるだろ」


「え?」


リリアンが再び手紙に視線を落とす。

その文章にはこうあった。



****


マイヤーズさんという方との出会いは、私にとってとても刺激的なものでした。


体格がとてもよくて強そうなのに言葉遣いや性格が女性的。

なによりも包容力がある不思議な男性です。


クラウス君のこともそうですが、人は見た目ではないことを学びました。


どんなに口調が強そうでも実際は心が弱く、幼かったりします。


またマイヤーズさんのように体つきは強そうなのに女性のようにお化粧したり、恋のお話しができたりする人もいます。


イメージは大事ですが、"間違ったイメージ"をすると思わぬ勘違いを生む可能性がある。

目に見えていることが全てでは無い。


いつもクロードさんが言われるように落ち着いて物事を見極めて自分の糧にしていきたいと思いました。


****



リリアンはこの文章を読み終わると"マイヤーズ"という男の印象を改めた。

確かにメイアが書いているように勝手にイメージして決めつけてた。

リリアンが想像していたマイヤーズは"細身で盗賊のような男"だった。


「この文章を読んで何を思ったの?」


「"イメージは大事だが、間違ったイメージをすると思わぬ勘違いを生む"。まさに僕たちのことさ」


「どういうこと?」


「明日、調べたいことがある。もしかしたら、この事件はまだ終わってないかもしれない」


クロードの言葉に唖然とするリリアン。

自分たちのイメージが間違っていた……

この時点ではまだリリアンにはその意味はわからなかった。


そして次の日の夜、最後の事件が起こる。

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