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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
78/250

まごうことなき犯行


日が沈んだあたりか、店内には2人いた。

厳密に言えば"1人"と"人間だったもの"だ。


木造建築であるこの店は、玄関をぬけるとすぐカウンターがあり、商品を並べる横長いガラスケースが置かれてある。


店内はそう広くはないシンプルな作りと見た目であった。


暗闇の中、玄関付近に"うつ伏せに倒れる死体"は綺麗な白い布の服を着ているブラウンのショートヘアの女性。

後頭部には赤黒く変色した部分があり、これは強打したことによる出血であった。


死体を見下ろす、"その人物"はさらにもう一手間加えていた。

肘のあたりから両腕を切断したのだ。


ただ無表情に死体を見ている"その人物"は躊躇することなく店に火を放った。


瞬く間に炎は店全体を包み込んだ。


____________



間違いなくそこはスイーツショップの"サンシェルマ"だった。


クロードとリリアン、第五騎士団が到着する頃には屋根や外壁は剥がれ落ち、店は原型は保たれていない。


店の近くには見覚えの無い"馬車"が停車してあった。

そして、ただ茫然と店の前で立ち尽くす2人の女性がいる。

確認するとザラ姫とクラリスだった。


すぐに第五騎士団の騎士である水の波動の使い手たちが鎮火させる。

さらに何事かと集まり始めた民衆を第五騎士団の団員たちが店に近づかないように対応していた。


クロードは鎮火されたサンシェルマの前に佇むザラ姫の背中を見た。

クラリスの横顔は"驚愕"といった様子だ。


だが、ザラ姫から発せられた言葉は少し違った。


「残念だわ……もう食べられないのね」


その発言は周囲にいた騎士団やリリアンも聞いていた。

ザラ姫に第五騎士団の団長であるユーゲルが近寄る。


「姫様!ここは危ないです。一度、アカデミアにお戻りを」


「ええ」


ザラ姫はクラリスと共に馬車へと乗り込もうとしていた。

クロードがそれを目で追うと、彼女は"一本のワインボトル"を大事そうに抱えていた。


____________



死体は店の玄関付近にあった。

クロードとリリアン、ユーゲルがそれを確認する。


焼け爛れてはいるが、性別、髪の色、衣服から見てサンシェルマの店主だろうと判断した。

よく見ると両腕が切断されているようだ。

床にはガラスの破片が散らばっている。


その死体を見たユーゲルはブルブルと震えいた。


「そんな……ホリー……まさか、またこんな……」


"ホリー"、それが店主の名前。

ユーゲルは焦げた店から頭を抱えて出て行った。

クロードとリリアンも後を追う。


夜だったが、店の前には多くの市民が集まっていた。

第五騎士団の団員は目撃者を探していたようで、集まった情報をユーゲルに伝えるべく女騎士が1人、走ってくる。


「ユーゲル団長……報告が……」


「ああ……何かわかったか?」


クロードとリリアンもその場にいた。

部下の前では気丈に振る舞おうと、ユーゲルは声のトーンは落とさなかった。

だが、女騎士の声は震えていた。


「ザラ姫がサンシェルマから出てきて、馬車に乗り込もうとした時に火の手が上がったと」


「なんだと……それは、ほぼ時間差が無かったということか?」


「ええ、そのようです……」


クロードとリリアンは顔を見合わせる。

疑う余地などない。

誰が見てもザラ姫の犯行だったのだ。


「姫様からも事情を聞こう」


「はい。馬は用意してあります。すぐにアカデミアへ」


「そうだな」


ユーゲルは振り返り、クロードとリリアンを見て口を開く。


「私たちは一旦、アカデミアに戻ります」


そう言うとすぐにユーゲルと女騎士は馬に乗って走り去った。


残されたクロードとリリアンは焼け焦げたサンシェルマを見る。

第五騎士団の調査は続いていた。


「ザラ姫が……やったというの?」


「現状では間違いないだろうね。この事件に他に犯人がいるとは思えない」


「確かに……しかし、これは……」


「何かあるのか?」


「二年前も同じようなことがあったのよ。私は噂程度にしか聞いていないけど」


「同じようなこと?」


「二年前もサンシェルマが火事になった。見つかった遺体には、やはり両腕が無かったと聞いたわ」


「犯人は?」


「最終的には強盗の仕業だろうと片付けたみたい」


「なるほど。だけど、よく他の町の事件を覚えてるね。それも二年前とは」


「ええ。ある騎士が妙な推理をしたと聞いて、私はそれが頭に残っていたのよ」


「妙な推理?」


「その騎士は"ザラ姫が犯人だ"と言ったらしいわ」


クロードは眉を顰めた。

それは本当に"妙な推理"だったからだ。

その推理が正しくても、間違っていても、二度も同じ場所で同じような犯行がおこなわれることは不自然だったのだ。

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