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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
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上がる火の手


リリアンはメイアに紹介状を渡した。

夕方ではあったが、ラズゥ家の紹介となれば体験入学手続きはスムーズに進んだ。


すぐに部屋が用意されたようで、メイアはアカデミアの東側に位置する女子寮に案内され、ここで一旦クロードと別れることとなる。


クロードはメイアに一つだけ助言した。


「沢山の人と会話して、いろいろなことを学んでくるといい」


「人と会話……授業ではなくてですか?」


「ああ。"上の者"、"下の者"との会話こそ、最も学べることが多いことだと僕は思うよ」


「私より"下の者"なんていないと思いますけど……」


「会話してみたらわかるさ。いや、メイアなら会話しなくてもわかるだろう」


クロードの言葉に首を傾げつつ、メイアは女子寮へと向かった。


____________



クロードはリリアンと共にアカデミア内にある応接間にいた。

広々とした作りの部屋で、大人数がくつろげるように細長いテーブルに椅子が等間隔で数十は置かれ、窓際には向かい合わせで3人掛けのソファまであった。


リリアンとクロードはソファに腰掛け、すっかり暗くなった窓の外を眺める。

応接間は四階にあり、簡単に街を見渡せた。


そんな中、最初に口を開いたのはクロードだった。


「ゲイン卿はいつ来るんだ」


「今日のはずよ。もうすぐ来るんじゃないかしら?」


「そうか。それにしても第二騎士団長まで来るとはな」


「どういうこと?」


「ここに来る途中に第二騎士団副団長のクラリスを見た。ザラ姫の護衛なのか?」


「そうね。ずっとゲイン卿が護衛をしていたのだけど、ここ最近なにか忙しいみたいでクラリス副団長が引き継いだみたい」


「なるほど」


「それで、あなたは何故ここに?」


「さっき理由は話したはずだが」


「あなたのことだから私と同じで裏があるのでしょ。メイアのアカデミア見学は口実で真の目的があるのではなくて?」


クロードは笑みを浮かべる。

この感の鋭さが彼女を気に入った理由の一つでもあった。


「ここに特別な武具があるはず。前回一度来たが見つけられなかった」


「ああ。六大英雄の一人、"ゼクス・コルティア"が使ったとされる武具のことかしら?」


「そうだ」


「それなら最近見つかったみたいよ」


クロードは眉を顰めた。

このタイミングでいきなり見つかるとは運がいいのか。

だが、リリアンの話にはまだ続きがあった。


「今回の闘技大会の優勝賞品になるみたいね」


「なんだと?」


「私はあなたのことだから、知っていてガイを闘技大会に出させたと思ったけど」


「知らなかった。それにガイは今、波動を使えない」


「なんですって?」


「話すと長くなる。闘技大会の出場は勝ち負け関係無くガイの成長を望んで勧めたものだったが、これは意地でも優勝してもらわねばな」


「ガイならやれるでしょう。それに今回は三対三のチーム戦みたいだから、ローラも一緒なら勝機はある。もう一人は……私が行こうかしら」


笑みを含んでリリアンは言った。


「それだと後でローラが怖いな」


「あら、どうして?」


「思いの外、ガイを気にいる女性は多いんだ」


「でしょうね。あれだけ真っ直ぐで、なおかつ勇敢とくれば。……だとすると、もう一人はどうするの?メイアは行けないでしょ」


「今のメイアはそのへんの貴族より強いんだがね。学校で色んな出会いをして見識を高めてもらいたい。そうなると僕が行くしかあるまい。あまり戦闘は得意じゃないが、この際は仕方ないだろう」


「そう」


リリアンは少し残念そうだった。

その時、突然、応接間のドアが開けられる。

入ってきたのは男性騎士のようだ。

少し赤みかかった、おかっぱ髪で軽装の鎧を着る優しそうな男性。

ひょろっとした痩せ型で年齢は三十代ほどだろうか。


「リリアン団長、ゲイン卿がお越しになってますよ。……おや、その方は?」


そう言いつつ、男性騎士団は2人が座るソファへと近づいた。


「この人は私の友人だよ」


リリアンは立ち上がり、クロードもそれに続く。


「ほう。冒険者の友人とは……まさか、彼が?」


「ええ。フィラルクスの事件を解決した、クロードよ」


「おお、噂に名高い六大英雄!会えて光栄です!私はユーゲル・ランバルト。第五騎士団団長を務めてます」


満面の笑みでそう語って手を出してくる。

クロードはその手を取って握手した。

だが実際、ユーゲルはクロードが本物の六大英雄とは思ってはいない。

それは、ただの社交辞令というものだった。


「大したことはないですよ」


「またまた、ご謙遜を」


相変わらずの笑顔で対応するユーゲル。

表情や体格から見ても、騎士団長とは思えないような人物だとクロードは思った。


「それはそうと、またザラ姫がわがままを言い出したようで。食事の用意はまだのようです」


「わがまま?」


「ええ。食事に合うワインが無いと買いに行かれました」


「こんな時間に?」


「ザラ姫のことですから、致し方ないかと……」


食通の間だけでなく王宮騎士団の人間、はたまた平民でも噂される話。

それはザラ姫は"食"には自ら動くということ。

決して人には頼まず、自分から"行って"、"見て"買うのだ。


この話にはリリアンも呆れ顔だった。


「あれほどワインを切らすなと言ってたと思うけど」


「それが、一ヶ月くらい前に買い占めがあってね。ちょうど姫の到着に間に合わなかったんだよ。別のをお出ししたがダメだった」


クロードは思考し口を開く。


「それならザラ姫が店に行ってもワインは無いんじゃないか?」


「まぁ一本くらいはという希望なんだろう。さほど遠くもない場所だし、すぐ戻ってくるさ」


「そうか」


クロードが納得したように言って、ユーゲルの表情を伺おうとした。

しかし、ユーゲルが見ていたのはクロードではなく窓の外だった。


「なんだあれ」


ユーゲルの不意な言葉にクロードとリリアンは窓の外を見た。

すると暗闇の中に、ゆらゆらと真っ赤な炎のようなものが上がっている。


瞬間、応接間のドアが勢いよく開いた。

入ってきたのは女性の騎士のようだ。


「団長!大変です!姫様の向かわれた方から火の手が!」


「まさか……"サンシェルマ"なのか」


ユーゲルから笑顔が消え、顔面蒼白になる。

顔を見合わせるクロードとリリアン。

2人は第五騎士団と共に火災が起こった場所へと急いだ。

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