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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
大迷宮ニクス・ヘル編
48/250

現状


ナイト・ガイのメンバーは荒地のアダン・ダルと呼ばれる町に到着した。


ここは大都市と言われたフィラ・ルクスほどではないが大きい町だ。

家屋のほとんどは石が積み上げられて作られており、この地方ならではといったところ。


荒地の中でもかなり奥の方にあるせいか、砂の量も多く、草木のほとんどが枯れている。

風が吹くと砂が高く舞い、全く湿気を感じさせない空気感だ。


町全体は茶色がかり、それが特徴的でもあった。



町の入り口付近に周囲を見渡す4人の姿があった。

その雰囲気にガイが眉を顰める。


「なんか……危機感がない気がするんだけど」


「ええ。平和そのものって感じね」


「ほんとに強い魔物とかダンジョンとかあるの?」


ガイ、メイア、ローラは困惑していた。

町に着いたのは夕方頃だったが、それでも人の通りはそれなりにあった。

時が止まったかのようなゆったりとした時間が流れている……そういう印象を受けた。


「まぁ、とにかく今日は休んで、明日の朝にギルドに行こうか」


「そうだな」


4人が歩きかけたその時、ドンと背後で音がした。

それはローラの後ろから聞こえた。


「きゃ!!」


「どうした!?」


みなが後ろを振り向くと、そこには少年がいた。

少年はローラのお尻を触れたようだった。

見ると少年の年はメイアよりも下だ。

ブラウンの髪に綺麗な布服を着ていた。


「なにすんじゃボケ!!」


ローラの怒声が響き渡ると、少年はニコニコと笑い町の方へと走り去って行く。


「こら!待て!!」


「いいだろ、尻くらい」


「よくないわよ!!私のお尻は高いのよ!!」


そう言ってローラは少年を走り追いかけていった。


「ガイ。レディに失礼だぞ」


「あいつはレディって感じか?」


「女性は大事にするものだ。それに"親しい中にも礼儀あり"さ」


クロードはそう言って笑みを溢すとローラを追いかけるため歩き出す。

メイアはガイの顔を見てため息をつくとクロードの後を追った。


「なんだよ。メイアまで」


ガイは1人、夕日の中で取り残されるのだった。


_____________________



少年が入って行ったのは町の中央広場に雑貨屋だった。

日は沈み、あたりが暗くなる中で、この雑貨屋はあかりを灯して営業しているようだった。


「あのクソガキ!とっちめてやるわ!」


ローラが店の前で意気込んでいるところに、クロードとメイアが追いつき、その後ろからガイが走ってやってきた。


「あまりことを大きくするなよローラ」


「クロードは甘いのよ!これは一種の犯罪よ!」


「ローラさん……相手は子供ですから」


「メイア。こいうのは子供の時から躾けておくものなの!」


ローラは鼻息荒く店へと入っていく。

カランと来客を知らせる鈴の音鳴ると、店の奥から女性の声がした。


「いらっしゃい!」


奥のカウンターから顔を出したのはブラウンの長い髪の優しそうな、少し古びたワンピースを着た女性だった。

年はローラと同じくらいだ。


「何かお探しですか?」


「ええ!ここに子供が入っていった気がしたけど!」


「え?ああ、ジョシュアのことかしら?あの子がなにか?」


「私のお尻触って逃げてったのよ!」


ローラの言葉に女性は驚く。

そしてすぐに頭を下げた。


「すいません!私の弟が!」


「弟?」


そんなやり取りをしていると、カランと鈴が鳴る。

4人が振り向いて入り口を見ると、そこにいたのは少し古びた服を着た体の大きいブラウンの短い髪の男性だった。


「ケイト、どうしたんだ?この方たちはお客さんかい?」


「お父さん!」


この男性はケイトと呼ばれた店番の女性とは親子だった。

ケイトは男性にあらかたの事情を手短に話していた。


「それは申し訳ないことをしたね。謝るよ」


「いえ、まぁ大丈夫ですけど」


「私はドミニクという者です。お詫びと言ってはなんですが、この店にある物を半額でお譲りしますよ」


「あの、そこまでしなくても……」


ローラの顔が少し引き攣った。

確かに謝ってもらうために追いかけてきた。

ただそれだけであって、それ以上は求めてはいなかった。


「いいんですよ。あまり売れないですから」


「あまり売れない?」


「ええ。なぜかわかりませんがね」


「……」


「それよりもジョシュアはどうした?」


ドミニクは娘のケイトに向き直る。

ケイトはその質問にため息をつき答えた。


「二階よ」


「そうか」


ドミニクは呆れ顔で頭を掻く。

その表情は何かを諦めている様子だった。


「僕たちはこれで失礼します」


「え?」


「せっかく半額でいいって言ってるだし、買っていったらいいんじゃない?」


「どうせ明日の早朝に西の遺跡に行くんだ。その前に来てもいいだろ」


「そうね……」


クロードはローラの歯切れの悪い返事を聞くと、無表情に入り口のドアへ向かって歩く。


それを止めるようにドミニクが口を開いた。


「あなた達は明日、西の遺跡に行くんですか?」


「ええ」


「そうですか!頑張って下さい!」


ドミニクは満面の笑みだった。

その表情を見たクロードが困惑する。


「……この町に来てから気になっていたのですが、なぜ近くの遺跡に魔物がいるというのに、ここまで平然としているのです?もしかして魔物は倒されたとか?」


「討伐はまだのはずですよ。まぁ、次から次へと冒険者なら来ますから、いつか攻略されるでしょう。その安心感からかな」


「なるほど」


「そろそろ店じまいをしますので、また明日」


「ええ」


笑顔のドミニクに促され4人は店を出た。

店の窓にはカーテンがされ、中は見えなくなった。

店の前でクロードが少し考え事をしていた。


「どうしたんだ?」


「いや、恐らく明日ギルドに行けばわかるだろう」


「何がだよ」


「この町の現状だ」


ガイとメイア、ローラは顔を見合わせて首を傾げる。

4人は宿へと向かう。

宿はありがたいことに空いており、すぐに部屋を用意してもらった。

みなは、そのまま旅の疲れからか何事もなく眠りについた。


__________



ナイト・ガイのメンバーは早朝、町のギルドへ向かった。

依頼を受けた後、昨日行った雑貨屋で買い出しをしてから西の遺跡を目指すという予定だ。


ギルドまでの道のり、町の住民と多くすれ違った。

みなが無表情で歩く姿に違和感を覚えつつもギルドに到着する。


ギルドも石が積まれた作りで二階建ての大きい屋敷のようだった。

ドアを開けて4人はギルドへ入る。


「ん?……なんか冒険者少なくないか?」


「そうね。みんな西の遺跡かしら?」


ギルドにいたのは、前の町の酒場にいた数人の冒険者。

この状況がなにを意味しているのかに気づいているのはメイアとクロードだけだった。


「おかしいですよね……」


「メイアも気づいたか」


ガイとローラは首を傾げる。

何がおかしいのかわからなかった。


「どこがおかしいのよ?」


「今は早朝だが、確かにダンジョン攻略に行ったと考えれば辻褄は合う」


「だけど、それにしても冒険者が少なすぎるんです」


「昨日、雑貨屋のドミニクが言っていただろ。"冒険者は次から次に来る"と。かなりの数の冒険者がこの町に来ていることは間違いない。じゃあ、僕らの前に来ているはずの冒険者たちは全員ダンジョン攻略へ行ったのか?」


「んー、宿かしら……?まだ寝てるとか」


「この町で宿は一つしかない。その宿にいたのは僕らと今そこのカウンターにいる冒険者だけだった。"昨日の夜の時点"でだ」


「じゃあ、他の冒険者たちって……」


「恐らく……行ったきり、戻ってきてないんだ」


ガイとローラは絶句した。

何日戻ってきていなのかはわからない。

だが、前の町で酒場のウェイターが言っていた言葉が頭をよぎった。


"魔物を追い詰めた冒険者もダンジョンに入ってから半年出てきていない"


それが、この町と西の遺跡の現状であった。

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