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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
英雄達の肖像編
32/250

水蓮拳


ゼニアは"あり得ない"と思っていた。


それは波動数値たった"7"の少年が放つ炎の熱量もさることながら、今さっき目の前で見せつけられた"瞬間移動"だった。


波動は属性変換することで、それぞれの属性を具現化して放つことができる。

確かに波動の自由度は高い。


属性の形は変えられる。

身にも纏える。


だが、それだけなのだ。

波動が身体に影響を及ぼし、体を強化して"瞬間移動"のようなことをするのはあり得ない。


ゼニアが使う拳は鍛錬を重ねて培われたもので波動は一切関係が無いが、この少年の場合は違う


数十メートル先に立つ、ガイ・ガラードという少年は確実に"波動を利用して瞬間移動"した。

体を包んだ炎の幻影はカモフラージュ。

自分が殴ったのはガイという少年で間違いはない。

それは拳に残った感覚でわかる。


「どんな手品なの?」


ゼニアはそう呟くしかなかった。

ガイという少年の頑丈な体もそうだが、それ以上に謎の波動属性変換能力。

たった波動数値が"7"しかないのに、この波動圧。

どう考えても自分と"同等"か"それ以上"と考えなければ説明がつかない。

ゼニアの頭はグルグルと様々な思考で混乱する。


今、言えることはただ一つ。

この少年は只者ではないということだった。


「ここから本気でいくぜ……」


ガイの赤く染まった鋭い眼光。

右の腰からダガーを引き抜くと、逆手に持って後ろに構える。


ゼニアの警戒心は最高潮に達していた。

無意識に足を開き、左拳を前に、右拳を腰に構えて慣れたバトルスタンスをとる。

重心は中央。

どんな攻撃が来たとしても耐えられるように、しっかりと姿勢を落とした。


「いくぞ……!!サラマンダーァァァァ!!」


ガイが地面を蹴った。

その瞬間、後ろに構えた逆手持ちのダガーで地面擦るように振り上げまる。

地面にバチバチと火花が上がり、振り上げと同時に地面を抉るように一直線に炎がゼニアへ向かって走った。


「なんという……禍々しい炎……」


スピードは高速。

炎は瞬く間にゼニアに到達する。


水蓮拳すいれんけん……海柱かいちゅう


ガンドレットに付いた青い波動石が光り、ゼニアはそのまま地面に右拳を打ちつけた。

するとゼニアを包み込むように水の竜巻が起こり、それは天まで伸びる。

サラマンダーの炎は水の竜巻に激突した瞬間、V字に割れ、ガイの炎は消えた。


その後すぐに水の竜巻も消える。


「"海柱"を消すほどの炎……今まで一度も掻き消されたことはないのに……」


体勢を立て直すゼニア。

目の前に、ガイの姿があった。

またしても瞬間移動。


「"瞬炎絶走しゅんえんぜっそう"!!」


「なるほど。やはりそうくるのね」


ニヤリと笑ったゼニアは正面を向いたまま、足を肩幅に広げると両拳を腰に構える。

そして、すぐに両拳を目の前で打ち合わせた。


水蓮拳すいれんけん荒波あらなみ


周囲に甲高い金属音が響き渡ると、今度は巨大な水の竜巻がガイとゼニアを包むようにして巻き起こる。

その竜巻は高速で内側へ縮むと、両者を飲み込んだ。


そこは完全に水中。

ガイはジャンプして逆手持ちのダガーでの横切りを振り抜こうとしていたが、その動きは極端に遅くなっていた。


「これを使うのは久しぶり。いつ以来かしら?」


そう言って笑みを溢すゼニアは、水中ではあり得ないほどのスピードで動いた。

ゆっくりと振り抜かれたダガーを目で追いつつ、体勢を低く、前に踏み込んでガイの懐に入り込んだ。


ハイスピードの左のボディブロー。

右のショートアッパーで顎を打ち、そのまま右回転してガイの顔面にハイキックをヒットさせる。


吹き飛んでもおかしくないような衝撃だが、周りは水中で、ガイの体は異様にスローモーションになる。


この水中での戦いはガイの"炎の幻影"を封じるためのものだった。

水の中で炎を起こすことは不可能……という常識的な考えが、ゼニアをこの戦略へと導いた。


「私に波動を使わせるだけじゃなく、"水蓮拳"も出させた相手は、そういない。誇っていいわ。あなたは強い」


そう言いつつ拳を正面で再度打ち合わせると、水はゼニアを中心として割れ、ガイの体は地面に落ち、水も消えていった。


ゼニアは完全に勝利を確信したのか、笑みを溢す。


「もう少しだったのに惜しかったわね。でもローラが羨ましいわ。こんなに健気けなげな王子様に愛されるなんて」


「ガイ……」


ローラの表情は悲しみに満ちていたが、それは自分のために戦ってくれたガイを思ってのことだった。


ゼニアは倒れているガイに近づく。

だが、距離を詰めていくほど妙な違和感を感じた。


「なぜ……まだ髪の色が発光しているの?」


その瞬間、ガイの背中にあった2本のダガーが炎を纏い、自動的に引き抜かれると高速回転を始める。

そして一気にゼニアへ向かって飛んだ。


「意識が無いのに波動を発動させられるですって!?」


ゼニアはすぐにクロスガードで防いだ。

回転する2本のダガーはゼニアのガンドレットの金属部分を削っていく。


"あり得ない"……そんな思いだった。

ゼニアの武具である"ドラゴン・ハート"は世界でも珍しい、特殊な金属で作られた特注品。

普通なら傷すらつかない。


だが、高速回転し炎を纏ったダガーは明らかにガンドレットを少しづつ削っていた。


「なんというパワーだ!!」


回転したダガーはゼニアをさらに押す。

ダガーが纏う炎は凄まじい高熱となり、それが熱波として周囲に広がると、炎の竜巻に姿を変えてゼニアを包み込む。


炎柱えんちゅうは天をも貫くほど高く伸びた。



__________




七炎


一の炎 "サラマンダー"(土抉りの炎)

二の炎 "ファルコン"(自衛の炎・無意識発動)

三の炎 "瞬炎"(派生が3つ存在する移動技)

四の炎 ???

五の炎 ???

六の炎 ???

七の炎 ???




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