エピローグ
世界を影から操っていた"死の王"の討伐。
それはこれから生まれるはずの魔王、魔物を全てを駆逐したことを意味する。
成し遂げたのはガイ・ガラードという少年がリーダーを務める冒険者パーティの"ナイト・ガイ"だ。
低波動、少人数、子供の集まり、様々な言われようだった"最弱パーティのナイト・ガイ"はこの一件により駆け出し冒険者の憧れとなった。
もちろんガイはセルビルカ国の王からはS級冒険者の称号とミラ姫との婚約を提案された。
しかし、なぜかガイはこれを断った。
その理由は誰も知る由もない。
ミラは少し残念そうな顔をしたが恐らく彼女にはわかっていたのだろう。
もちろんガイが断った理由もだ。
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王都を守った英雄たちは魔物がいなくなったこの世界において、それぞれの道を歩んでいた。
カトリーヌ・デュランディアは片腕を失いながらもS級冒険者を続けた。
しかし数年ほどして戦闘に限界を感じ、引退することになる。
それは南の辺境の村に住んでいる"赤髪の青年"と戦って負けたことが決め手になったという噂だ。
ルガーラ・ルザールはA級冒険者として数々の功績をあげた。
様々な地下ダンジョンを見つけては攻略して珍しいアイテムを発見し続ける。
10年ほど後には王宮騎士団に協力するかたちで波動犯罪者たちを取り締まる側となった。
レイ・リンクラーは北のヨルデアンから少し南下した場所に小さな集落を作る。
ブラック・ラビットの残りのメンバーと共に小さな孤児院を開き、旅先で恵まれない子供を見つけては支援した。
数年経つと集落は村となりレイは長になった。
"とある名家の貴族"からの援助もあって子供たちの多くが救われた。
エリザヴェート・ダークガゼルガは行方不明だ。
どこにいるのかは誰にもわからず。
もしかすれば、この世界でないどこかにいるのかもしれない。
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大都市フィラルクス
雲一つない快晴。
町のはずれ、小高い丘の上にある野原には無数の石碑が立ち並んでいた。
一番の奥に一際目立つ大きな石碑がある。
その前に立つ、1人の女性。
白のキャミソールにホットパンツを穿いた、短い青髪の女性だった。
手に持っているのは青色を基調とした花束。
"ローラ・スペルシオ"
貴族第二位の家柄の三女だ。
「ゼニアお姉様……」
石碑に語りかけるように呟く。
その表情は悲しげでありながら、何か大事を成し遂げたようだった。
「お姉様が亡くなられてから数ヶ月。あたしはその理由を知りました。私やカーラお姉様のためだったのですね」
ローラは片膝をつくと石碑の前に花束を静かに置いた。
「でも……もう大丈夫ですよ。カーラお姉様は頭がいいですし、あたしなんて世界最強クラスの波動使いなんて言われました」
そう言いつつ笑みを浮かべる。
さらに続けてローラは言った。
「今ならお姉様にだって勝てるかも……いえ、冗談です。あたしもまだまだ精進しないと」
ローラの頭の中にあったのは北でのオルディオ戦だった。
波動が使えないとなった途端、あっさり負けてしまった。
「これからまた旅に出るつもりです。またひとりぼっちで仲間はいないですけど、いいパーティに巡り合いますよね。じゃあ……花嫁修行に行ってきます!」
こうしてローラは再び長い旅にでることになる。
ローラの旅は10年ほど続き、その際に執筆した『大冒険者・ローラの旅路』は貴族や平民の間でも大いに売れた。
旅の途中、立ち寄ったベスタでガイと再会するが、滞在中に些細なことで喧嘩になってそれから会っていない。
気になるローラの結婚相手だが10年経った今も未だに見つかっておらず、本人もその気がないようだ。
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ガイ、メイア、ヴァンのガラード兄妹はベスタに戻ってきた。
旅に出てから、どれだけの時間が流れたのだろうか?
村の様子は全く変わりなく、農作物の収穫時期が近づいてきているのか黄金色の風景が眩しくて目を細める。
彼らの家は村の中央付近にあった。
小さな平屋の家だ。
外で作業する女性が目に入る。
「母さん!」
叫んで走り出したのはガイだ。
振り向く母親は何が起こったのかわからなかったが、自分の子供たちの姿を見て涙した。
ヴァンは母親に近づくと申し訳なさそうに頭を掻く。
「ごめん。親父の死に際に一緒にいれなくて」
「いいのよ。無事だったのなら……本当によかったわ」
その言葉にヴァンは頬を紅潮させた。
何年も会っていない母の姿は少しシワが増えたように見える。
自分のせいで苦労させたのだろうと思うと自然と涙を目に溜めた。
母親は涙の中それぞれに視線を送る。
「ガイもヴァンも大人びたわね。メイアは変わらないみたいだけど」
そう言って笑みを浮かべる母。
白のローブ姿のメイアは旅に出た時と全く変わりない姿だった。
長い赤髪のポニーテールに耳には真紅色のイヤリングをしているが、なにか背伸びしているような印象だ。
メイアは何も言わずに少しだけ笑みを溢した。
やはりミラ姫のワイルド・スキルの影響があるようで、ここまで来るまでずっと"頭の中がモヤモヤする"と言っていた。
「みんな疲れてるでしょ。中に入って休むといいわ」
「ああ。俺、腹減ったよ」
言ったガイは身構える。
いつもならメイアの厳しい指摘が飛んでくるからだ。
しかし、それは無かった。
心配そうな皆の視線がメイアに向かうが、本人は大丈夫だと答えた。
ここから数ヶ月ほどでメイアは普段通りになる。
何年かした後、イース・ガルダンのアカデミアへと再び入ることになったメイアは自分の道を歩んでいるようだ。
ヴァンはメイアのアカデミア入学を見届けてから旅に出ることにした。
誰も行ったことがないという北の山脈を越えた先を目指したのだ。
それでも父親の命日の墓参りには欠かさず毎年足を運んだ。
ガイはこのままベスタに残った。
恐らく今回の旅が一生分の経験だと感じたのだろう。
ときよりベスタという村にいるという"世界最強の男"への挑戦として上位の冒険者が立ち寄ったが全員返り討ちにした。
そして何年かして村の娘と結婚したガイは3人の子供に恵まれて静かに暮らすことになる。
こうして"小さな村の少年ガイ・ガラード"の夢にも似た長い旅は幕を閉じた。
死の王編 完
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の王編 完
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王編 完
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編 完
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完
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十数年後
王宮騎士団の団長である7人は王城の、ある一室に集まっていた。
中にはリリアン・ラズゥの姿もある。
長かった紫色の髪はバッサリ切り、ショートカットになっていた。
それぞれが緊張の面持ちで円卓に着く。
円卓で空いているのは"2席"だけだ。
誰も気にする者はいないが、時計の12時を北とするならちょうど4時にあたる席だ。
誰も口を開こうとはしないが皆は薄々、気づいていた。
今からおこなわれるのは"新第一騎士団長"の就任の挨拶だろう。
そして集まってから数十分後、その時がきた。
ドアが開かれ、2人の騎士が中に入ってきた。
1人はゲイン・ヴォルヴエッジ。
その前を歩くのは全身をスマートな銀色の鎧で身を包み、頭を全て覆うほどの冑を被った騎士だった。
ゲイン・ヴォルヴエッジが第一騎士団長じゃないのか?
全員がそう思って視線を"銀の騎士"へと向ける。
恐らく、この人物が新しい第一騎士団長なのだろう。
2人は円卓の横を通って上座へと向かう。
その時、リリアンは眉を顰めた。
銀の騎士とゲイン・ヴォルヴエッジが通り過ぎた時にした匂いに嗅覚を刺激されたのだ。
(これは……"サンスベリアの香水"?)
それは明らかに"銀の騎士"から放たれている香りだった。
ゲインは後ろに立ち、"銀の騎士"は真紅のマントを靡かせてながら席についた。
そして一言、
「さぁ、会議をはじめましょうか」
顔は見えないが笑みを含んだような声色だった。
その声からして間違いなく''若い女性"だ。
リリアンは思考していた。
どこかで聞き覚えがある声だ……
どこだろう……
どこで聞いた?
多分、何年も前のことだ。
さらに思考をしていくリリアンはようやく"銀の騎士の声"と"ある人物の声"が重なって驚愕する。
そう……"古の六大英雄"の中に、出会ってきた全ての人間を操って自らの目的を達成した裏切り者がいたのだ。
最弱パーティのナイト・ガイ 完
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