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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
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ふたりの愛の行方


ゲイン・ヴォルヴエッジは王城の廊下を静かに歩く。

窓の外は夜の闇が広がり、さらには暗雲から雨が溢れ落ちて石床を濡らしていた。


クラリスにミラ姫を任せ、向かった先は王城の一階にあるゲストルームだ。

あるじであったアデルバート第一騎士団長から頼まれた"最後の大詰め"のため、目的の人物に会わなければならない。


ゲインは世界の現状をどこまで知っているか?と問われれば"ほぼ全て"と答えるだろう。

この国の王である『アラン・セルビルカ』は数年前から体調を崩して寝たきりだ。

王女との婚約条件であるS級冒険者、つまりナイトの称号を考えたのもアラン王であった。


王家の血筋を気にしてのことだが、第一王女である"ザラ姫"は魔を生み出す高魔。

王はその事実を知らず、逆に光のワイルド・ナインである"ミラ姫"の未来を予知する能力をひどく恐れた。


アデルバート騎士団長はこれらの事を全て利用することを考える。


全て計画通り……と、ならずとも思い通りの結果へ向かっていることは確かだった。

"死神討伐計画"の犠牲者は多い。

だが、この先の平和のためにはやむおえない犠牲だろう。


今思えば周囲からどう見られていたかはわからない。

ゲイン・ヴォルヴエッジは自らの感情をも凍らせて、第一騎士団長と共に"終幕"を目指していたのだった。



過去を思い出しつつゲインは一階に降り、怪我人が多くいる広間を抜けゲストルームがある廊下へと入る。


すると目の前から歩いてくる1人の女性がいた。

その女性はゲインと目が合うや、驚いた表情をした。


「リリアンか」


「ゲイン団長……なぜここに……」


近づくにつれてリリアンの緊張が増すのが伝わってきた。

明らかに警戒されている。


だが構う事なくゲインは彼女の目の前まで足を運ぶと、すぐに口を開く。


「彼は無事か?」


「……え?」


リリアンは一瞬、困惑して眉を顰めた。

なぜゲイン・ヴォルヴエッジが"彼"を心配しているのかわからない。


「"怪我は無いか"と聞いている」


「は、はい。大丈夫です……ですが仲間に裏切られたことがショックのようで今は動けません」


「そうか。なら会っても無駄だな」


「……どういう意味でしょうか?」


ゲインはその問いに答えず、おもむろに腰につけてあった"白い小袋"をリリアンに差し出した。


「これを彼に見せなさい」


「これは?」


「見たければ中身を見たらいい」


リリアンは"白い小袋"の中を開けて覗くようにして見た。

しかし、その中身には心当たりがない。

いや、どこかで見たことがあるような……そんな気がした。


「それを彼に見せて、なんの反応もなければ二人でどこか遠くへ行って一緒に暮らすといい」


「え……?」


「だがもし、彼が()()に何らかの反応を示したのであれば、すぐに私の書斎へ来なさい」


「一体どういうことなのか……」


「これについて説明するかどうかは"彼"次第だ」


それだけ言ってゲインは廊下を戻るようにして歩き去った。


残されたリリアンは様々な思考が駆け巡る。

"袋の中身"が何の意味を持つのかはわからない。

もしもガイが立ち直る突破口になるなら……だが、よからぬことも頭をよぎる。


"袋の中身"を見せずに隠してガイと一緒に誰も知ってる人間がいない土地で暮らす……そんな未来も想像してみる。


考えが止まらぬリリアンはただ立ち尽くし、ゲインから渡された"白い小袋"を握りしめていた。


_________________



あてもなく王城を出るローラ。

湿気と肌寒さを感じるが、ひたすら真っ直ぐ、雨降る中を止まる事なく走る。

城の前にある階段を勢いよく下りて、そのまま破壊された広場を抜けた。


そして、誰かの背中にぶつかった。


「おっと」


押された"誰か"はよろめくが倒れず。

ローラだけが後方に倒れ込んだ。

前を全く見ていなかったため、ぶつかってしまったのだ。


「ご、ごめんなさい」


「お前……」


ローラは倒れ込んだまま見上げるようにして、ぶつかってしまった"誰か"を見た。


そこにいたのは、ここまで一緒に旅をしてきたガイの兄、ヴァン・ガラードだった。


「お前、ガイに会うんじゃなかったのか?」


「あ、あたしは……」


ローラはこぼれ落ちそうな涙をうつむき隠した。

この男の性格なら、どうせ馬鹿にするに違いない。


そんな思いに反してヴァンはローラに無言で手を差し伸べる。

ローラはその手を取ると彼の力を借りて起き上がった。


「あなたこそガイと会って話するんじゃないの?」


「今は話せる状態にない」


「どういうことよ。まさか……メイアとクロードのことで?」


「ああ。仲間に裏切られるってのは、かなり心にダメージがあるものだ。それが信頼してた者であればあるほどな」


「でもメイアまでなんて……」


「俺は何か裏がある……と信じたい。ずいぶんと長い間メイアとは話をしてないが、あいつは子供の頃から頭が良かったからな」


「それって、わざとクロードと一緒に行ったってこと?」


「それはわからん。もし、そうでないにしても俺はメイアを迎えに行かなきゃな。これは俺から始まったことだから」


「でもガイ宛の手紙ってあなたが出したわけじゃないんでしょ?」


それはガイとメイアが旅に出るきっかけになった『ロスト・ヴェローにいる。助けてくれ』という内容の手紙だ。


「その手紙を出したのは"あの男"だ。パーティになって一緒に旅をした時にガイとメイアの話をしてる」


「でも、なんでそんなこと?」


「こいつを取り戻すためだろう」


そう言ってヴァンはローブを少しめくって腰に差した"漆黒の中型の杖"を見せた。


「これは"あの男"の武具だ。恐らく俺をおびき出すためのエサに兄妹を使おうと考えた」


「確かクロードは武具を奪われたって言ってたけど……奪ったのってあんたなの!?」


「俺は"あの男"に勝ちかけたんだよ。だがギリギリのところで逃げられた」


「それならメイアも簡単に取り戻せるかもしれないわね!」


ローラは希望が見えたようで嬉しくなった。

あのクロードに勝ちかけたとなれば、今回行けば勝機があると言っても過言ではない。


しかし、ヴァンの表情は暗かった。


「事はそう簡単じゃない。"あの男"は以前の俺のパーティリーダーを殺して生き返らせたようにメイアにも同じ事をした」


「どういう意味?」


「メイアはもう死んでる。"あの男"のスキルで生かされてるだけだ。ヤツを倒すということはメイアを殺すということなんだよ」


「そ、そんな……」


「それに"あの男"のスキルは以前より増えてるようだ。今回、その全てを駆使されれば戦って勝てるかどうかわからん」


それでも行くのか……と言いかけたがローラは口を閉じた。

もはや愚問といってもいい。


「まぁ、だが行かないことには始まらないからな。ガイのことを頼むよ」


そう言ってヴァンはその場を去ろうとした。

ローラはそんなヴァンに叫ぶように言った。


「あたしも行く!」


「はぁ?」


「あたしもメイアを迎えに行くわ。何か役に立てるかも」


「おいおい、無理はするな。君には関係ない話だ」


「メイアは大事な友達なのよ!いっぱい助けてもらった!励ましてもらった!今度はあたしが助ける番なの!」


「……そうか、メイアはいい友達を持ったな」


ヴァンとローラは一緒に笑みを浮かべる。

こうして2人は共に王都を出ることになった。


目指すは北の山脈にある闇の古城。

メイアを救う作戦があるわけでもない。

ただ、わずかな希望だけを抱いて"最後の旅"へとおもむくのだった。

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