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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
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第四の愚行(1)


王城内でおこなわれた迅速な救護によって、大事にならなかった怪我人は多くいた。


その指揮をとったのは第二騎士団副団長である"クラリス・ベルフェルマ"だった。


クラリスの専攻は医学。

武の方はめっきり……と言ってしまうほどではないが他の騎士には明らかに劣っている。

イース・ガルダンのアカデミアに入学して様々学んだが、そこでは全ての科目を網羅するほどこなせなければ実力無しと判断される。


特に騎士を目指すなら波動の使い方によって優劣が決まるといっても過言では無いが、クラリスには全くその才は見られなかった。



クラリスは城に敷かれた赤絨毯にいる怪我人達を見た。

正直、アカデミアでは劣等生と言われたが、まさか自分が好きで突き進んだ医学が役に立つ日が来るとは思いもよらなかった。


手当てもひと段落してクラリスは長い金色の髪を掻き上げた。

すると達成感の中、いつものように過去の様々な思考が駆け巡る。


"この時間が一番嫌いだ"


何かやるべきことが終わった後に思い起こされる辛い記憶。


「私のせいよね」


"お前のせいだ"と常に頭の中に響く声。

それに対して自分で納得するように呟く言葉。


イース・ガルダンで起こったザラ姫殺害事件は彼女にとって衝撃以外の何ものでもない。

あれは悪夢と言っていいほどの出来事。


ちょうどザラ姫の警護を任された自分が不在の時を狙った犯行だったようだ。

不在の理由は第二騎士団長のゲインと共に、サンシェルマ放火事件の犯人を王都まで護送するための手続きをおこなっていた。


なぜかザラ姫の部屋の前に立たせていた部下の警護兵が2人とも倒れ"寝ていた"という。

(2人とも我を忘れて夢の内容を興奮気味に語っていたのが印象的で、形容するなら"ファンタスティック・ドリーム"だったとのこと)


これは完全に自分の監督不行であり重罰も覚悟したが、不思議なことに警護兵含めてクラリスは一切のお咎めがなかった。


クラリスは疑心がつのった。

死んだのは一国の姫であるのにも関わらず、この対応。

前回のサンシェルマ放火事件の犯人をザラ姫だと言ってたばかろうとした騎士の処分も極刑でなく左遷。


しかし、なぜ姫を殺す必要があったのか。

サンシェルマ事件の犯人の動機は"復讐"だったようだが、それは失敗に終わっているし、そもそも見当違いだ。


「もしかして……"アレ"が原因なの?」


クラリスはすぐに考えを止めるため首を横に振る。

ザラ姫のやっていた"ある奇行"を思い出そうとしたが吐気がしてすぐやめた。


()()がザラ姫殺害に関係したことなのか、それとも他に何か理由があるのかは今となっては定かではない。


何よりも不可解なことは自分の"配属変更"のことだ。


クラリスは元々、第四騎士団所属。

成績もあまりよくなかったという理由もあるが、北方に配置されている第四が炎の波動使いを欲しがったということで配属が決まった。


そして第四騎士団が巻き込まれたロスト・ヴェロー事件以降、壊滅状態となった第四は解体され、ほとんどの騎士が同じ北の警護をしている第三騎士団へと配属になる。


しかし、なぜかクラリスだけは王都に呼び戻されて第二騎士団副団長に任命という大抜擢だった。

これには家族も弟のクラウスも喜んだ。

ヴォルヴエッジ家の長兄が指揮する部隊、さらには副団長となれば親も鼻が高い。


しかも初任務がザラ姫の警護という大任。

困惑と緊張が入り混じる中、クラリスはいっそう身を引き締めたのを今でも思い出す。


自分の何かしらの能力が必要だった?

色々と考えてみるが思い当たる節がなく、クラリスは少し首を傾げた。



クラリスが思考していると開かれた王城の門を通り、ぞろぞろと数人の騎士たちが入って来た。


その先頭に立っていたのは第二騎士団長ゲイン・ヴォルヴエッジだった。

何やら入り口付近にいる騎士に話しかけて会話している。

それが終わるとゲインだけがクラリスの方へと歩いてきた。


「ご苦労。的確で迅速な対応だったな」


「恐縮です」


ゲインの言葉に緊張感が増す。

一気に周囲の空気が張り詰めるような感覚になった。


「君だけ来てほしい」


「どちらへ?」


「来ればわかる」


ゲインは多くは語らず、王城の奥へと進み、それにクラリスは続いた。

向かった先は城の二階、王室の方であった。

どこまでも長い廊下、ゲインの後ろを歩くクラリスは視線だけ動かす。

騎士団長……いや、高位の貴族ですらも入ったことのない領域に足を踏み入れる。

そんな状況にクラリスは次第に胸の高鳴りを感じ始めた。

高揚なのか恐怖なのかハッキリしない感情だ。


そしてゲインはある部屋の前で立ち止まる。

部屋の前には重厚な鎧を纏った2人の騎士が立っていた。


ゲインは神妙な面持ちで騎士に話しかける。


「ご苦労。部屋にいらっしゃるな?」


「はい。ずっと寝ておられます」


「そうか……」


ゲインは今まで見せたことのない暗い表情に変わるとドアノブへと手を掛け開けた。


中に入ると様々な装飾が施された豪華な作りの部屋が目に飛び込んでくる。

カーテンは閉め切っているが、大きなシャンデリアに蝋燭の火が灯っており部屋はとても明るい。


ゲインは奥の天蓋ベッドへと向かう。

躊躇しながらも後を追うクラリスはベットに横たわった女性……いや少女の姿を見る。

額に包帯が巻かれた"桃色の髪の少女"だった。


「"この方"の警護を君に頼む。意識が戻るまでだ」


「まさか……こちらの少女は……」


「この国の第二王女の"ミラ姫"だ」


「だ、第二王女……?ですが王の子はザラ姫だけだと伺っておりましたが」


「少し訳あって身を隠していた。このことは()()()()に」


「え、ええ……」


何がなんだかわからず、クラリスは眉を顰めてミラを見る。

確かに、どこかザラ姫に似ている気がした。


「では頼むよ」


「は、はい。ゲイン団長はどちらへ?」


「会いに行くんだ。"まだ名も無き英雄"にね」


ゲインは無表情でそう言うと部屋を出て行った。

残されたクラリスは再びベッドで眠るミラに視線を向けた。


そしてゲインの言った、"ある言葉"に脳が刺激されたのか過去を思い起こす。


「そうだ……これが始まったのはロスト・ヴェロー事件のもっと前のことだ。あの時、私たち全員に対して第一騎士団長の取り調べがあった。あれからだわ」


色々なことがありすぎて忘れかけていたこと。

これは第四騎士団に所属している騎士全員を巻き込んだ、ある事件調査の取り調べから始まっていた。

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