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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
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愛する人(2)


王城の門は開け放たれ、奥まで真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯の上には多くの人がいた。


平民、冒険者、貴族、騎士。

怪我人が多くおり、大急ぎで手当が進められる。

その手際の良さは"最初からこの出来事を想定していたかのよう"だ。


王城へいたるまでには貴族街から長い階段を登る必要がある。

そのため、階段の上、ちょうど王城の門手前にいたローラ・スペルシオはクロードのスキルである暗黒海(ブラック・オーシャン)に巻き込まれることがなかった。


この後、すぐに王城には怪我人が運び込まれはじめる。

多くの町の市民だった。

雨のように降る瓦礫によって怪我をしたという者がほとんどだったが、なぜか中には戦闘による負傷者もいる様子だ。


「何が起こってるの……?」


困惑しつつ立ち尽くしているローラの肩を、後ろから叩く者がいた。


「見ているだけなら手伝って欲しい!」


それは凛々しい女性の声。

突然のことでビクっと体を跳ねさせたが、すぐにローラは振り返る。

そこにいたのは金色の長髪の女騎士だ。

黒いレザー系の服の上に重厚な鎧を着た女性だった。


「あなたは……確か……」


ローラは記憶を辿って彼女の名前を思い出す。

名前は確か"クラリス・ベルフェルマ"だったか。


「私のことはどうだっていい。とにかく怪我人の手当てを」


「う、うん!」


促されるままローラは絨毯の上に倒れる者たちの手当てを始めた。

女学校時代に応急手当ては習っていたが、うる覚えだ。

一回一回、思い出すようにして処置をしていく。

貴族の中には"手当てが遅い"と怒鳴る者もいたが、その度にクラリスが割って入ってさとすということが何度かあった。


恐らくローラだけで10人以上は処置した。

他の騎士団員や冒険者たちも手伝いに歩き、思いの外スムーズに進んだ。


ようやく落ち着き始めたところで、ふと門の先に視線を向けると、またぞろぞろと怪我人が入ってきた。

見ると騎士が数人。

その中には見覚えのある人物もいた。


「ヴァン……無事でよかった」


ローラはホッと胸を撫で下ろす。

何かを背負っているように見え、目を凝らすとそれは赤髪の少年、"ガイ"のようだった。

まぶたは開いているが、瞳に光が無いように思える。

そうは言っても瞬きはしているようだから、無事であるのは確かだろう。


すぐにガイの方へと向かおうとしたが、近くの騎士に呼び止められて怪我人の処置を余儀なくされる。


「焦ってもしょうがないわよね」


この状況では文句は言えない。

今はやるべきことをやってからと自分に言い聞かせた。


ここから数人の手当てが終わり、一息つく。

額から流れ出る汗を腕で拭うと同時にクラリスから声が掛かった。


「ご苦労様。少し休むといい」


「はい」


体は疲れていたが、そんなものはどうでもいい。

近くにいる騎士にガイの行き先を尋ねる。

どうやら来賓用のゲストルームへと向かったようだ。

なぜガイだけがそちらに運ばれたのかは不明だが、疑問よりも"会いたい"という気持ちの方が大きい。


この気持ちの高鳴りはなんだろう?

日数にしたら大したことのない時間ではあったた。

だがローラにとっては何年間も会っていないように感じられた。


明るく照らされた長い廊下を歩く。

その足取りは凄く軽い。


「あたしが行ってやるんだから、さぞ喜ぶでしょう」


呟くと自然に笑みが溢れる。

久しぶりに面と向かって会うのだから、どんなに打ちひしがれたって泣いて抱きついてくるかもしれない。

そう思うと、なぜか鼓動が早くなった。


ガイとの出会いを思い返すと不思議な縁だなと思う。


ローラは旅に出てから何度かパーティ追放に見舞われた。

そして最後のパーティ追放の後、旅先で"謎の商人"と会った。


この商人は男で屈強な体格のくせに、なぜか口調が女っぽかったので、とても記憶に残っている。

フィラ・ルクスを経由してイース・ガルダンに大事な何かを運ぶ途中……とか言ってた気がするが詳しくは教えてもらわなかった。


その商人がリア・ケイブスへ向かうことを勧めてくれたのだ。

リア・ケイブスならギルドに活気があり、パーティもすぐに見つかるだろうと言っていた。


蓋を開けてみたら、ボロボロの町でギルドには全く人がいなかったのだ。

ローラは町の実情を見た瞬間に"騙された!"と叫んだのを鮮明に覚えている。


「でも、あの人のお陰よね」


どこの誰だかはわからないが、"女っぽい口調の商人"がリア・ケイブスという町に行くことを勧めていなかったらガイと会うことは無かっただろう。



少し前の出来事を思い出しつつ、ガイが運び込まれた部屋に辿り着く。


突然に入っていったら、さぞ驚くだろう。

そう考えると自然と口元が緩む。

ローラは部屋のドアノブに触れて回そうとした。


すると中から誰かの声がした。

声の主は女性のようだ。


「この声……」


ドアノブを触れたまま聞き耳を立てる。

それは聞き覚えのある声だった。



「……私はあなたのことが好き。今、言うべきことではないかもしれないけど伝えておきたかった」


「……」


「あなたに一番最初に会った時から、とても惹かれていた。あなたの炎を……見たら……何か……」


次第に呼吸が荒くなっていくローラはゆっくりとドアノブから手を離す。

そして後退りすると来た道を全力で走って戻った。


あの声は間違いなくリリアン・ラズゥだ。

彼女が"ガイのことを好きである"ということは知っていたが、まさか告白するなんて思いもよらなかった。


リリアンと自分とでは全く違う。

彼女は容姿端麗で波動数値だって高い。

社交界では他の男性貴族の輪ができるほど、ひっきりなしに話しかけられていた。

リリアン・ラズゥの人気は貴族なら知らない人間の方が少ないだろう。


「あんた……婚約者がいるでしょうが……」


言って、同時に涙が頬を伝う。

なんで泣いてるのかは自分でもよくわからない。

怒りなのか、悲しみなのか。

とにかく行き場のない感情が暴れ回ってどうすることもできなかった。


ただ確かなことは自分もガイ・ガラードのことが"好き"だということ。

ずっと素直になれなかったが、今なら実感を持てる。


だけど……


ローラは思う。

恐らくガイはリリアンを選ぶ。


綺麗で聡明、さらに優しくて強い。

そんなリリアン・ラズゥを選ぶだろう。


婚約者なんて関係ない。

ガイは彼女を貴族という"小さな鳥籠とりかご"から連れ出して、密かに一緒に暮らすに違いない。


なんの根拠もない考えだ。

だが一度考え始めると止めることができず、モヤモヤとする心。

ローラはそんな自分の心をどうすることもできずに1人で王城を飛び出した。

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