表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
235/250

決闘歴戦奥義・逆鱗


王都は暗雲に覆われ、南地区は暴風が吹き荒れていた。


誰かの叫び声によって倒れて気を失っていたルガーラ・ルザールは意識が引き戻される。


「がはぁ……」


少し体を動かしただけで激痛が走る。

未だ朦朧とする中で、誰かの叫び声は何度も繰り返され、それは次第にハッキリと聞こえるようになった。


「団長!!」


女性の声だ。

かなり後方から聞こえる。


ルガーラは歯を食いしばり、痛みに耐えながらも上体を起こす。

その際、着用していた漆黒の鎧の上半身部分が砕けて地面に落ち、傷だらけの筋骨隆々とした肉体が露わになった。


目を細めて正面を見る。


数百メートル先には未だ倒されていないブラックローブの魔導士が重量を無視してフワフワと宙に浮いていた。


その真下に見覚えのある金髪の男。

両膝をついて項垂れるようにして俯く姿に、ルガーラは眉を顰めた。


「どうした……アッシュ……お前らしくない」


呟きながら、ゆっくりと立ち上がる。

深く呼吸してからアッシュを凝視するが、その体は無数の赤いアザができており、大量に出血しているように見えた。


ルガーラが起き上がったことによってか、ブラックローブの魔導士は両腕を掲げて、周りの瓦礫を浮き上がらせる。

今度の狙いはルガーラのようだ。


だがルガーラはそんなものには構わず、友がいる方へと歩みを進めた。


「私を……一人にする気か?」


この間、どんどん瓦礫は浮き上がり、数百を超える。


「エヴリンもいなくなって、君もいなくなったら……私がこの道を歩んだ意味がなかろう」


浮き上がった瓦礫はブラックローブの魔導士の目の前に吸収されるようにして集まっていく。

それは、どんどん大きくなり球体を作る。


「私はまだ許してなかっただろ?昔、私に言った"嘘"のことだ。この戦いが終わったら君に伝えたかった」


ブラックローブの魔導士の正面に作られた巨大な球体は高速回転を始めた。

そして巨大な球体がルガーラ目掛けて発射される。


「だけど今、言うよ。私は……いや、"俺"はお前を許す」


距離にして数百メートルであったが、猛スピードで飛ぶ球体は一瞬にして目標に到達した。


しかし到達後、球体がなぜか粉々に砕けて塵になって消える。


上がる土埃から姿を見せたルガーラの髪の色が黒から"光り輝く銀色"に変化していた。


「師匠からは、よく感情的にはなるなと言われてきた……だが今日ばかりは別に構わんだろ」


その鋭い眼光はブラックローブの魔導士へと向けられた。

ルガーラはただ相手を睨みつけ、全く視線逸らすことなく、ゆっくりと前進する。


一歩、また一歩と地面を踏み締めるたびに、石床に無数の亀裂を作った。


「昔、師匠から聞いた話だ。"銀色"ってのは"龍の色"なんだそうだ。龍は怒ると自分に向けられた全ての攻撃を無効化し、さらに眼力で動けなくして敵を喰らう。そんな逸話があるらしい」


ブラックローブの魔導士の体はただならぬ恐怖心で震えているように見える。

だが、すぐに瓦礫を浮き上がらせると、今度は自分の体を包み込むようにして集め始めた。


「何が言いたいかっていうと……まぁ俺は完全に()()()()ってことだ」


瓦礫が集まり切ると、そこに完成したのは巨大な人型の人形ようだった。

なんとも歪な形、上半身だけ地面から生えたようで、さらに両腕が異様に長い。


ルガーラは敵との距離が数十メートルと迫ったあたりで立ち止まり、ニヤリと笑みを浮かべて言った。


「お前は俺の前に立ったことを後悔することになる。生きて帰れると思うな」


この言葉を戦闘開始の合図と受け取ったのか、巨大な瓦礫の人形は作られた長い左腕を構えるようにして引く。

そして腕全体に暴風を纏い、一気にルガーラへと放たれる。


ルガーラはこの攻撃に全く動じる事なく、"フー"と息を吐き、自身の筋肉を極限まで引き締めた。


そして向かってきた瓦礫の拳に、渾身の右ストレートを叩き込む。


拳と拳がぶつかり、ズドン!!という轟音が町中に響き渡る。

その衝撃は波状に広がって周囲にある崩れた家屋をさらに破壊するほどだ。


同時に瓦礫の拳は粉々に砕け散って塵になる。

たまらず巨大な瓦礫の人形は後方へと仰け反った。

だが、すぐさま体勢を立て直すと残った長い右腕を引く。


間髪入れず二打撃目が放たれる寸前……


その瞬間、ルガーラは目を見開き、凄まじい眼光を瓦礫の人形へと向ける。

すると何故か瓦礫の人形は時が止まったように動けなくなった。

名づけるなら"龍の魔眼"とも呼ぶべきか。


「さて……そろそろフィナーレといこう」


呟くように言ったルガーラは目にも止まらぬスピードでダッシュした。

銀の閃光は瞬く間に瓦礫の人形へと辿り着く。


ルガーラは右足を前に出して踏み締める。


そして握りしめた手をゆっくりと上げ、動きを止めた瓦礫の人形の胸元、人間で言えばみぞおち部分に拳を当てた。


「我が闘気を拳の一点に集中させる……」


戦闘の天才と呼ばれる者にしか見ることのできない特別なオーラ。

ルガーラの体に収まっている闘気は全て右拳に収束した。


「"決闘歴戦奥義けっとうれきせんおうぎ"……"逆鱗げきりん"!!」


ルガーラは右拳に集中した闘気を一気に放出した。

ドン!!という鈍い音と共に瓦礫の人形の胸に丸い風穴が開く。


時間差で瓦礫が全て塵と化し、中にいたブラックローブの魔導士は凄まじいスピードで一直線に後方へと吹き飛んだ。


数百メートルもの距離、何度も家屋を突き破って進む。

ようやく勢い落として家屋の壁に磔にされるようにして食い込むと、着用していたブラックローブが灰になり風に乗って消えていく。

露わになったのは金色のショートカットの女性。

裸体はそのまま前へと倒れ、地面に落ちると、その体はドロドロとした黒い液体に変化して消滅していった。



ルガーラはブラックローブの魔導士が吹き飛んだ方向を凝視し、ある程度経ってから敵の戦闘不能を認識した。


振り向くと両膝を着き項垂れるアッシュの姿があった。


「お前の仇は取ったぞ……アッシュ」


もう息の無い彼の背中にそう言うと黒い雲に覆われた空を見る。


自分とアッシュ、そしてエヴリンと3人で過ごした時間を静かに思い出す。


パラパラと少しづつ雨が降り始めた。


雨の中、ルガーラは1人佇たたずみ涙した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ