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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
228/250

黒い獣


王都マリン・ディアール


西地区



漆黒の暗雲と崩れた町の中でレイとシグルス、そして数人の冒険者の前に立った1人の女性がいた。


地面につきそうなほどの長い黒髪、真っ黒なスーツにロングスカート、さらに黒マントを羽織っている。

顔は怪我を負っているのか、包帯がぐるぐる巻きにされており、見えるのは見開かれた片目だけだ。


"S級冒険者、闇喰のエリザヴェート"


彼女の持ったL字に展開した"大きな鎌"に目を奪われていた。

女性が持つには、あまりにも巨大で禍々しい形をしている。

だが、それが逆にレイ達の安心感に繋がった。


彼女の数百メートル先にいる"黒い獣"。

黒ベルトで全身を巻き、異様に伸びた腕に鋭利な爪、口が裂けて長い舌を垂らす。


人と言うには異形過ぎる存在で身を震わせるほどの恐怖を感じさせるが、それを払拭するほどエリザヴェートの放つ触手のような"ドス黒いオーラ"を見ると吐き気がした。


そのおぞましい気配だけでいえば明らかに黒ベルトの魔物を超える。


問題があるとするなら1つだけだ。


彼女の通り名の"闇喰やみくい"とは波動を喰らうことを意味していた。

つまり敵味方問わず周りの人間の波動を見境なく吸収してしまう。

そのため彼女を波動で援護することはできない。

自ずと一対一の状況にならざる終えないのだ。


「我々はここを動かずに見ていることしかできない……」


レイは固まる生き残りたちに聞こえる程度の声で呟く。

援護できないのは心苦しいところだが、波動を使えない冒険者が目にも止まらぬスピードで攻撃してくる敵の前に出て行っても足手纏いにしかならない。


今はエリザヴェートに全てを任せる以外なかった。



黒ベルトの魔物はエリザヴェートから受けたアッパー攻撃によって足がふらついていたが、すぐに地面を踏み締める。

尋常ならざる殺気を帯びた視線をエリザヴェートへと向けるが、彼女は微動だにしない。


ただ大鎌を両手で持って斜め下に構えるだけだ。


「み、み、み、見えないほどの動きではないけど……ギリギリだわ」 


そう言った彼女に黒ベルトの魔物はピクリと瞼を動かした。

恐らく言葉を理解しているのだろう。


項垂れるように上体を倒す黒ベルトの魔物は、その長い腕を地面に置いた。

まるで四足歩行する生き物のようだ。


「つ、つ、つ、次は確実に首を刎ねるわ……」


長い黒髪の間から覗かせる見開かれた片目は、敵の攻撃を捉えるため。


黒ベルトの魔物は"腕"と"脚"に渾身の力を込めているのか、体が異様に張ったように見えた。


その瞬間、音も無く姿を消した。


恐らく1秒か2秒ほどの出来事だ。

甲高い金属音が町に響き渡ると、エリザヴェートは大鎌を持ったままバンザイする形で仰け反っていた。


「は、速い!!」


首を刎ねるどころの話ではなかった。

鎌の長い持ち手部分でガードできただけでも奇跡なほどだ。


そして後方にある建物の壁が崩れたと思うと、さらに一直線の攻撃があった。


エリザヴェートは筋肉を最大限まで引き締め、仰け反った体勢から無理やり体を捻って回避を試みる。

体を横に回転させて、地面に片膝をつくようにして止まった。


通り過ぎた黒ベルトの魔物は前方の建物の壁に着地するが、同時に体から夥しいほどの出血があり、そのまま地面に落ちて倒れた。



一部始終を見ていたレイたちは驚く。

恐らくエリザヴェートは体を回転させながら、鎌による斬撃で攻撃していたのだろう。


「マジか、勝っちまった!!」


「すげぇ、やっぱりS級は違うな!!」


「生きて帰れる……」


冒険者たちが歓声を上げた。

それも束の間、片膝をついたエリザヴェートが叫ぶように言った。


「ま、ま、まだ終わってないわ!!」


「え?」


みなが困惑して顔を見合わせる中、倒れる黒ベルトの魔物が倒れる場所でドン!という轟音が響くと、その姿を再び消した。


すると数秒ほどの間をあけてエリザヴェートは何度も仰け反り続ける。

その際、金属音が何度も鳴っているが、すべて黒ベルトの魔物による高速攻撃を防いでものだろう。


先ほどとは比較にならないほどのスピードと繰り返される攻撃によってエリザヴェートの服は徐々に切り裂かれ、体のいたる部位から出血し始める。


「ぐ、ぐ、ぐ、ぐ……動きを……止めるしかないわね……」


黒ベルトの魔物の攻撃を防ぎつつ、エリザヴェートは思考していた。

この攻撃を止めるには"アレ"しかないと。


「"魔神の左手"」


そう呟くと自ら放っていたウネウネと動くドス黒いオーラが腕の形を模る。

真っ黒な無数の"闇の腕"がエリザヴェートの背中側から出ているようだ。


エリザヴェートは攻撃の瞬間を狙った。

次の黒ベルトの魔物の直線の高速突撃に合わせる。


鎌の持ち手でガードした瞬間、ウネウネと動く"闇の腕"は黒ベルトの魔物の足を掴んだ。

すると、それはゴムのように伸び、魔物と共に数十メートル先の空中で停止した。


「よ、よ、ようやく姿が見えたわね……"引き戻す"わ」


黒ベルトの魔物が振り向くと同時に"闇の腕"は勢いよくエリザヴェートへと戻る。

そして引き戻された黒ベルトの魔物へと大鎌による斬撃を加えた。


エリザヴェートを通り過ぎて地面を転がる黒ベルトの魔物の首は完全に切断されていた。



少し時間差があって、冒険者たちが歓声を上げる。


「今度こそやったぞー!!」


「すげぇ!!」


レイとシグルスも顔を見合わせて安堵の表情を浮かべていた。

しゃがみ込んでいた魔法使い風の女性冒険者は涙を大粒の流している。

そして剣士風の男の冒険者2人はエリザヴェートに駆け寄ると口々に感嘆の声を上げた。


正直、エリザヴェートは嬉しかった。

闘技大会でガイ達と出会ってから何かが変わった気がする。

いまいち昔の記憶は定かではないが、気づいた時にはもう彼女はさげすまれていた。


冒険者になったのも自分を知っている人間を探すためだったが手がかりはない。

しかし何度もパーティに追放され、いつも独りぼっちで旅を続けていたのだ。


人から嫌われることは慣れてるが、人と関わって喜ばれる経験は無い……はず。


感情を全く出さないエリザヴェートでも、この時は顔を覆うように巻かれた包帯の中で笑みをこぼした。



ふと、エリザヴェートは倒れた黒ベルトの魔物を見る。

すると何か異様な黒い霧が排出されているのに気づく。

それは切断された首と胴体からではない。


ほどけて地面に散らばった黒ベルトからだった。


エリザヴェートは首を傾げた。

何かがおかしい。


瞬間、散らばった黒ベルトが勢いよく伸びて、蛇のように冒険者の1人に絡まる。

そして全体を覆うと、その締め付けによって全身の骨の砕ける音と悲鳴が聞こえた。


エリザヴェートはハッとして、もう1人の冒険者を襟元を掴んで後方にバックステップして飛び引いた。

そのまま倒れる冒険者には構わず、ミイラのようにグルグル巻きになった黒ベルトを凝視する。


離れた場所にいたレイとシグルスもその様子を見ていた。

一体、何か起こっているのか理解できなかったが、すぐにレイは1つの仮説を立てた。


「まさか……"本体"は、あの()()()()()の方なのか?」


レイがそう呟くと同時に黒ベルトは人間のような体を作り出す。

恐らく人間を捕食し、そのまま体に寄生てしまう魔物。

そして他の魔物を喰らって自らの活動エネルギーに変換する。


今まで見てきた魔物など赤子のように感じるほどの凶悪な存在。


魔物レベルでいえば過去にも存在しなかった11(イレヴン)と言っても差し支えない。


この魔物は文字通り、"黒ベルトの魔物"だったのだ。

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