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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
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血の黒騎士(2)


カトリーヌは切り落とされた自分の右腕を見つめながら朦朧としていた。

大量の出血による、めまいなのか視点が定まらない。

片膝を着いて、左腰に刀を構えた状態でいるが、スカートから出る太ももは小刻みに震えていた。


何度も気を失いそうになる。

腕が切り落とされてから何秒、何分、はたまた何時間経過したのだろう?


恐らくそう長い時間ではない。

カトリーヌの目の前、数メートル先にいる黒騎士。

ここから放たれるドス黒い霧の異常なまでの腐敗臭によって何度も意識は現実に引き戻される。


顔を上げると、そこにいるのはもはや人間ではなかった。


黒い鎧では覆われているが、丸々と膨らんだ筋肉質の体、手足の関節は千切れるほど伸び出血している。

兜から見える美しい銀色の長い髪だけは唯一、元々が人であったことを証明するようだ。


「ガァァァァァァァァ!!」


黒騎士メリルの咆哮が破壊された街中にこだまする。



その中にある凄まじい殺気を感じ取るのは容易なものだ。

意識が朦朧とするカトリーヌを後方から体を抱き上げる存在があり、それは数十メートルもの距離をバックステップで移動した。


瞬間、メリルの立つ場所から円形状に、無数の黒い結晶剣が地面から突き上がる。


「な、なんというおぞましい気配……」


カトリーヌを抱き上げ、後方へと下がった女性の言葉。

この聞き覚えのある声はパーティメンバーの"ユキネ"だろう。


風の波動を使って一気に後方へと飛んだが、黒い霧によって波動は掻き消されて着地を余儀なくされる。

それでもメリルがおこなった結晶剣による攻撃を回避することができ、さらに50メートルは距離を取ることに成功した。

そこにはちょうどゲイン・ヴォルヴエッジもおり、彼と合流した形だ。


「無事か?」


「え、ええ……でも、恐らく私はそう長くは戦えない」


「それは見ればわかる。早急に手当てが必要だ。早めにケリをつけたいところだがな」


「……次の攻めで決めましょう」


「だが、どうする?」

 

ゲインは魔物と化した妹の姿を凝視しながら言った。

地面から突き出た無数の黒結晶の剣は砕け散り、再び黒霧に変わるとメリルが纏う鎧へと吸収された。


考えるに黒結晶の剣の攻撃はほぼ予備動作無しで発動されている。

あれを掻い潜って攻めるのは至難の技だろう。


「私がもう一度、光輪セイント・リングを使います。波動を当てられるチャンスは"数秒"といったところでしょう。ユキネが先陣を切って、ゲイン卿にはバックアップをお願いします。恐らく私のもう一人のパーティメンバーの援護もありますから、上手く繋いで"全員"で彼女の首を取りにいく」


「わかった」


ゲインとユキネは軽く頷き、黒騎士を見た。

カトリーヌが思うにメリルのダーク・ノイズを封じていられる時間は10秒ほどと予想している。

この時間内にメリルを倒すことができるかどうか……不安はあった。

なにしろ相手は未知の相手に他ならず、どんな攻撃してくるのかも謎だ。

だが、ここでメリルを倒せなければ王都は陥落することだろう。


片膝を着くカトリーヌはゆっくりと左手に持った刀を地面に置く。

そして腕を掲げると指を鳴らす準備を整えた。


「いきます」


その言葉に前衛であるユキネが短刀を逆手に持って前に構えた。

後衛のゲインも中型の杖を持つ手に力を入れる。


メリルから再びおびただしい黒霧が放たれ始めた瞬間、カトリーヌは"パチン"と指を鳴らした。

するとカトリーヌを中心に光の輪が広がり、メリルの鎧から出ていた霧が消えていく。


"残り10秒"


同時に彼女の後方から放物線を描いて4発の火弾が撃ち込まれた。


火弾は順々に着弾し、メリルを直撃したものもあれば近くに落ちて衝撃だけ与えるものもあった。

何よりも、凄まじい爆発によって巻き起こる広範囲の砂埃によってメリルの視界が遮られていた。


そして次にユキネが地面を踏み締めて前に出る。


「"風魔迅速ふうましゅんそく"」


ユキネの体の周りに風が巻き起こった瞬間、その姿は消えた。

ただ石床を一直線に削るたけで、何も見えず、ほぼ一瞬でメリルがいる土煙の中に入る。


"残り8秒"


「"風魔烈波斬ふうまれっぱざん"」


メリルを包んでいた土煙はユキネの起こした竜巻によって吹き飛んだ。

ゼロ距離の間合いでユキネの放った竜巻は同時に無限の斬撃を乗せてメリルを鎧にヒビを入れる。


「ヤメロォォォォォォ!!」


凄まじい殺気と共に叫ぶメリル。

怯まずユキネはジャンプして斬撃による追撃をしようとした瞬間、メリルは伸び切った両腕を地面に叩きつけて再び黒結晶の剣の攻撃をしようとした。


"残り5秒"


しかし、なぜか地面からは何も出ない。


「ナンダコレハ……アニウエ……マタ……ワタシノ邪魔ヲスル……!!」


見ると石床は分厚い氷で覆われており、それによってメリルの攻撃は無効化されていた。


"残り3秒"


構わず空中にいたユキネは逆手に持った短刀をメリルの兜と鎧の隙間へと滑り込ませようとした。


「このまま首を……!!」


しかし寸前で無数の黒結晶の剣がメリルの黒鎧から突き破って出て来る。

この攻撃によってユキネは右下腹部と左腕、さらに両太ももにも結晶剣が刺さって血を吐いた。


「かはぁ……」


メリルの体から出た黒結晶の剣が砕け散る。

空中にいたユキネは力無く、ゆっくりと氷の床へと落ちていった。


"残り2秒"


メリルは勝利を確信していた。

このまま光輪セイント・リングの効力が切れれば黒霧によってゲインの作った氷の床は消え去るだろう。

そこで一気に勝負を決する……そう思った瞬間のことだった。


落ちるユキネの体の真後ろに人影があったのだ。


「アリエナイ……何故ウゴケル?」


それは金色の巻き髪を靡かせたカトリーヌ・デュランディア。

右腕を失っているため抜刀はできないはずだが、なぜか左腰に刀を添えて構えていた。


「勝ちを確信するのはいささか早いと思いますわよ」


言いつつ左の親指に力を込める。

そして一気に刀のつばを弾いた。


「"天覇一刀流てんはいっとうりゅう空塵くうじん"」


刀は凄まじい速さで勢いよく飛び、柄頭つかがしらがドン!という音を立ててあごに当たりメリルは宙を見る。

その反動で刀は再び鞘に戻った。


"残り1秒"


メリルは漆黒の空を見ると、そこにキラリと光るものがあった。

それは高速で斜めに降下して、あらわとなったメリルの首を一刀両断して地面に突き刺さる。

彼女の首は同時に切られた銀色の髪が風に舞う中、氷の床に転がった。


「ヤハリ……アニウエ……」


かろうじて意識がある中で地面に突き刺さった"一本の氷の剣"を見た。


「ワタシハ……タダ……アイシテホシカッタ……ダケ……」


それだけ言うとあるじを無くした黒い鎧は両膝をついて徐々に灰になる。

兜で覆われたメリルの首もしかりだった。

ここにメリル・ヴォルヴエッジは完全に絶命した。

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