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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
226/250

血の黒騎士(1)


王都マリン・ディアール


東地区



光無き暗雲、崩れた街並みの中、黒い鎧に身を包んだ謎の人物、その前方には2人の女性が並んで立つ。

さらに2人の女性の後ろには第二騎士団長のゲイン・ヴォルヴエッジがいる。

彼女らは菱形を模るような配置で立っていた。


黒騎士の後方、およそ数百メートル離れた場所に、この状況を確認している1人の男がいた。

黒いマントで体を覆い、黒髪に赤が少しだけ混ざった、片目にキズがある40代ほどの男だ。


息を潜めて地面に片膝を着き、積み上がる瓦礫の小さな隙間から覗く狙撃手。


「まさか、お嬢の剣技を回避するとは……」


そう言って目を細めて標的を見た。

今は黒い兜を被っていて見えないが、先ほどは銀色の髪と赤白い肌を晒していた。

相手は魔物でなくて人間であるだろうと思うが、鎧の各接続部分から放たれている黒い霧は異様な雰囲気を放つ。


男は左腕に装着されているアームスリンガーの弦を引き、丸く加工された小さな波動石を装填すると再度、黒騎士を見た。


「もう不意打ちは無理だろう。……かと言って戦いを長引かせるのは得策ではない。タイミングは難しいが攻防の間に火弾を撃ち込むしかないだろうな」


そう呟いて深く息を吸う。

男は自分が動くべき時がくるのを密かに待った。


________________



黒騎士の激昂よって発せられた声は街に響き渡った。


しかし、前に向かい合って立つ金色の巻き髪の女性は不適な笑みを浮かべている。

カトリーヌ・デュランディアと名乗る女性は赤い鎧に下は白のスカート、黒いブーツを履く。

左手には刀を持ち、それを腰に添えた。


隣にはベリーショートに近い黒髪、短い太もも丈の東方の着物を羽織い、黒いブーツを履いた若い女性。

手には短刀が逆手で握られていた。


黒騎士メリルとの距離は数メートルしかない。

ワンステップで間合いに入れるが、彼女たちとメリルのちょうど間にある黒の大剣が気になった。

ドス黒いオーラが放たれる大剣の雰囲気は異様だ。


カトリーヌは隣にいる仲間の女性にだけ聞こえるような声で言った。


「次は私から攻めますわ。ユキネは私に合わせて、なるべくバロックの援護射撃を通させて下さい。後ろにはゲイン卿もいらっしゃいますので、彼の攻撃も見ながら臨機応変に動きます」


「わかりました」


「恐らく彼女の放っている霧は"ダーク・ノイズ"を含んでいると考えられますわ。あなたやバロックの波動は効かないでしょう」


「先ほどの攻撃で確認しました。あの"黒鎧"は私の風魔殺法を無効化してます」


高魔に備わる特殊なスキルである"ダーク・ノイズ"は低い波動数値の攻撃は無効される。

この場合、波動でできることは目眩しやフェイントといったところだ。 

ユキネの風魔殺法では無傷で終わったが、バロックの火弾は波動石を撃ち出すため物理的な衝撃は受けることになる。


「私の波動はあと二回使えますから、その間に戦いを決しますわ」


カトリーヌの能力、"セイント・シャイン"は1日に3回だけ発動できる。


能力は3つだ。


"魔物の体を破壊する光を放つ"

"高魔の瘴気を一時的に解除する"

"明かりを灯す"


この場所に来た際、大量の魔騎士を処理するためセイント・シャインは1回使ってしまった。

つまり相手のダーク・ノイズを解除できる光輪セイント・リングを発動できる回数は2回だけだ。


だがカトリーヌは深く考える事なく少しだけ足を前後に開くと、左腰に添えた刀の持ち手を握り構えた。


一方、黒い鎧で身を包むメリルはただたたずむ。

何か秘策でもあるのか、その場から動こうとはしない。


構わずカトリーヌは勢いよく地面を蹴って前に出た。

黒い大剣を通り過ぎて、瞬く間にメリルまで到達する。


天覇一刀流てんはいっとうりゅう……」


カトリーヌは左腰に構えた刀を抜かず、左逆手で鞘を横に振った。

この行動にメリルは鞘を右のガンドレットでガードする。


その瞬間、カトリーヌは左手に持った鞘を右手に持ち替えて持ち手を素早く逆転させると一瞬で右腰に構え直す。


「"朧月おぼろづき"」


高速で引き抜かれた刀が向かった先はメリルの左首筋だった。

"防御できた"という安心感を狙う不意な連撃だ。


だがメリルの反応は速い。

少しだけ上体を後ろへと倒したメリルの首元、数センチの場所を刀の切先が通り過ぎる。


カトリーヌは斬撃の勢いのまま体を回転させてしゃがみ込みながら刀を鞘へと戻すと、その体を飛び越えて突撃する影があった。


「"風魔空舞ふうまくうぶ"」


着物の女性、ユキネは風の波動によって高く舞い、さらには猛スピードでメリルへと向かう。

逆手に持った短刀による無数の斬撃は、全て彼女が空中にいる時におこなわれた。


「こざかしい……汚い冒険者がぁぁぁぁ!!」


メリルの叫びと同時に黒い鎧から大量に放たれるドス黒い霧はユキネを数十メートルもの距離吹き飛ばす。

吐き気がするほどの禍々しく濃い霧だ。


瞬間、パチン!という指の鳴る音が聞こえるとメリルの目の前で光の輪が広がり、黒い霧が全て消えた。


「"光輪セイント・リング"……この程度で声を荒げるなんて、美しくないですわよ」


ニヤリと笑ったカトリーヌは、しゃがんだまま刀を持ち替えて左腰に構え直す。


するとメリルの後方から飛来物があり、それは放物線を描いて彼女の鎧に着弾し爆発した。


バロックの火弾だ。

爆煙はメリルを包み込む。


さらに止まらず追撃があった。

周りに凍えるほどの冷気を感じると爆煙の上に数十を超える数の"氷の剣"が作られていく。

氷剣が取り囲んだのは、もちろん黒騎士のメリル。


「やはり、お前を葬るのは兄の私のようだな……"氷の結晶剣・夢幻むげん"」


カトリーヌの数百メートル後ろにいるゲイン・ヴォルヴエッジが作り出した氷の剣は順々に射出され爆煙の中に入る。


爆煙と土埃が入り混じる中、全ての氷の剣は確実に全てメリルに直撃した。


カトリーヌ、ユキネ、バロック、ゲインと繋ぐ完璧な連携攻撃だった。


「これで終わってくれればいいですが」


そう呟くカトリーヌは片膝を着き、刀を腰に構えて臨戦体勢のままだ。

後ろにはユキネ、さらに後方にゲインがいた。


風が吹き、メリルを包んでいた爆煙と土埃が晴れる。

いたのはキズだらけで項垂れた黒騎士メリル。

かろうじて立っていたが、今にも倒れそうな状態だ。


「ワタシは……こんなところで……シヌわけにはいかない……ワタシは……永遠に……あの方に愛でてモラウ……ノダ」


兜に反響したメリルの声は、もはや女性とは言い難いものだった。

そして徐々に、どこかから鎧に黒い霧が"吸収"し始める。


カトリーヌはハッとして振り向くと、背後にあった黒い大剣が大量の黒い霧を発生させていた。

メリルの鎧は黒い霧を吸い込んでいたのだ。


「マズイ!!」


そう言ってカトリーヌは再び光輪セイント・リングを発動するために右腕を前に掲げて指を鳴らそうとする。

しかし、その瞬間、二の腕付近に激痛を感じ、同時に右腕だけが地面に落ちた。


「ぐぅ……」


悲痛な表情を浮かべるカトリーヌ。

彼女の右腕は地面から突き上がった黒い結晶剣によって切断されたのだ。

奥歯を噛み締めて痛みに耐える彼女に構うことなく、大剣から全ての黒い霧を吸収し尽くしたメリルの鎧は異様な形に変化した。


それはもはや人とは呼べない姿。

腕と足の関節部分は引きちぎれるほど伸び、体の全体は鎧を突き破りそうなほど張っている。

唯一、黒い兜から出る銀色の長い髪だけが人間らしい部分であると言えた。


「ガァァァァァァァァ!!」


メリルの絶叫と鎧からの出血、そしておびただしいほど放たれる黒い霧に、その場にいた全員が息を呑む。


怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、苦痛、激痛……

全ての"負の感情"を含んだメリル・ヴォルヴエッジの叫びによって第二の攻防が開始されることになる。

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