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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
最終章 死の王 編
225/250

破壊の業火


王都マリン・ディアール


北地区



瓦礫が山のように積み上がる崩壊した街並みの中でガイは両膝を着き項垂れていた。

周りには10体ほどの魔騎士たちがドス黒いソード片手に中央にいるガイへと向かって走る。


第九騎士団の若者たちはガイと団長であるリリアンを守るため魔騎士に命懸けの特攻を試みるが、そこに"たった1人"の援軍があった。


短髪の赤髪、ボロボロのローブ、左手にナックルガードが付いた黒い中型の杖を持つ青年だ。

魔騎士らがガイたちを取り囲むようにして作った輪の外から、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


彼は"ヴァン・ガラード"と名乗り、魔騎士の一体を炎剣で灰にした。

さらに援軍に気づいた2体の魔騎士は方向転換してヴァンに向かうが、彼の体に纏う"炎のオーラ"はそれらを焼き尽くす。


「俺はこんなところで油売ってる暇はないんでね。遊びは無しだ。火力はでいかせてもらう」


そう言って左手に持った"漆黒の杖"を強く握った。


ヴァンは石床に向けて勢いよく左拳を打ちつける。

杖のナックルガードが床に当たると"ドン"!という轟音が町に響き渡り、ヴァンを中心として熱波が円形状に広がった。


「"破壊業火バスター・インフェルノ"」


息を呑むリリアン。

彼女の一度の"まばたき"で全てが終わった。

ヴァンが立っていたところに短時間だけ残った炎の残像しか見えなかった。


2秒か3秒か……ほんの数秒してリリアンの背後から地面を擦る音が聞こえ、振り向くと、そこにはもうヴァンがいた。


彼が最初に地面を殴った場所から数百メートルは離れていたが、ほぼ一瞬で移動したと思われる。


等間隔で立っていた全ての魔騎士の体から凄まじい炎が上がっており、それらは悶え苦しむ。


例えれば弾かれた小石が標的に当たって反射するようにして移動したのだろう。

彼が移動で通った地面には一直線に炎が上がり、それは10体ほどいた魔騎士らを直線で結んでいる。


最後には魔騎士たちを包み込んでいた炎は大爆発を起こして跡形もなく消え去った。

さらに爆発で起こった衝撃は広がらず、何事もなかったかのように爆煙の内側に収束した。

恐らく周りの人間に被害を及ばさないための配慮なのだろう。


この光景を見ていたリリアン含めた第九騎士団の面々は空いた口が塞がらなかった。


自分たちが死ぬほどの思いで苦戦を強いられた魔騎士の軍団を一瞬にして消し去ってしまったからだ。

今の目の前で起こった出来事の大きさで、"自分たちは命が助かった"という実感を得るまで少し時間を要した。


「全員、無事か?」


ヴァンはそう言ってリリアンに近づく。

唖然として片膝をつく彼女に手を差し伸べた。


「立てるか?」


「は、はい……」


リリアンは顔を赤らめつつ、その手を取って立ち上がる。

そして俯きながらも、さらに続けて言った。


「ですが何人か部隊の人間がやられてしまって……」


「そうか……みんなガイを守るために戦ってくれたんだな」


「はい、私は彼に命を救われましたから。それに彼はこんなところで死んではならない人間です」


その言葉に笑みを溢すヴァン。

ガイを見ると気を失っているわけではないが、完全に放心状態で誰かの手を借りなければならない状況であった。


「ガイを王城に運ぶ。手を貸してくれ」


「はい」


「それと敬語はやめてくれないか。貴族のあんたと違って俺はただの平民の冒険者だ」


「え、ええ……わかりました」


それでもリリアンはかしこまった。

なぜかはわからないが、目の前にいる人物から放たれる凄まじいオーラに圧倒されていたからだ。

何度も死線を越えてきたような眼差しに、先ほど見せられた精密であり大胆な波動操作。

この男は明らかに常人ではない。


そんなリリアンの対応に苦笑いしつつ、ヴァンと第九騎士団はガイを王城まで運んだ。


________________



数年前


荒地のアダン・ダル



領主であるオーレル卿の屋敷。

この日、珍しく客があった。

書斎に来たのは第二騎士団長のゲイン・ヴォルヴエッジだ。


テーブルの上には二つのグラスと酒のボトル。

向かい合わせに置いてある2人掛けのソファに腰掛けるオーレル卿とゲインの姿があった。


オーレル卿は向かい側に座るゲインのグラスに酒を注ぐ。

しかしゲインは一切それを口にはしない。


「いやぁ、この前の殺人鬼の件は助かったよ。怖くて夜も眠れなかったんだ。それで今日は何の用で来たんだね?」


「オーレル卿に少し頼みたいことがありまして」


「私にできる事なら何なりと。君には世話になってるからねぇ」


そう言って満面の笑みでグラスに注がれた酒を一気に飲み干すオーレル卿。

恐らくゲインが来る前からかなり飲んでいると思われる。


「この地方一帯に"ある情報"を流してもらいたい」


「ある情報とは?」


「"月の剣は南にある"……と」


「月の剣?なんのことだ?」


「詮索はしないで頂きたい」 


「まぁいいでしょう」


オーレル卿は酒のボトル持ってグラスへと注ぐ。


「それと、まだ少し先の話になりますが私の婚約者であるリリアン・ラズゥが第九騎士団長として南方の配属になるので、その時にでも挨拶に来させます。まぁ最初は()()もあると思いますが、大目に見て頂ければ」


「おお、そうかそうか。そういえば君も婚約したんだったな!しかもラズゥ家とは!私も……」


オーレル卿は自分の話が途中にも関わらずグラスに入っていてた酒を全て飲んでから続けた。


「スペルシオ家の三女をもらえることになったよ!ああ、これで大貴族との関係性も持つことができる!我が家も安泰だ!」


そう言って、さらに高笑いするオーレル卿。


「君が上手く橋渡しをしてくれたお陰だ。本当に感謝しているよ。まぁ三女は低波動のガキだが、この際仕方ない。若い娘をもらえるだけ有難いと思わねばな」


無言でゲインはオーレル卿の発言を聞いた。

完全に酒に酔っているのだろう。

もはや家柄の優劣の判断すらつかなくなっている様子だ。


「では、また酒でも飲み交わそう。私はこれから仕事の話がある。本当に面倒な話だが、まぁ仕方ない。また立ち寄ってくれたまえ」


結局、ゲインは酒のグラスに一度も触れる事なく立ち上がる。

その時、聞こえぬはほどの小声で呟くように言った。


「残念ながら"雨姫"はあなたのものにはならない」


そして1人、書斎を出ると目の前にはベリーショートで褐色肌の女性がいた。

見るからに風貌からして間違いなく王宮騎士だ。

ゲインは驚く彼女の表情を一瞥いちべつすると屋敷を出ていった。

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