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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
ディセプション・メモリー編
220/250

破壊と崩壊


王都マリン・ディアールは真っ黒な雲に覆われていた。


ガイ・ガラードは石で造られた床に両膝をつく。

呼吸は荒く、無気力にただ地面を見つめて項垂れている。


周りは騒音で包まれていた。

粉々になった瓦礫が暗雲から雨のごとく降り注いでいたのだ


視線を少しだけ前へ向けると、こちらに頭を向けて倒れている少女がいた。

頭からは大量の出血があり、桃色の髪は真っ赤に染まっている。


「俺の……俺のせいだ……見て見ぬふりをしてたから……」


自然と涙が頬を伝った。


"仲間の裏切り"


ガイはクロードのスキルによって雲の上に転移させられたが生存本能なのか自分はなんとか着地できた。

しかし、ほとんどの人間は石床に叩きつけられて絶命することになる。


だがクロードのスキルは"これだけ"ではなかった。


転移によって死亡した騎士達の遺体は"ガリガリ"という奇妙な音を立てながら、小刻みに揺れ、ゆっくりと立ち上がった。

ドロドロとした黒い液体が銀色の甲冑の到る場所から流れ出ている。

腕や足の継ぎ目部分が伸び、もはや人の形とは言えない。


"魔騎士"とも呼ぶべき、これらは逃げ惑う住民たちへと無差別に襲いかかった。


瓦礫が落ちる音と人々の悲鳴が町に響き渡る。

クロードのスキルに飲まれた騎士の数を考えるに、恐らく町中が惨劇に包まれているのだろう。


「もう……どうなったっていい……俺はもう……」


心の中で"プツり"と何かが切れる音がハッキリと聞こえた。

兄が無事だったのは喜ばしいことではあったが同時に自分の大切な家族を失っていた。

しかも、それは旅の初めのベオウルフ戦において。

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ガイは立ち上がることができず、ただ目の前に倒れている桃色の髪の少女を見ていた。



魔物と化した騎士達は周りの人間を葬り去ると、ようやく標的をガイに定める。

取り囲むようにして立つ魔騎士たちは臨戦態勢から一斉にガイへ向かって襲いかかった。


その瞬間、稲光と共に"雷撃"がガイの目の前に落ちた。

雷の衝撃は円形状になって周囲へ展開すると無数にいた魔騎士たちを数十メートル吹き飛ばす。


「立つんだガイ!!」


女性の声だ。

どこかで聞いたことのある、とても凛々しい声。


「今度は私が……私が必ず、あなたを助ける!!」


バチバチという雷音と共に彼女の印象的な長い紫色の髪が逆立つ。


さらに駆けつけた数十人ほどの騎士達はガイを守るようにして等間隔に円を作るようにして立った。


「彼を守り切れ。彼を絶対に死なせるわけにはいかない!!」


「了解です!リリアン団長!」


その士気の高さは放たれる闘気の集合でわかる。


奇怪な金属音と共に、ゆっくりと立ち上がる無数の魔騎士たちは鋭利な爪を構えて一斉にリリアン・ラズゥの部隊に襲いかかった。



_________________




東地区



ゲイン・ヴォルヴエッジの部隊は無数にいた魔騎士たちを完全に殲滅した。


周りを見るに破壊された町、転がる住民の遺体と酷い惨状ではあったが、ゲイン率いる第二騎士団は精鋭揃いというだけあって迅速に魔騎士を処理できた。


ゲインは町の状況を見渡す。

建物は崩れ、瓦礫が山のように積み重なる。


「住民の安全確保が最優先だ。東地区の住民の避難が完了したのを見計らって、他の地区へ応援に行く」


「了解しました!」


「魔物が残っていないか十分に注意しろ」


「はい!」


部隊の騎士たちは手分けして作業にあたっていた。

ゲインはその様子を蛇のような目をさらに細めて見ていた。

この周辺の安全確保はできたと言っていいだろう。


ゲインは次の地区へと移動を考えていた。


「だ、団長……」


その時、横にいる騎士の1人が声を上げた。

騎士の方を見ると、なぜか自分を見ておらず、ゲインの後方に視線を送っていた。

表情は強張り、恐怖の眼差しを向けている。


ゲインはゆっくりと振り返った。


「なんだこいつは……」


見るとそこには身長2メートルほどの赤黒い重厚な鎧を着た騎士が立っていた。

頭を覆うほどの兜、地面に突き刺さった黒い大剣を両手で持つ。


「いつから……そこにいた……?」


全く気配が無かった。

周りには騎士が多くいるのにも関わらず、その

中央にいるゲインの後ろに何の音も立てずに移動してきたなどありえない。


王宮騎士たちが死んだことで生まれた魔物とは違う。

異様なオーラを放つ騎士だ。

それが人間なのか魔物なのか判別はできない。


ゲインの部隊が唖然として黒騎士を凝視している。

そんな状況の中、黒騎士は大剣をゆっくりと地面から引き抜く。


その動作を確認したゲインはおぞましいほどの殺気を感じる。


「全員!!回避行動ぉぉぉぉ!!」


普段は冷静沈着なゲインだったが、この時ばかりは違った。

今までにない団長の叫びに部隊は一気に緊張感を増す。


黒騎士はそのまま勢いよく地面に黒い大剣を突き刺した。


瞬間、石床を破って無数の鋭利な"黒結晶"が突き上がり騎士達を串刺しにした。

あまりの攻撃スピードに反応できるものがいなかったのだ。


かろうじて攻撃の瞬間、後ろへと回転して回避したゲインと一部の騎士だけが無事だった。


「何者だ……貴様!!」


片膝をつき、鋭い眼光を黒騎士へと向ける。

だが黒騎士は答えようとはしない。


しばらくの沈黙後、周囲で金属が擦れる音が聞こえる。


ゲインは臨戦態勢を崩すことなく、周りに目をやると黒結晶で貫かれた騎士たちの体からドロドロとしたドス黒い液体が流れ出していた。


そして魔騎士と化した全員がゲインへと無感情の視線を向けた。



________________



西地区



崩れた建物、天から降り注いで積み上げられた瓦礫の中、レイとシグルスは逃げ惑う住民を魔騎士から守るため、他の冒険者と協力して討伐していた。


「なんという強さだ……レベル8は確実に超えてる」


レイは呟くように言った。

自分とシグルスはこのレベル帯であれば難なく討伐はできるが、他の冒険者はそうはいかない。

明らかに魔騎士は一対一ではどうしようもないほどの戦闘力を持っていた。


また、数十はいる魔騎士に苦戦する他の冒険者を助けてはいるが、2人では限界がある。

他の人間をフォローした状態では自分たちの命にも関わるだろう。


取り囲まれた数人の冒険者、それに加えてレイとシグルスは絶体絶命の状況であった。



だが魔騎士が一斉に襲い掛かろうとした時、なぜかそれらは糸の切れた人形のように地面に落ちた。


「何が起こってる?」


唖然とするレイ、シグルスを含めた冒険者たち。

すると地面に倒れた魔騎士から黒い霧のようなものが上がりはじめた。


黒い霧は宙へと舞い上がるように伸びていたが、次第に収束して、ある建物の屋根の方へと吸い込まれていく。


どうやら屋根の上にいる"影"に黒い霧が集まっているようだ。


みなが"影"に視線を向けると全員が息を呑んだ。

かろうじて声を出したのはレイだ。


「な、なんと禍々しい……魔物なのか……?」


"影"の正体は全くわからなかった。

剣のように尖った形の黒髪は逆立ち、何かの"膨張"を恐れてか、顔から足にかけて全て黒色のベルトでキツく巻かれている細身の体。

腕だけは人間の倍ほど長く、短く鋭い爪を持っていた。

かろうじて見えるのは見開かれた片方の丸い目と裂けた口から出る長い舌。


人間にも見えるが、そうであってほしくはないと思うほどの見た目だった。


魔騎士から出た黒い霧の全てが屋根の上の"影"が纏うベルトの隙間へと吸収されている。


「ば、化け物だ……」


レイの後ろにいた冒険者の1人が呟いた。

すると屋根の上の影が"ギロリ"と視線を冒険者に向けた瞬間、その場から消えた。


「な……」


あまりにも一瞬の出来事に息すらできなかった。

レイが振り返ると、呟いた冒険者の首が無い。

切断された首から出る血吹雪に周りの冒険者が次々と悲鳴を上げる。

悲鳴を上げた冒険者の首は一つ、また一つと切断されていった。


「このままでは……全滅する」


レイは絶望感の中にいた。

近くに立つシグルスも同様だ。

相手は目に見えぬスピードで攻撃してきているため、波動を使おうにも狙いが定められない。


「ここまでか……」


恐らくレイの中にいる、どんな人格を出そうとも、この状況には対応できない。


レイは冒険者たちの悲鳴が響き渡る中、死を覚悟した。



________________



南地区



騎士と冒険者が入り混じって魔騎士と避難民の対応にあたっていた。

組織的に仲は悪いが、この状況下では別だ。


数体の魔騎士を残して、騎士も冒険者も消耗し切っていた。


「もう……だめか……」


その時、鳴り響く馬の蹄が聞こえた。

瞬間、突風が吹き荒れ、騎士や冒険者たちを取り囲んでいた魔騎士らは後方へと飛ばされる。


「全員、無事か?」


そう言って馬から降りたのは輝くような金色の髪でサイドを後ろへと流し、さらに前髪を前方と上方に膨らませてボリュームを持たせているヘアスタイルの男。

鎧は身につけておらず、ノースリーブの白い拳法着のような軽い服装で露出した腕は筋肉質で盛り上がっていた。


後ろにいるもう一頭の馬に乗っていたのは女性。

緑色の髪はショートカットで整えられ、軽装の鎧と太ももまであるスカートを穿く。

背中には弓と矢筒を背負っていた。


「アッシュ団長!!」


「第三騎士団長だ!!」


「これで勝てるぞぉぉ!!」


戸惑う冒険者がいる中、騎士達の士気は高まった。

実力で言えば第一騎士団長と並ぶとも言われているほどの逸材であるアッシュ・アンスアイゼンは噂に名高い。


馬から降りたアッシュは胸ポケットから銀色の櫛を取り出すと丁寧に髪を整え始めた。


すると、もう1人の女騎士がアッシュの行動に苦言を呈した。


「団長、そんなことをしている場合ではないですよ」


「ローゼルちゃん、人前に立つ時はね、身だしなみが重要なわけだよ」


「髪なんてすぐに乱れますよ。私の波動で飛ばした魔物たちはもう起き上がってます」


「え?」


アッシュが周りを見ると数体の魔騎士がゆっくりと金属音を響かせて立ち上がる。


「この程度の数なんて、髪を乱すほどでもない」


「なら、さっさとやって下さい」


「ローゼルちゃん、いつにも増して厳しいねぇ」


「人の命が懸ってますから」


「まぁ確かに」


アッシュは馬の鞍に取り付けてあった黒い棒のようなものを引き抜くと左手に持った。


「早めに終わらせんとな」


そう言って鋭い視線を魔騎士たちに向けるアッシュだが、周囲に何か妙な異変を感じた。


突然、爆風が円形状に舞い上がり竜巻を作る。

それはアッシュ含めた騎士や冒険者たちの周りを囲うようにして起こった。


「ローゼルちゃん、俺の見せ場を奪う気?」


「私ではありません。ここまでの波動量は持っていませんので」


「じゃあ誰だ?」


アッシュは騎士や冒険者たちに視線を送るが、みなが首を横に振った。


すると地面に落ちた瓦礫が風によって、ゆっくりと浮き始め、それは吸い寄せられるように一点に集められる。

その場にいた全員が瓦礫の向かった方向を見た。


「なんだあれは?」


町の端、アッシュ達から見て数百メートル先にいたのは、宙に浮いた"黒いローブを纏った者"だった。

透き通るような白い素足だけ見えているため、恐らく人間なのだろうとは予測できた。


「味方ですかね?」


「いや凄まじい殺気を感じる。アレは俺たちに向けられているものだ」


アッシュが言った"アレ"とは殺気だけのことではなかった。

周囲の瓦礫は黒いローブの魔導士の前に集まって歪な球体を作っていく。

それはどんどん巨大化して人間をも押し潰そうなほどになった。


「これは……マズイな」


「ええ、かなり」


瞬間、黒いローブの魔導士が作ったであろう瓦礫の球は射出され、猛スピードでアッシュがいる方向へと飛んだ。

瓦礫の球は次々と建物を破壊して進み、アッシュ含めた騎士や冒険者たちを襲った。



王都マリン・ディアールは"謎の三体の存在"と"魔騎士"の続く破壊により、数年もの歳月をかけた復興を余儀なくされることになる。




ディセプション・メモリー編 完

__________________________






最北の山脈 黒い古城



黒い床、黒い壁、黒い天井……これらは一体何の素材で作られているのか?

クロードの後ろを歩くメイアはそれがずっと気になっていた。


回廊はどこまでも続いていて、進むほどに闇に呑まれそうになる。

まるで、このまま死へと向かうような感覚にもなった。


「それで、なぜ僕についてきた?」


クロードは淡々と歩き、振り向くことなく質問した。


「私とガイの旅の目的はロスト・ヴェロー。正直、それが近づくにつれて高揚感もありながら寂しさも感じてました」


「寂しさ?」


「ええ。もし兄に会ってしまったら旅は終わってしまいます。でも、まさか目的地に着く前に兄が現れるなんて……私は旅を終わらせたくはなかった」


「それが仲間を裏切ることになってもかい?」


「私はそれ以上に世界を見てまわって、波動を極めたい」


「君は面白いね。やっぱり僕の"魂"を与えてよかったよ」


「恐縮です」


「さて、ここからは籠城ろうじょうだね」


「ずっとここにいるのですか?」


「ああ。どうせ数百年もすれば僕のことを覚えている人間なんていなくなる。そこからまた始まるとしよう」


「始めるとは?」


「世界の救済さ。人は混沌があって秩序を保とうとする。魂を選定して役割を持たせ、"平和"と"争い"のバランスを図るのさ」


「楽しそうですね」


メイアは笑みを浮かべて言った。

それを聞いたクロードは無言ではあったが、メイアの返答には満足そうに頷いた。



黒い回廊の終着点。

そこには巨大なドス黒い色の両扉があった。

クロードは少しだけ手を触れると、重音と共に扉は開け放たれた。


中央に敷かれた赤絨毯の先きには、これまた大きな玉座がある。


そこに項垂れるようにしていたのは"金色の鎧を身に纏った白骨化した遺体"だった。


「やぁ久しぶり、会いたかったよ。僕の憧れの人、"クロード・アシュベンテ"」


クロードは笑みを浮かべて言った。

白骨遺体は何も言わず、ただ玉座に座るだけだった。

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