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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
ディセプション・メモリー編
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砂漠の雨姫(2)


ゾルア・ガウスは宿で身支度をしていた。

パーティを離れ、北上することを決めたのだ。


南方には王都があるので自ずと魔物も多く討伐されている。

そのため比較的、弱い魔物しかおらず駆け出しの冒険者にとても優しい地域だ。


中央には魔の城と呼ばれる魔物の巣があり、そこから、さらに北上すると魔物の強さが桁違いになるという。


ゾルアは1人でそこを目指す計画を立てていた。


「まったく……もう付き合ってられん」


低波動は一癖も二癖もある。

クロードの受け売りだが確かにそうだ。


クロードは頭はいいが、正義感が強すぎて様々な難を招く。


ゼクスも頭はいいが、研究に没頭すると解決するまで全く動けなくなる。


フィオナは血の気が多く、さらに幼児体型から全く成長しない。


ミルは異常なまでに女性に執着があるせいで、女誑し。


グレイグは"女"なのか"男"なのかよくわからない性格で正直苦手だ。


「一癖、二癖どころじゃねぇだろ」


そう呟きながらゾルアは少し大きめのダガー型の武具を腰に差し、荷物の入ったバッグを肩にかけると宿を出た。


________________



また他のメンバーに声をかけられでもしたら厄介だ。

ゾルアは陽が落ちてから出発することにしていた。

夜の砂漠地帯は気温が極度に下がるが、彼には関係ない。


宿を出て町の入り口へ向かって歩いていると、正面から早足で向かってくる数人の冒険者がいた。

何やら焦っている様子だ。


「魔物でも出たか?」


……と、言ってもこの周辺に出没する魔物など大したとはない。

ため息混じりにゾルアは彼らとすれ違うが、その時、何やら奇妙なことを言っているのが聞こえた。


「あの青い鎧の優男も"あの女"に声かけるなんて」


「身の程知らずだよな。"あの女"に関わったらただじゃ済まない。なんであんなに強いのにこんな町にいるんだよ」


「"あの女"絶対楽しんでるぞ……王都の警備団ってあんなのばっかなのか?戦闘狂じゃねぇか」


"青い鎧の優男"とは恐らくミル・ナルヴァスロのことだろう。

いつもの悪い癖が出たのだろうと思ったが、気になったのは"あの女"のほうだった。


「そろそろ"雨"が降るぞ。さっさと宿に戻ろう」


ゾルアは眉を顰めた。

"雨が降る?"

意味がわからなかった。

ここは砂漠地帯で雨はほとんど降らない。

この町に到着してからの滞在期間は一週間になるが一度も雨は降っていないのだ。


「冗談だろ?」


そう呟いた瞬間、町にポツポツと雨が降り始めた。

雨足が強くなると、地面の土色を次第に変えていく。


しかし強いと言ってもワイルド・ナインで剣の達人のミルに勝てる人間は限られている。

さらに相手が女だとするなら勝敗は自ずとわかるというものだ。


ゾルアは完全に夜となった町を歩いていると、中央広場で何やら音が聞こえてきた。


先ほどの話であった"あの女"とやらだろう。

自然とゾルアの足は中央広場へと向かっていた。

ちょっとした興味だった。

もし万が一にでもミルが負けることがあるのであれば……


「まぁ、そんなことはありえんだろうが」


笑みを溢すゾルアが中央広場に着くと異常な光景を見るとこになる。


なんと青い鎧を着た銀髪の男が大の字で倒れ、雨を全身で受けていたのだ。

さらには地面に折れた剣が何本も転がっている。


その奥、数メートル先に立っていた長い青髪の女性。

腰には護拳の部分が青い龍で模られているレイピアが差している。

女性の両サイドには水で形成された狼が二頭いたが、すぐに拡散して地面に落ちた。


徐々に雨も小降りになっていった。


「まぁちょっとはやるわね。でも、その程度で私を誘おうなんて十年早いわ」


ニヤリと笑った女性は倒れる男の横を通り過ぎてゾルアの方へと歩いてくる。


「あら、あなた彼の仲間かしら?」


「……いや、違う」


「そう」


ゾルアは横目に歩き去ろうとする女性に鋭い眼光を向けた。

凄まじい殺気を帯びるものだった。


それを感じ取ったのか、女性は立ち止まり振り返る。

こちらも鋭い視線をゾルアへと向けていた。


「あなたも私とやる気?」


「いや、俺には女を痛ぶる趣味は無い」


「あら言ってくれるじゃない。強さに自身があるようだけど私には勝てないわよ」


「なんだと?」


「そこの女誑し同様、これだけで十分」


そう言って見せたのは小さな"果物ナイフ"だった。

この言葉を聞いたゾルアはこめかみに血管が浮き出る。

これはある意味、武人に対する侮辱的な発言だ。


「貴様……俺を舐めてるのか?」


「別に舐めてるわけじゃないわ。果物って動物と違って皮を切る時って暴れたりしないでしょ。それと同じよ」


「意味がわからん……」


「つまり私にとって波動使い相手は果物と一緒ってこと。傷つけられているのにも関わらず動けない果物に対してさげすむ……つまり"舐める"なんて感情を持つ人間なんていない」


ゾルアの我慢は限界だった。

無意識にスーと息を吐き、筋肉を最大まで引き締める。

これはゾルアの臨戦体勢を意味する行動だ。


相手はミルを倒すほどの実力者であり、恐らく何らかの能力を持っていると推測できる。

先ほど彼女が両サイドに侍らせていた水の狼は元々、ミルのワイルド・スキルなのだ。

つまり、この女性もワイルド・ナインの可能性が高い。


「殺す前に名を聞いておこうか」


「物騒ねぇ。まぁ、でも暇つぶしになるからいいわ。私は"アクエリア・ダイアス"。王都から派遣されている警備団よ」


「警備団が喧嘩とはな」


「いいでしょ別に。喧嘩好きの警備団員がいたって」


「まぁな。だが、やるなら本気でやるぞ」


「いいわよ。あなたが勝ったら、お酒でも奢るわ」


「なら、お構いなくいかせてもらう……!!」


ゾルア・ガウスの髪の色が真っ赤に発光し始める。

熱波が周囲に幾度となく展開し、この中央広場の温度は瞬く間に上がった。


アクエリアとの距離は数メートル。

陽が落ちていても彼女の姿はハッキリとわかる。

彼女もまた髪の色が青く発光していた。

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