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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
ディセプション・メモリー編
209/250

砂漠の雨姫(1)


暖かい気候と時期的なものが影響したのか、大雨が続いていた。


ナイト・ガイのメンバーはそんな中でも経由する予定であった村に辿り着く。

しかしおけをひっくり返したような凄まじい量の雨によって完全に足止めを余儀なくされた。


進むことは可能だが、この状況で魔物に襲われれば危険であり、なにより護衛対象であるミラの体調も心配だった。


この依頼には時間制限はない。

無理をして進むよりも安全を優先したのだ。


ナイト・ガイはそれぞれ宿で部屋を取り、久しぶりのベッドを堪能していた。


クロードは1人、部屋の椅子に腰掛けて窓の外で降り続く雨をずっと見ていた。


________________



この地域は雨など一滴も降る余地もないほど一面が砂漠に覆われた場所だった。

南の王都付近にある小さな町に到着したクロード・アシュベンテたち。


旅も1年、2年と過ぎると問題も次第に浮き彫りになってくる。

彼らは今まさに問題に直面していたのだ。


夕刻頃、クロードとフィオナ、ゼクスが酒場にいた。

3人はカウンターから少し離れたテーブル席に座る。

時間的にも店内には人がおらず、彼らの隣の席に濃いカーキ色のフードを被った男か女かもわからない客が1人いるだけだ。


隣同士で座るクロードとフィオナはため息混じりにゼクスを見た。


「ゼクス、少しでも飲んで気を紛らわしたほうがいいぞ」


「全く……いつまでこうしてるつもりじゃ」


ゼクスはテーブルにうつ伏せになり、言葉一つ発しない。

現在、取り組んでいる、"とある研究"が全く前に進まずふさぎ込んでいた。

それを半ば無理やりにクロードとフィオナは外に連れ出したのだ。


「もう何日こうしてる?男だろうが」


「フィオ、そう言うな。我々が使っても壊れない武具を作ろうとしてくれてるんだ。不可能を可能にしようとしてくれてる。静かに見守ろう」


「最初っから、そんな武具を作るなんて無理なんだよ」


フィオナがそう言うと、うつ伏せのゼクスは泣き始めた。

顔が見えずともハッキリわかるくらい嗚咽おえつをもらす。


「すまない……私が……私が不甲斐ないばっかりに……」


クロードとフィオナは顔を見合わせる。

これはいよいよ長期滞在になるなと思った。


しかし問題はこれだけではない。

ちょうどその時、酒場の扉が開かれて入ってきたのは仲間のミル・ナルヴァスロだった。


「やはりダメだな」


そう言いつつミルは嗚咽を上げるゼクスの隣にため息混じりに座る。


「ゾルアはパーティを抜けると言って聞かない」


「ゾルのやつも本当に世話が焼けるのう。あやつは子供か」


「いつもの事だと思ったが、今回は本気だそうだ」


クロードは頭を掻いた。

このパーティには明確にリーダーというのは存在しないが、仲間を集めて取りまとめていたのは他ならぬクロードだ。

そのためか現在の状況に責任を感じていた。


「僕がもう少しでもしっかりしていれば、こういうことにはなっていないのかもしれない……」


「ゼクスに続いて、お前も弱気にやられるのか」


「勘弁してくれよ」


フィオナとミルは別にクロードを責めたいわけではなかった。

ゾルアは南にいる魔物には満足できずに次の町に行きたいと言い張る。

ゼクスは新しい武具の開発の糸口が全く見えず、落ち込んで動けそうにもない。

これらは誰のせいでもないのだ。


「どちらも解決できればいいが、それは不可能なことだろうな」


「武具なんて武器に波動石を付けて終わりじゃからな。波動石がデカければ波動を流し込む量が多くても耐えきれる可能性はあるが、そんなデカい波動石付けたら重くてしょうがない」


「ゾルアの相手をできる者なんて、この世に何人いるのか。私はハッキリ言って戦いたくないからな。ヤツは一回やり出したら止まらない」


2人の意見を聞いたクロードが深呼吸すると同時に隣のテーブルに座っていたフードを被った人物が立ち上がった。

そしておもむろにクロードたちが座るテーブルの方へと歩いてくる。

フードの人物はクロードたちの視線を気にすることなく、うつ伏せのゼクスの耳元で囁くように言った。


「それなら、波動石で武器を作ったらいいと思うわ」


たった一言、それだけ言うとヒールブーツのカカトを響かせて酒場を出て行く。


すると泣いていたゼクスは体をぶるぶると震わせてから上体を起こすと立ち上がり、こちらも無言のままスタスタと店を出て行った。


「な、なんなんだ……今のは……」


「誰じゃ、あの女……」


声を聞いて初めて女性だと認識できた。

そして一足遅れて笑みをこぼしたミルが立ち上がり、急足で女性を追う。


「ミルのやつ、またか」


「放っておけ。だが、もしこれでゼクスの武具問題が解決できればすぐに出発できる」


「確かに」


クロードとフィオナは2人だけ店に残る。

これから先、問題がとどこおりなく解決することを祈りつつ酒を飲み交わした。


________________



土地がら、家屋は煉瓦造りで木材は少ししか使われていない。

雨が降らない地域ということもあって、ほとんど植物が育たないのだ。


土にまみれた町はずれでミルはようやく彼女に追いついた。

背が高く見えるのはヒールブーツを履いているからなのだろう。

体が全て隠れるほどのマントを羽織るが、体型はスラリとしていてスリムなのはわかる。


それよりも、なぜか彼女を見た他の住民や冒険者は、そそくさといなくなっていく。


「ねぇ、そこの君、時間があったら一緒にお酒でもどうだい?」


ミルがそう声をかけるとフードを深く被った女性は振り向く。


「いいわよ」


「ほんとかい?」


「ええ、ただし……」


「ただし?」


「この私に勝てたらね」


そう言って女性はフードを取った。

露わになったのは透き通るほどの綺麗な長くて青いストレートヘアと首に黒いチョーカー。

チョーカーには小さな丸い波動石が付いており、その色は"深蒼しんそう"だ。

女性は今までに見たこともないほどの細身の美女だった。


ミルは心臓の高鳴りを感じた。

"容姿端麗"とはこの女性のためにある言葉なのだろう。


正直、戦うことは気が引けた。

しかし剣の達人と名を轟かせていたミル・ナルヴァスロはものの数分でこの女性に敗北することになる。

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