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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
ディセプション・メモリー編
208/250

モデル


ナイト・ガイのメンバーは王都を目指して歩みを進めていた。


中央に近づくにつれて暑さも増してくる。

ずっと感じていた早朝の肌寒さはもう無い。


広い草原には暖かい風が吹き草花を揺らす。

右の方には大きな泉があり、水面に晴れの日差しが反射して眩しかった。


ふと、前を並んで歩いていたガイとミラが泉の方へと視線をやると人影を見た。

光で眩しいので目を細めて見るが、やはり誰かいる。


「誰かいるみたいです」


「ああ。何やってるんだ?」


近づくと泉の前の草むらに小さな椅子を置いて座っている男性がいた。

ブロンドの整えられた髪と顔立ちが美しい青年だった。

彼の目の前にはイーゼルがあり、真剣な眼差しでそれを凝視する。


「あれは……確か……」


クロードにはその男性は見覚えがあった。

みなが近づくと、気づいた男性はこちらを見た。


「君たちは……冒険者の……クロードさん?」


「あなたは確かラルフか」


「ええ!お久しぶりです!」


それはフィラ・ルクスで出会った"画家のラルフ・ギュスタス"だった。

ローラの姉のゼニア殺しの容疑で拘束されていたが、クロードが無実を証明して釈放させた。


「なぜこんなところに?てっきり王宮画家になったものだと思っていたが」


「ああ、前回のコンクールは辞退したんですよ」


ラルフは少し悲しげな表情で言った。

その表情をじっと見ていたミラの頬を涙が伝る。


「一体どうして?」


「あの後、どうしても絵を描く気にはなれなくて……競い合ってたコリンも行方不明になってしまったし、色々なことがあったので少し絵から離れようと思ったんです」


「今はもう大丈夫なのかい?」


クロードはイーゼルに視線を移す。

そこにはとても綺麗に描かれた泉の絵があった。


「ええ、どうしても描きたくなりまして……やっぱり私には絵しか無いようだ」


「我慢しても良いことは無いです。また人物画を描いた方がいいと思いますよ」


そう言ったのはミラだった。

驚いたラルフだが、すぐに暗い表情へと変わる。


「描いても……いいんでしょうか?もし、また私が描いた人間が死んでしまったら……」


「大丈夫です。遅かれ早かれ人間はいつか死にますから!」


「確かにそうですけど……」


「さぁ誰を描くか選んで下さい!」


「は、はぁ」


半ば強引ではあったが、観念したようにラルフはナイト・ガイのメンバーたち1人1人を凝視した。


「メイアでいいんじゃないか?前も描いてもらってるし」


「え……」


ガイの言葉にメイアが固まる。

確かに前回、コリン・ルノアの絵のモデルの依頼を受けて描いてもらっている。

メイアには一度モデルの経験があったのだ。

しかし、描いてもらっている間は動けないので"疲れる"というマイナスな印象しかない。


「いや、君だな」


ラルフが指を差したのはガイだった。


「いやいや、俺なんて描いてどうするんだ」


「この中で一番"オーラ"を感じる」


「オーラってなんだよ」


「言葉で説明しづらいけど、こう……なんて言うか……溢れんばかりの熱いオーラさ」


ラルフは腕をめいいっぱい広げて言った。

しかしガイにはさっぱり意味がわからない。


「とにかく君がいい。次にそこの彼女だけど、やっぱり君を描くよ」


ラルフが言った"彼女"というのはミラのことだったが、結局ガイが絵のモデルをすることになった。


ガイは泉を背景として立つ。

他のメンバーは離れた場所から見守る。

前の村からずっと歩いていたので休憩がてらに、今日はここで野宿することにした。


ラルフは真剣な表情でイーゼルとガイを交互に見ていた。


「リラックスしてくれ。肩の力を抜いて」


「あ、ああ。でもなんでメイアとかミラじゃなく俺なんだよ。クロードでもいいし」


「メイアって赤髪の子だろ。君の家族かい?」


「妹だよ」


「そうか。妹さんとクロードさんからは何も感じなかったからさ」


「どういうことだよ」


「私にもわからない。ただ感じないってだけ」


「なんだよそれ」


ガイは首を傾げる。

ますます意味がわからない。

ただただ困惑するだけのガイに構うことなくラルフは真剣な眼差しで絵を描き進めた。


その様子をクロードは遠くからじっと見ていた。


________________



日の光が眩しい昼下がり。

クロード・アシュベンテたちは街中を歩いていた。

石床を踏み締める度に鳴る鎧が擦れる音が周囲の家屋に反射して響き渡る。


クロードの後ろにはフィオナとミルがいた。

不運なことに買い出しを任され、こうして着いたばかりにも関わらず街を探索しているというわけだ。


街を歩くとやはり気になるのは住民や他の冒険者の目線だ。

なにせクロードは金色の髪に金の鎧を身に纏っており、やけに目立つ。

しかしクロード自身は全く気にしていなかった。


「あまり、あやつとは歩きたくないのう」


「これなら一人で買い出しに行ったほうがマシというものだよ」


フィオナとミルが苦言を口にするがクロードの耳に届いていない。

来たことのない街ということもあり、クロードは目を輝かせて先頭を歩いていた。


すると突然、道の端にいた初老の男性から声をかけられた。


「ちょっと、そこのお兄さんたち」


「ん?」


男性は椅子に座り、目の前にはイーゼルが置かれていた。

どうやらこの男性は画家のようだった。


「あんたら冒険者だろ?もし時間があったら、絵のモデルになってくれないか。報酬なら払うよ」


この男性の言葉に真っ先に反応したのはミル・ナルヴァスロだ。


「おお!画家というのは美的センスがあると言うが、やはりそうなのだろう。この私に目をつけるとは」


そう言って笑み浮かべるミルだが、それを押し除けてフィオナが前に出た。


「いやいや、ここは"紅一点"のワシじゃろ」


「何をバカなことを言ってるんだ。お前のような()()()()を描いてどうする。女性らしさが無いし、全く美しくない」


「はぁ?喧嘩売ってるのか!?」


「事実を言ったまでだ」


「どうやら今この場で死にたいようだな……」


ミルとフィオナが激突しそうになる中、それに全く構うことなく画家の男は口を開く。


「いや、君だな」


画家の男が指を差したのはクロードだった。


「僕?僕なんて描いてどうする」


「この中で一番、"オーラ"を感じる」


「"オーラ"……なんのことだろうか?」


「んー。言葉では説明しづらいが、なんというか、こう……溢れんばかりの熱いオーラだよ」


画家の男性がそう言うとフィオナとミルはため息をつく。

2人は呆れた様子だった。


「ワシらは買い出しに行っとるから勝手に描いてもらえ」


「まったく……わかってないな」


2人はクロードをおいて立ち去ろうとしたが、フィオナが言い忘れたことがあったのか戻ってきて画家の男性に言った。


「"できるだけ憎たらしい顔つき"に描いてくれよ。後で見せてもらうからな」


それだけ言ってフィオナとミルは2人で買い出しへと向かう。

残されたクロードはイーゼルの前にある椅子に腰掛けるように促されて座った。


「すまないね。僕の仲間はみんな騒がしいんだ」


「冒険が飽きなくていいじゃないか」


「確かにそうだね」


「冒険……といえば、その格好目立たないか?」


画家の男性が言ったのはやはりクロードの着用する鎧だった。

金色の甲冑というのは王都の警備団よりも目立った格好で冒険者には珍しい。

どちらかといえば冒険者というのは地味な格好の方が多かった。


「いいんだよ。目立つために着ているんだ」


「どういう意味だい?」


「こんな目立つ格好をしていれば、真っ先に狙われるのは僕だ。僕は仲間を守れればそれでいい」


「立派な精神だが……早死にするぞ」


「大丈夫さ。遅かれ早かれ人間はいつか死ぬんだ。死ぬ時期を気にして生きる人間なぞいない」


「確かにそうだな」


画家の男性は笑みをこぼしながら、絵を描き進めた。

絵が完成したのは夕刻すぎ。

例の如く、宿に戻るとゾルア・ガウスの怒号が響き渡った。

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