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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
ディセプション・メモリー編
207/250

血色の収穫祭(4)


翌日の早朝。

光を全く通さないほど厚い雲が空を覆い、少し強めの雨が降る。


山道には10人ほどの人影があった。

全員が深くフードを被り、地面にしゃがみ込んでいた。

キョロキョロと何かを探す動作をしている。


「一生懸命ですね、何を探してるんです?」


フードを被った者たちは驚いた様子で一斉に声が発せられた方向を見た。

それは山道のくだりの方だった。


見ると輝くような金色の髪を後ろで結った、これまた輝くような金色の鎧を見に纏った青年。

その隣には短い紫色の髪をオールバックにして丸眼鏡を掛けているローブ姿の青年だ。


何かを探していた集団は、ゆっくりと立ち上がる。

その中の1人がフードを取った。

そして睨むような目つきで言ったのは村人の"マイルズ"だった。


「あなたは……」


「冒険者のクロードです。こっちはゼクス」


「なぜここにいるのです?」


「朝、みなでぞろぞろと村を出ていくのを見て気になりまして」


「別になんだっていいでしょう」


「探しているんでしょ?あの"花"を」


クロードの言葉に眉を顰めるマイルズ。

他のフードを被っている者たちも村人であろうが、彼らからも目に見えずとも殺気を感じる。


「そうですよ。それがどうしたのですか?」


「なぜカイムイソウを?」


「商人に売るためだが」


「それは違うでしょう。自分たちで使うために採取してるのでしょ?」


マイルズは息を呑んだ。

このクロードとゼクスという冒険者は自分たち村の住民が何をしているのか知っているのか?

雨と汗が同時に額から滴る。


マイルズは恐る恐る口を開いた。


「カイムイソウは花のままだと毒草だ。加工しなければ使えない」


「誰が加工した後に使うと言いました?」


「どういう……意味だ?」


「あなたは……いや、あなた方はカイムイソウを毒草のまま使っていたのでしょ?」


「何を根拠に言ってる!!」


マイルズの叫びは山道にこだまするが、構わずクロードの隣に立つゼクスが少し前に出た。


「昨日、焼かれて亡くなった方の体内を見ました。胃の中にカイムイソウの白い花びらがありましたよ」


そう言ってゼクスは小さな花びらを見せる。


「体内……どうやって、そんな……」


「私の"特技"とでも言いますか。まぁ、これでも医学的な知識もありますので」


「花びらが体内に残ってるわけないだろ!!」


「カイムイソウの花びらは人間は消化できないんですよ」


「俺たちはちゃんとすり潰して使ってるんだ!!だから体の中に花びらが残ってるなんてありえんだろ!!」


「……」


静かに睨むゼクス。

少し間があってから、ハッとしてマイルズは手で口を覆う仕草をした。


「論争するときは感情的にならないことですね。確かに体内に花びらなど残ってはいなかった。ただ胃の中が異様にただれていたので何か毒を盛られたのだろうと推測できたが、カイムイソウであるとは断定できない。そこで少し嘘をついたというわけです」


「クソ……」


「ダリアさんが機転をきかせてミルに罪をなすりつけようとしたのがあだになりましたね」


「……なんだと?」


「私たちはあの花がカイムイソウだと知らなかった。つまり花の用途を知らない。ダリアさんが言ったカイムイソウという言葉を聞いた村人が、"犯人はミル"だと決めつけた瞬間に私は村の人間全員が関わっているのだろうと思った。村の住民はカイムイソウを使って何かをしていると」


「……」


「"今回の収穫祭"はいつもと違った。いつもなら焼いて死ぬまで起きないはずのものが今回に限って悲鳴を上げた。恐らく摂取したカイムイソウの量が少なかったんでしょうね。それほどカイムイソウは採り尽くされてる。だからダリアさんはミルにしつこく花のことを聞いていた」


「我々がそんなことをして何になるんだ」


「村には食糧が無いのでしょう?あなた方は最初から仕込んでいたんだ。山道を塞ぐ岩の時点からね。そうすれば苦労して作物を育てる必要なんてない。だって食糧があっちからやってくるわけですから」


村人たちは山道を岩で道を塞ぐことで迂回してくる旅の人間を村に招き入れていた。

そしてカイムイソウ入りの食事で体を麻痺させて焼く。

それを長い間、繰り返していたのだ。


「俺たちは……ちゃんと作物を育てていたんだ……だが、なぜかここ数年で雨が多く降るようになって……」


「あなた方の事情がどうあれ、やっていることは外道の所業です。放っておくわけにはいかない」


「俺たちをどうするつもりだ?」


「王都の警備団に報告します」


「俺たちはどうなる?」


「村は無くなるでしょうね」


「そうか……まぁ、どのみち長くはなかったさ」


マイルズの瞳から光が消えた。

他の住民も言葉もなく項垂れ、ただ強く降る雨の音だけが山道に響く。


クロードとゼクスの背後にいた大きな荷物を背負った黒髪の少年は無表情で事の全てをずっと見ていた。

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