血色の収穫祭(3)
湿った空気と曇り空の中、ミル・ナルヴァスロは村人に拘束されて牢へと入れられた。
村の家屋は等間隔に十か二十か建っている。
奥のクロードたちの宿にあてられた小屋の近くに牢屋のある建物があった。
そこは他の家屋よりも一回りほど大きく、中には立派な牢がある。
黒い鉄格子の牢屋で周りを覆った作り。
原理はわからないが波動の力を抑えているようだった。
クロードとゼクスは建物に入ると腕を後ろで縛られ座り込むミルがいた。
もちろん鉄格子の中にだ。
クロードとゼクスの姿を見たミルは勢いよく立ち上がって2人に近寄る。
その際、バランスを崩して前のめりに倒れて地面に顔面を打った。
だが、その痛みに構うことなく再び立ち上がると鉄格子に血が滴る額を押し付ける。
「頼むから、ここから早く出してくれ!!」
悲痛な叫びだった。
クロードとゼクスは呆れた様子で見ている。
正直に言って"自業自得"というものだ。
「お前らパーティの中でもツートップで頭がいいんだから、二人で動けばすぐだろ!!」
「少しそこで頭を冷やしたらどうだ?」
「バカ言え!罪状は殺人なんだぞ!村の連中の話じゃ収穫祭が終わり次第に処刑するとか言ってる!」
「それは大変ですね」
「お前ら、なんでそんなに冷静なんだよ!!」
ゼクスとクロードはため息混じりに顔を見合わせた。
「それは犯人が大体わかってるからだ」
「ならさっさと動いてくれ!」
「その前に君とダリアの間の出来事を知りたいんだが」
ミルがダリアへ言い寄ろうとしていた出来事のことだ。
この時、クロードたちは小屋で休憩をとっていたため空白の時間があった。
「ああ、あの後にダリアを追いかけて話しかけた。そしたら収穫祭の準備を手伝ってくれと言われたから木材の積み上げをやったのさ」
「それで?」
「その後、ダリアを誘ったら彼女が畑の方まで行こうって言ったんだよ。それで私が持っていた"花"を渡そうと思って見せた。まぁ何かすごく驚いたような顔してたが」
ミルがダリアに差し出した"花"というのは、この村に入る前に山道で摘んだ白い花のことだ。
「なるほど。それが"カイムイソウ"だったと」
「なんなんだよ、そのカイムイソウって」
「カイムイソウは毒草ですよ。嗅いだり、摂取すると眠気が襲ってきて最後には体が麻痺する。その量が多いと最悪、死に至るというもの」
「ゼクス、お前あの花のこと知ってたのか!?」
「実物を見たのは初めてでしたのでわかりませんでした。普通は粉末状にしてビンなどに入れておくので。加工されたものならよく雑貨屋に売ってますよ」
「それを何に使うんだ?」
「鎮痛剤になるんです。大きな怪我など負った時に使う。しかし"花"のままだと、ただの毒草というわけです。加工する技術も難しくて、複数の波動を掛け合わせないとできない。この村にはそんな技術者はいないでしょう。まぁ普通の人間は摘むことすら避けると聞きます」
ミルは言葉を失った。
まさかそんなとんでもないものをダリアに渡そうとしていたとは。
しかし、それ以上にミルには気になることがあった。
「そういえば……そんな花なのになんであんな事を聞いてきたんだ……?」
「なんと?」
「"その花はどこで摘んだのか?"、"どれくらい生えていたか?"ってさ」
クロードとゼクスは顔を見合わせた。
ミルにはすぐに牢屋から出してやれるよう努力するとだけ伝えて、この場所を後にした。
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タイムリミットは収穫祭が終わる次の日の夜。
正直、全く焦る必要がなかった。
なにせクロードとゼクスにはもう犯人がわかっている。
あとはなぜ、どのようにして事件が起こったのかを知ればいい。
"クロードの波動"を使えば簡単に答えは提示できるが、2人はそんな必要もないほど単純な事件だと考えていた。
「なぜ、こんな小さな村にあんなご立派な牢屋があるのか」
「恐らく畑を見れば答えは見つかるでしょう」
「だろうね」
夜、小降りの雨が降ってくる中でクロードたちは畑の方へと向かって歩いた。
「しかしミルには手を焼かされますね。同じ低波動と言っても性格があれでは」
「低波動は一癖も二癖もある。みんなそうだろ」
「否定はしませんが」
「まぁミルはその中でも群を抜いてる気はする。感情の起伏が激しすぎて不測の事態に対応できまい」
「あれでは、そうでしょうね。もしかすれば他の仲間にまで危害が及ぶ可能性がある」
「何かあればミルは先に逃すんだ。フィオナにそう伝えて欲しい。でないと確実に早死するだろう」
「わかりました」
会話が終わる頃、村の隣にある畑に到着した。
村と同じく、広く木造の柵が立てられた場所だ。
畑の様子を見たクロードとミルは笑みをこぼす。
「まったく、収穫祭とはよく言ったものだな」
「となれば想像どおりの悲惨な話になりますね」
それは明らかに数年以上前から枯れ果てているような畑の現状であった。
つまり村の収穫祭とは最初から謀りだったのだ。
なにせ収穫する作物が無いのだから。




