血色の収穫祭(1)
ナイト・ガイのメンバーは翌日にハルナラナ村を出発した。
メイアとミラは宿の部屋が一緒だったこともあってか想像以上に仲良くなっていた。
最近は緊張感のある旅が続いていただけあってか、メイアの笑い声を聞くのは久しぶりな気がした。
彼らは草原地帯にできた一本道を進む。
天候は曇っているが吹く風は生暖かく、寒いわけでは無い。
ようやく雪の影響を受けない地域まで辿り着いていたのだ。
道中もミラとメイアが並んで歩いて楽しそうに会話をしている。
その数メートル後ろにはガイとクロードの姿があった。
「あんまり心配することもなかったかな」
「仲間のことを大事にするのはとてもいいことだ。だが、あまり気を取られすぎると判断を見誤るぞ」
「わかってるさ。それは少し前に学んだ」
恐らくそれはローラが攫われたこと、さらにクロードがヨルデアンで行方不明になったことを言っているのだろう。
ガイは感情に身を任せて後先を考えずに動くタイプだった。
しかし旅の中で少しづつではあるが、精神面も成長していたのだ。
「それはよかった」
「そんなに俺が信用できないのかよ」
「いや、昔にあった出来事を思い出してね」
「なんだよそれ」
「べつに大した話じゃないさ」
クロードはそう言って口を閉じた。
いつもなら饒舌に語り始めるところだが、ハルナラナでも昔の話はしなかった。
ガイは特に気にする様子もなくメイアとミラの背中を見つめながら歩き続けた。
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次の村である"ウィンガル"に到着したのはハルナラナを出発してから三日ほど経った夕刻の頃。
ここは村自体が円形状であり、魔物の対策として石が積み上げられた壁によって外界と遮断されていた。
2、30件ほどの家屋があり、ハルナラナと同じで村と言っても面積は大きい。
村から少し離れたところには畑や家畜を育てる小屋が立ち並んでいた。
村の中央はくり抜いたように何も無い空間になっているが、ガイたちが到着すると、その空間には木材が"井"の字を書いたように四角く段々と積み上げられていた。
4人は村の男たちが忙しなく動くさまを見ている。
最初に疑問を口にしたのはミラだった。
「何かあるのでしょうか?」
「たぶん"収穫祭"だろうな」
答えたのは珍しくガイだった。
「なんですかそれは?」
「今年の収穫に感謝する祭り……だったかな?」
ガイは歯切れ悪くメイアの方へと視線を移す。
それに反応したメイアは苦笑いを浮かべて何度か頷いた。
「祭りなんて初めてです!」
ミラの表情がパッと明るくなる。
それを見たガイとメイアが顔を見合わせた。
果たして祭りを体験したことのない人間がいるのか?
どこの町や村にも祭りぐらいあるものだと思っていた。
ガイとメイアが住んでいたベスタの村では毎年必ず収穫祭がある。
それもあってか村の雰囲気にどこか懐かしさを感じていた。
ナイト・ガイのメンバーは、ちょうど今夜ある収穫祭に参加することにした。
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ウィンガル中央には村人だけでなく冒険者や商人たちも集まっていた。
四角く段々と組まれた木材の真ん中から大きな炎が上がり、バチバチという音を鳴らす。
それを取り囲むようにして多くの椅子とテーブルが用意されており、人々は内外関係なく飲み食いする。
その中にはガイ、メイア、クロード、ミラの姿もあった。
村人からしたら冒険者や商人たちは部外者であるが、収穫された作物や家畜を高く買って食するのは、その部外者である。
そんな彼らにも感謝の気持ちを込めるという意味で振る舞われるのだ。
彼らが座ったのは炎があがる中央付近のテーブルだった。
夜になると肌寒さも残るのでちょうどいい。
収穫祭に参加している人々は村人、冒険者、商人という違いを気にすることなく楽しそうに会話している。
ガイとメイア、ミラも同じくだ。
一方、クロードは揺れる炎を見つめて無言だった。
それが気になった隣に座るメイアが口を開く。
「どうかしましたか?」
「いや、この長い旅の中で収穫祭を見るのは二度目だなと思ってね」
「いつ頃のことです?」
「あれは旅を始めた頃だった」
メイアは眉を顰めた。
クロードが旅を始めた頃となれば数百年前というのとになる。
「そんなに前のことなのに……」
「よく覚えてるって?」
「ええ」
「あの収穫祭は特別だったからね」
「特別?なにが特別なのですか?」
「死人が出たのさ。だからハッキリ覚えているんだ」
メイアは息を呑んだ。
炎の暖かさを掻き消すほど、背筋に冷たいものが走った気がした。
確かに村の住民が死亡したとなれば記憶にも残る。
クロードは数百年前にとある村の収穫祭で起こった事件を思い出していた。




