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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
ディセプション・メモリー編
202/250

断片(1)


ガイ、メイア、クロードの3人と護衛対象である謎の少女"ミラ・ハートル"を加えたナイト・ガイは早朝にコーブライドを出発した。


ミラの依頼を受けたことによってナイト・ガイの冒険者ランクはBとなり、さらに達成時にはAになる。

Bになった時点でロスト・ヴェローへの道は開けるが、さらにランクを上げられるなら、それにこしたことはない。


これは"ミラ・ハートル"を王都まで護衛することで冒険者ランクアップと依頼達成報酬の大金が貰えるという美味しい仕事だった。


それに護衛対象というよりも仲間として旅をするという条件は正直、気を使わなくもいいという面では気楽だ。

しかし、いきなり仲間が増えると言われても、ローラの件があった後でもある。

しかもローラは自分から発言するタイプだったが、ミラはそうではない。

果たしてこの先、全員で上手く王都までコミニュケーションを取りながら進めるのか?

それがガイの不安要素であった。


________________



コーブライドから南西の方へ向かう道がある。

この道沿いにはいくつか村があって、そこを経由するのだ。

王都までの道のりは約二週間といったところだろう。


ナイト・ガイのメンバーは早速、最初の村である"ハルナラナ"にたどり着いた。

コーブライドを出発してから約二日ほど経っていた。


ハルナラナが"村"というには少し大きいようにも思えるのは商人が行き交うからなのだろう。

緑の草の上に雪が少し積もってはいるが、気候的にはコーブライドよりも暖かく感じる。

ハルナラナには30件ほどの家屋が並ぶが、しっかり武具屋や雑貨屋、酒場、宿も設備されており、冒険者にはやさしい村と言ってもいい。


到着するとすぐにミラが目を輝かせていた。

あたかもそれは"村"というものを初めて見たかのようだった。


「凄いです!メイアちゃん、一緒にお買い物しましょう!」


「え?」


ミラは満面の笑みで隣に立つメイアに言った。

すぐにメイアはクロードへと視線をやる。


「行ってきたらいい」


クロードがそう言うとミラはメイアの手を一緒に取って走り出す。

向かったのは数十メートル先にある木造の雑貨屋の方だった。


それを見ていたガイは安堵した。

ミラがパーティに馴染めなければどうしようかと悩んでいたからだった。


杞憂きゆうだったろう」


「え?」


「彼女のことさ。メイアと上手くやれるか……まぁローラの件があるし、致し方ない」


「ローラは"おしゃべり"だったからさ。ミラは……そんな感じじゃないだろ」


「ああ。どちらかと言えば貴族のお嬢様って感じだね」


「ローラもそうだけどな」


「確かに」


ガイとクロードは笑い合った。

しかし、すぐにガイは悲しげな表情へと変わる。


「今は彼女を王都まで送り届けることだけを考えよう」


「そうだな」


クロードの言う通りだ。

終わったことを悩んでいるよりも、今やるべきことがある。

ガイは走って行くミラとメイアの背中を見ていた。


すると、雑貨屋の隣にある酒場から何かが飛び出した。

目で追っていたガイとクロードが見たのは、ドアから勢いよく出た少年の姿だった。

酒場の方が雑貨屋の先にあるので、ミラとメイアの目の前に少年がいるような状況だった。


「なんだ、あんなに慌てて」


「酒場の中で何かあったな」


すると、さらに酒場から数人の男女が現れる。

全員、軽装ではあるが白い鎧を纏っていた。

先頭の金色の短髪の青年は前に出て少年を蹴り飛ばすが、道ゆく村人は見て見ぬふりだ。


金髪の男は倒れた少年の前にしゃがみ込むと鋭い眼光を向けた。


「おい、いつになったら金を持ってくるんだ?あれは私の大事な金なんだ」


「い、いまは無理なんです……必ず働いて返しますので……」


「だから、それはいつになるんだよ」


「わ、かわりません……」


「わからないって……いい加減にしろよガキが」


状況は全くわからなかった。

恐らく金髪の青年と後ろの男女数人は王宮騎士団の人間だろう。


「せっかく気を利かせて私が借したのに、返せないなんてな」


「必ず返します!」


「返せんだろう……お前には」


金髪の青年は少年を睨んでいるが、どこか笑みを含んでいるような表情だ。

後ろの騎士数人もニヤニヤと笑っている。


その光景を見ていたガイは黙っていられず、走り出そうとした瞬間、クロードに肩を掴まれて止められた。


「どうして止めるんだよ」


「相手は騎士団だ。揉めると厄介だ」


「だからって、あんなの見過ごせるかよ!」


ガイがそれでも走り出そうとすると、雑貨屋の前で一部始終を見ていたミラがスタスタと金髪の青年の元へと歩き出す。


するとそれに気づいた金髪の青年はミラに視線をやる。

目の前に立ったミラは無表情で言った。


「お金、私が出しましょうか」


「は?」


金髪の青年は立ち上がって、背の小さいミラを見下ろす形だった。

他の騎士団の男女は何事かと顔を見合わせる。


「なんだ、お前は?」


「私が誰だっていいでしょう。それよりもいくらなのですか?」


「1000万ゼクだよ」


不適な笑みを浮かべた青年がそう言うと騎士団の男女もクスクスと笑った。


「それは嘘でしょう。本当は1万3千ゼクですよね?」


「……なんだと?」


「この少年は1ヶ月前、母親に薬を買うためにあなたからお金を借りた。額は1万3千。そうですよね?"メディスン卿"」


「な、な、なんで……?」


青年の表情がみるみる曇る。

他の騎士団の男女も眉を顰めていた。


「あまり、お酒は飲みすぎない方がいいですよ。でないと厳しい母上と姉上に怒られるから。そうそう、婚約者のミディアに久しぶりに会いに行ってあげた方がいいと思います。彼女、寂しがりなのでしょ?」


「な、なんで、私の家のことを知ってる……それにミディアのことは誰にも言ってないんだぞ!!」


「さぁ、なぜでしょう?でも、あなたのことは手に取るようにわかりますよ。ここで私からお金を受け取って去るか……それとも昔、あなたが自分の飼い犬にしたことをバラされるか……どちらがいいですか?」


「ひ、ひぃ!!」


金髪の青年は頭を抱えながら走り去る。

その表情は恐怖に怯えているようだった。

ミラは他の騎士団にお金の入った袋を投げると同時に睨みつける。


「あなた方のことも私はわかりますよ」


ミラの言葉に息を呑む男女。

最後は"気味が悪い"と言って金髪の青年を追いかけるようにして、その場を離れていった。


ミラは少年の方を見ると笑顔になる。


「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございました!お金は必ず返しますので!」


「いえいえ、必要無いです。それよりも母上を大事にしてあげて下さい」


「は、はい!」


少年は何度も頭を下げると、その場を後にする。

ミラは満足げな表情を浮かべているが、近くにいたメイアは呆気に取られていた。


ガイは胸を撫で下ろす。

自分が向かったとしても、ここまですんなりいかなかったであろう。


「よかった」


「ああ……」


ガイは振り向いてクロードを見る。

すると鋭い眼光をミラへと向けていた。


「どうしたんだよ」


「昔……同じようなことがあった」


クロードは記憶の断片を思い出す。

それは遠い昔の出来事であった。

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