戦う者たちの記憶
その記憶は事実なのだろうか?
朝起きて昨日あった出来事を思い出す。
果たして、それは実際にあったことか?
今ある記憶が真実とは限らない。
誰かによって巧妙に仕掛けられたものなのかもしれない。
なんのために?
全ては"ヤツ"を倒すためなのだ。
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英雄たちが魔王城に辿り着いたのは、旅に出てから数年後のことだった。
それまで各地域に出現した魔王の高位眷属とされる部下を討伐して回っていたのだ。
討伐できたのは5体中3体。
残りの2体は追い詰めたが逃げられ、身を隠してしまった。
それでも魔物の王と言われた"カリムス"を倒すことで、他の魔物たちを世界から消すことができるのらそれでいい。
彼らは、そう願って国の中心地にある魔王城へと入った。
だが、ここで仲間の裏切りがあった。
なぜ、"この男"が裏切るのだ?
いや……旅の途中でもその片鱗は確かに見えていた。
"この男"のあまりの強さに、仲間の1人が風の波動の高速転移で2人逃した。
残った英雄4人は"この男"と戦い、なんとか討伐。
戦いが終わった後、魔王城を大風で封印して北の山脈まで飛ばす。
彼の遺体と武具を隠すためだった。
これを最後まで見守ったのは残った4人。
英雄たちの戦いは終わった。
しかし何故か魔物たちは消えることがなかったのだ。
"魔王が討伐されたのにもかかわらずだ"
裏切り者である"クロード・アシュベンテ"も倒したはず。
それなのに何故、魔物は生き続けているのか?
この問いの答えを知る者は英雄の中で、"2人だけ"だった。
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英雄たちは魔王城の前にいた。
ドス黒いオーラを放つ巨大な城の大きな鉄扉を開ける直前だったのだ。
「最後の戦い……そう言って差し支えなかろう」
そう言ったのはパーティリーダーだ。
緊張感の中にも高揚が見られる表情。
長い旅がここで終わるのだから当然と言っていい。
「さっさと開けなさいよ、まどろっこしい」
「ほらほら」
ニクス姉妹はそう言ってリーダーを急かす。
妹のヘルレインは子供のような見た目だがパーティの中だと特に気が強い。
姉のヘヴリアはため息混じりの呆れた様子だった。
「はぁ……どうしていつもこうなのかしらね?早く終わらせて美味しいものでも食べにいきましょう」
「あんたは緊張感なさすぎなのよ!」
ヘルレインが怒った相手は仲間のザラだ。
彼女は女性でありながら大食いで食べ物に目がなかった。
そのためか丸々と太った姿をしていた。
「まぁまぁ……喧嘩はそこまでにして気を引き締めていきましょう」
苦笑いを浮かべるビリーは言った。
彼は温厚な性格で仲間を取りまとめる役だ。
「女が多いとこうなる。呆れて物も言えん」
怒気を含むように口を開いたのはゴルド。
寡黙ではあるが、仲間同士の喧嘩には黙っていられない。
「多いって、男女半々でしょうが」
ヘルレインがそう言った時、先頭のリーダーが"コホン"と咳払いして止めた。
これはある意味、儀式的なものと言っていい。
何か大きい戦いの前には必ず仲間は揉める。
それをリーダーが鎮めてから戦いに赴くのだ。
「今、この世界に我々以上の波動の使い手はいない。勝つことができれば永遠に名を残すことになるだろう。だが名誉が目的ではない。真の平和を、この世界にもたらそうではないか」
この言葉に5人は静かに頷いた。
リーダーは魔王城の真っ黒な鉄扉に向き直ると渾身の力で押した。
ゆっくりと大きな音を立てて開く扉。
6人の緊張感は一気に増した。
呼吸を整えて、ビリー、ゴルド、ヘルレイン、ヘヴリア、ザラ、そしてリーダーのカリムスは魔王城へと足を踏み入れる。
これから自分たちの身に起こる、恐ろしい出来事を知らずに……
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親父はいつも怒っていた気がする。
農家の家で仕事と言ったら畑仕事しかない。
なぜ、こんなカリカリしているのか理解できなかった。
その点、父親の怒りが自分に向くことで弟や妹は得していたと思う。
ある日、俺が冒険者になりたいと言った時の父の激昂ぶりは常軌を逸していた。
今までにないほどの喧嘩が家でおき、妹は号泣、弟は放心状態だった。
挙げ句の果てに母親も泣くものだから収拾がつかなくなって、そのまま家を飛び出した。
俺は父がよく納品に行くカレアの町だと居場所がバレると思って、隣町のミディアの町へ向かった。
ここのギルドを出発点として、俺の冒険者生活が始まるのだ。
最初は田舎者だと馬鹿にされたが、それでも声をかけてくれた男がいた。
こいつも同じルーキーで同じ波動属性だったから、すぐに仲良くなった。
パーティを組むことになるわけだが、リーダーはこいつに譲った。
さらに"もう1人"、波動を熟知しているという不思議な男とも出会うことになる。
その男は"ゼクス"と名乗った。
どうやら六大英雄と同じ名前らしいが、俺にはよくわからなかった。
俺たち3人はミディアの町で最初に受けた依頼の討伐任務で高位の魔物と戦うことになる。
この町の周辺ではあり得ないほど高レベルの魔物だった。
なんとか、この魔物を討伐して俺たちはすぐにCランクまで上がることができた。
そして長旅の末、ようやく北部の"ロスト・ヴェロー"に辿り着く。
俺はそこで見てはいけないものを見てしまう。
いや……正確には見えなければならないものが、見えなかったのだ。
すべては仲間の裏切り。
それしか考えられなかった。
そこには"あるべきものがなかったから"だ。
俺は仲間だった"その男"とロスト・ヴェローで死闘を繰り広げた。
そしてヤツの武具を奪い、雪原地帯に身を隠すことにした。
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記憶は大きく広がるが、必ず同じ場所から発生している。
それは一体どこなのか?
始まりの場所を知る者は少ない。
どちらにせよナイト・ガイは思いもかけずに、その場所……終着点を目指していた。
終着点には"本当の裏切り者"がいる。




