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炎の少年


日が落ちた頃、ギルドに到着したナイト・ガイのメンバー。


この町を出るのは次の日であるが、カトレアの依頼を受けられるかどうかで行き先は変わる。

死亡している彼女の依頼を受けることができるかどうかが不明であった。


もしカトレアの依頼を受けることができれば王都へと向かう。

逆に受けられないのであれば一度、南に下って適当な町でBランクに上げてロスト・ヴェローを目指す形になるだろう。


どちらにせよ、この町を出る理由は"依頼書の問題"があったからだ。

コーブライドの依頼には短期的にランクを上げられるような、言わば"おいしい依頼"はない。

カトレアがいなくなったとしても、彼女が依頼しようとしていた護衛任務に固執する理由はここにあった。



窓から灯りが見えるギルド。

3人が入ると、部屋の中央付近に人だかりができている。

何かを取り囲んでいるようだが、悪い雰囲気ではない。


ガイは"まさかまたか"と思ったが、そのまさかだったようだ。


数十人はいる冒険者たちが取り囲んでいたのは、1人の女性……というより少女に近い。

短い桃色の髪を後ろに集めて結った、白いローブの綺麗な女の子だった。


ガイとメイア、クロードがギルドに入ったことによって気づいた少女は3人に笑顔を向けた。


「ああ!来ました来ました!」


そう言って他の冒険者たちを掻き分けてパタパタと走ってくると、ガイの腕に自分の腕を絡めた。


「私はこのパーティメンバーになりましたので、お誘いはお断りします」


唖然としていた冒険者たちだが、すぐに皆が顔を見合わせて笑った。


「なんだそのパーティ、どう見ても弱そうじゃないか」


「しかも、たった3人しかいないのかよ。装備は一丁前だけどな」


「北部どころか世界でも最弱パーティなんじゃないか?よくここまで来れたな」


その言葉に、また冒険者たちは笑った。

カウンターにいる受付嬢たちはあたふたしている。

なにせギルドマスターが不在な状況であるから冒険者同士の問題を処理することが困難だ。


「いえいえ、この人たちは……」


少女がそう言いかけると、ガイはそれを止めるように前に出た。


「俺たちは"ナイト・ガイ"だ。文句あるなら相手になってやる。表へ出ろ」


その言葉に冒険者たちの表情は一瞬にして憤怒するが、"ナイト・ガイ"というパーティ名に聞き覚えがあったのか見る見る顔を青ざめさせた。


パーティリーダーのガイは"瞬炎しゅんえん"の通り名で、様々な強敵を撃破していると噂されていた。

イース・ガルダンの闘技大会では準優勝し、北部で化け物扱いされている黒兎のボスを倒している。

さらに後ろに立つ少女メイアは"炎女神ほむらめがみ"の通り名で波動の天才と言われていた。

南のアダン・ダルに出現した巨大迷宮のボスを討伐して攻略した。

メイアの隣にいるクロードと名乗る黒髪の男は各地で起こっていた事件を知略によって解決に導いていると聞く。

その名の通り、現在、最も"ナイト"に近いとされるパーティだった。


「ナ、ナイト……ガイ……」


「やべぇぞ……行こう……」


「関わると殺されるかもしれん……」


これ以上、冒険者たちはガイとは目を合わせず、皆は解散していった。


改めて少女はナイト・ガイのメンバーに向かい合うとペコリと頭を下げる。

その表情は満面の笑みだった。


「お騒がせしました。王都までのお付き合いとなりますが、よろしくお願いします!」


「王都まで?」


クロードは眉を顰める。

確かガイの話では"仲間になりたい"という内容だったはずだ。


「あれ、カトレアから聞いてたと思いますけど……」 


「まさか……君が?」


ガイとメイアは話の流れが掴めずにいたが、構わず少女は続けた。


「はい!私が依頼主のミラ・ハートルです。仲間になりたいというのは本当ですよ。依頼主と請負人という上下関係は抜きにして旅をしたいと思いますので」


「"ハートル"……だと?」


ニコニコと答えるミラに圧倒されるナイト・ガイのメンバー。

すでに出会っているはずのガイも驚いている様子だ。


「つまり君の依頼というのは、"王都までの護衛任務で受けるとBランクに上がり、達成と同時にAランクに上がる"……」


「はい、そうです」


「そして行動する時は"仲間"として扱えと」


「はい、そうです」


「カトレアからの依頼と証明するものは?」


「こんなこともあろうかと、手紙を預かってます」


「そもそもカトレアが依頼主で報酬を用意するはずだったはずだが?」


「それは大丈夫です。私が全てお支払いします」


そう言って笑みを崩さぬミラを見てクロードはため息をつくが、ガイとメイアにとってはこれほど好条件の依頼は今まで無かった。

どんな冒険者でも断る者はいないだろう。


元々、この依頼を受けるためにギルドに来たのだ。

ナイト・ガイのメンバーは謎の少女"ミラ・ハートル"の護衛任務のため王都へと向かうこととなった。



________________




数日前 コーブライド


ギルド



ナイト・ガイのメンバーが退出した後、部屋に残ったカトレアは深呼吸すると武具が並べられた壁の間にある扉の方へ向かって口を開いた。


「彼らの中にいましたか?」


その言葉に反応するように扉が開く。

中から出てきたのは純白のローブを身を包みフードを深く被った者だった。


「ようやく来ましたね」


笑みを含むように言った。

まるで少女のように幼い声に聞こえる。


「やはり、そうですか……」


「ええ、間違いない。"炎の男"だわ」


そう言って深く被っていたフードを脱いだ。

やはり姿は少女だった。

薄い桃色の短い髪を集めて後ろに結っている。

とても美しい容姿で"絶世"と形容しても差し支えない。


カトレアは眉を顰めた。

長い間、彼女から聞ていた"炎の男"想像とは違っていたからだった。


「まさか、あの少年ですか?」


「ええ」


「私のイメージでは"ガタイのいい大男"かと思ってましたけど」


「まぁ"彼"が来るか"黒兎"が来るかはわかりませんでしたけどね。私としては近い歳のほうがいいのでよかったわ」


少女は笑みをこぼして言った。

カトレアは未だに信じられないといった様子だ。


だが、それ以上にカトレアには気なることがあった。


「今回の依頼は"王都に騎士団の精鋭たちが集められている"という噂と何か関係があるのですか?」


「ええ。それは私が指示したものですから」


「何をするおつもりなのです?」


「この数百年間、人類がやろうとしてもできなかったことを成し遂げるのです」


カトレアは息を呑んだ。

この先、確実に世界に何か大きな出来事がある。

そう思わずにはいられなかった。


「では、私は出かけてきます」


「どちらへ?」


「"猫ちゃん"と遊んで来ます。今日は帰らないので」


「珍しいですね。動物とたわむれるなんて」


「ええ、そうしないと私はこの町を出れませんから」


カトレアは首を傾げた。

なぜ"猫と一日ずっと遊ぶ"ことで町を出ることに繋がるのか全くわからなかったからだ。


少女は構わず部屋の入り口へと向かいドアを開ける。

そして出ようとした時、ハッとしてカトレアの方を向いて少女は言った。


「カトレア……今までありがとう」


とても真剣な表情だった。

この子のことは幼少の頃より知っているが、こんな顔をしたことは今まで無かっただろう。

それは、まるで"今生の別れの挨拶"のようだ。


「まだ明日もありますから、別れはその時にでも」


「ええ……そうね……」


悲しそうな面持ちで部屋を出た少女を見送ったカトレアは机に着いて溜まった書類仕事を終わらせた。


そして身支度を終わらせるとギルドを出た。

もう日が沈む頃……いや、街灯に明かりがあったから夜と言ってもいい。

カトレアはすっかり冷え込んだ夜の街を歩いた。

どうしても確かめなければならないことがあったのだ。


カトレアは1人、領主の屋敷へと向かった。

この日、音楽祭があり、貴族たちはそちらに行っているということをすっかり忘れて……




秩序の牢獄編 完

________________





王都 南門前



王都は他の町とは違い巨大な城が中央に立つ。

そのため町を取り囲む外壁は堅固であり警備も厳しい。


城門前は行列を成していた。

やはり"セントラル・シティ"と言うだけあって、人の出入りは他の町よりも格段に激しいものがあった。


そんな行列を無視して進む一行がいた。

列に並ぶ冒険者や商人が、その"4人組"を見て呆れている。


「あれ、明らかに冒険者だな……」


「入れるわけねぇだろ。こっちは数日待ってるんだからよ」


「まさか、あいつら横入りするつもりか?」


突き刺すような視線が飛ぶ中、4人組の冒険者と思しき者たちは数十分かけて南門前に辿り着く。


検問に立つ騎士は屈強な体つきの男性騎士と、もう1人も同じく体格のいい女性騎士だった。


「貴様ら止まれ!」


「列を無視して入れる人間は限られる。すぐに後ろまで戻るんだ!」


そう強く言い放つが、4人組は全く動じず、それどころか先頭に立つボロボロのフード付きローブを着た小さな冒険者が前に出る。


どちらの騎士も腰に下げた剣の鞘を握った。

もしかすれば賊ということもあり得るからだ。


「聞こえなかったのか?下がれと言ったんだ!」


騎士がそう言うと同時に、冒険者らしき者はフードを取った。

顔を見るに少女のように見える。


"青く短い髪の少女"だ。


「あたしは"ローラ・スペルシオ"。聞いたことぐらいあるでしょ?」


2人の騎士は顔を見合わせた。

"スペルシオ家"を知らない人間なぞいるわけがない。

なにせこの世界では三大貴族とされており、自分達よりも格上の貴族だった。


「スペルシオ家が……王都まで……一体どういうことだ?」


困惑する騎士を無視するようにローラは怒気のこもった口調で続けた。


「第一騎士団長に会いに来た。あたし達を入れないと大変なことになるわよ」


「それは……つまり……」


「"貴族特権"を使って入るわ」


そう言うとローラと他3人の冒険者は騎士を無視して王都へと入って行った。


向かう先は王都騎士団本部。

目的は王宮騎士団最高司令官である第一騎士団団長の"アデルバート・アドルヴ"に会うためだった。

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