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地下水路


猫のスージーの首輪から外れたというスペードマークの鍵。

これは確実に時計塔の地下へ行くための鍵だろうとクロードは推理した。


マークの意味や老人との関係性はともかくとして、時計塔の地下と事件との繋がりを探るのが先決だ。


ガイはスージーを追いかけている際に逸れたミラのことは気になっていたが、事件解決が最優先と考えてメイア、クロードと共に時計塔へと向かうことにした。


時刻は日が沈んで間もない夜七時を回っていた。


____________



夜になると人通りは全くなかった。

時計塔付近が特にそうだ。

階段の下から円形に立ち並ぶ店は全て閉まっているのもそうだが、街灯も少なく薄暗い。

恐らく犯罪が多かった頃の名残りで夜は極力出歩かないというのが、この町の暗黙の了解なのだろう。


ガイ、メイア、クロードの3人は広場の中央にある噴水を通り過ぎて時計塔の真下まで到着した。


メイアは辺りを見渡しながら口を開く。


「おじいさんはいないようですね……」


「ああ。猫のスージーはガイが捕まえて飼い主に返したから老人とは会えてはない……とすれば、恐らく彼は"仕事"を思い出せていないのだろう」


「なんだよ、その仕事って」


「時計塔から地下へ降りるため、または上がるために扉の鍵の開閉することさ」


「なんで、わざわざそんなことするんだ?」


「それを今から調べに行く」


クロードは時計塔の地下が少なからず今回の事件に関係していると考えていた。

老人がスペードの鍵を使って地下への道を開けるのとが何を意味しているのか。


3人は時計塔の左側の外壁にあるドアへ向かった。

開けると湿った空気が頬を撫でる。

昼間に来た時と違って光は全くなく真っ暗だ。


「明かりを灯します」


と言って、メイアが杖の先端に小さな炎を発生させて松明を作る。


奥に進んで階段付近の絨毯をめくって、地面に埋め込まれた鉄扉を露わにした。


「ガイ、鍵を」


「ああ」


ガイはクロードに鍵を渡した。

スペードの鍵を鍵穴に差し込み回す。

するとガチャンという鉄音が鳴った。


「やはり、ここの鍵だったか」


そう言ってクロードは鉄扉の取手に手を入れて一気に引き開ける。

さらに真っ暗な空間が広がっているようで中は全く見えない。

妙に生臭い匂いと、ここより低い温度の冷気が息を吐くようして吹き出してきた。


「なんだよこの臭い……」


「恐らく下水道だろうね。メイアは大丈夫かい?」


「え、ええ。布で口元を覆えば入れます」


「じゃあ行こうか」


クロードは何も感じていないのか、ただ笑みを浮かべて真っ暗な空間に足を踏み入れる。


階段が地下へ向かって伸びているようだ。

ゆっくりと姿を消すクロードの後を2人は追いかけるようにして降りて行った。


____________



地下の肌寒さは異常だった。

北の寒さも相待って、地下のどこからか吹き抜ける風でメイアは体を震わせる。


杖に灯った炎で照らされた地下を見ると"正面"と"後方"に道が2つに分かれていた。

階段は壁伝いに作られたもののようだ。


地下は思いの外、広く感じられる。

壁は全面が石で作られており、クロードの言う通り下水道なのか川のように勢いよく水が流れていた。


「下流はおじいさんを追いかけた時に行った川に繋がっているんでしょうか?」


「だろうね」


「こっからどうするんだ?」


口元を布で覆ったガイが正面と後方を交互に見る。

どちらも暗闇で全く先が見えず、何があるのかわからない。


「二手に分かれてようか。もし道が複数出てきた場合は印をつけて進むこと。メイアは通ってきた道を覚えられるかもしれないが、もし複雑だと感じたらすぐに引き返すんだ」


「わかりました」


「じゃあ俺とメイアで行くか。どっちがどっちの方向に行くんだ?」


「僕はどっちでもいい」


「なら俺たちが上流の方に行こうかな」


「わかった」


ガイとメイアは上流の方を進むことにした。

一方、クロードは下流を目指す。

メンバーは手を振って分かれる。


クロードの方は明かりが無いが、本人は"慣れてる"と言って躊躇なく下流の方へと進み、すぐに姿が見えなくなった。


「まぁ、クロードなら大丈夫だろう」


「ええ」


2人は川が流れてくる方へ向かって歩いた。

先頭は明かりを持っているメイアだが、ガイはいつでも前に出れるように警戒心を強めていた。


ゆっくりと流れる川を横目に進むガイとメイア。

メイアは少しだけ照らし出された石壁に視線を移す。

なぜか等間隔に大きな"丸い穴"のようなものがあり、ポロポロと壁の破片が落ちている場所もあった。


数十分ほどか。

かなりの距離を歩いてきたが、運がいいのか直線が続く。


すると、ここでメイアはいきなり立ち止まった。


「どうした?」


「……魔物がいるわ」


「なに!?」


瞬間、川の中から勢いよく飛び出す影。

それは1つや2つでは無い、数十はあった。


「炎の壁!!」


とっさにメイアが杖を横に振りぬいて、数メートル先に炎の壁を作り出す。

ほとんどの影が灰になるが、その中でもひときは大きな影が炎の壁を引き裂くようにして縦一線に振り下ろされた。


「下がれメイア!」


メイアはバックステップして、ガイと位置をチェンジする。


ガイは左腰のスターブレイカーを左逆手持ちして引き抜いて、一気に横に振った。

"カン"!という甲高い音が地下に鳴り響くと同時にガイの左腕がピリッと痺れた。


「なんだこいつ!?」


ガイが目を細めて魔物を凝視する。

それは完全に魔物の姿ではなかった。


タコの脚のような巨大な触手が川の中から出てきていた。

それをガイはスターブレイカーで防いだが、その感覚は鉄と鉄がぶつかり合ったようなもの。


「力が強い……!!」


触手はそのままガイを押し潰そうとしているようだ。


「メイア、サイドステップを!!」


「ええ!」


防ぎきれないと踏んだガイは一旦、武器を引いて横に飛んだ。

後方のメイアも逆方向にサイドステップする。

触手はそのまま地面に打ちつけられて、簡単に石の床を破壊した。


その瞬間、さらに川の中からガイ目掛けて勢いよく何かが飛び出す。


それはガイの体を貫き、壁に激突する。


「ガイ!!」


高速でガイを攻撃したのは、水中にいるであろう魔物のもう一本の触手だった。

ここでメイアは川の中から出てきた、もう一本の触手が壁に穴を作っていた正体なのだと気づいた。


____________



クロードは迷いなく暗闇の中を進んでいた。

このまま進めば恐らく辿り着く先は、街を流れる川だろう。


しばらく進むと、先になにやら影のようなものが見えた。

それは人の形のように見えるが、はっきりしない。


「"アタリ"はこちらだったか」


そう呟いてニヤリと笑うクロード。

構わず進むと影がみるみる鮮明になっていく。


魔物ではない。

数十メートル先の黒ずくめの服を着た人間の背中を見る。

さらに黒ずくめの人間が立つ場所の石床には"何か"が転がっているようだ。


「やぁ、君が秩序造物主オーダー・クリエイターかい?」


極めて軽いノリで笑みを含んだ言葉を黒ずくめに向かって言った。

普通の人間なら飛び跳ねるほどの衝撃だ。

だが、この黒ずくめは違った。


ただ、ゆっくりと焦らすように振り向いてクロードを見た。

顔にも黒い布かぶっていて素顔はわからない。

体格も中肉中背、どこにでもいるような大人の背丈で男か女かもわからない。


「これは驚かされるね。まさか無反応で振り向くとは」


「……」


黒ずくめは腰から細剣のようなものを引き抜くと静かに前に構える。


「僕とやり合うというのはあまりオススメしないね。顔を見せてくれたら見逃すけど、どうかな?」


クロードの投げかけた言葉を無視して、黒ずくめは細剣を斜め下に構え直すと同時にダッシュした。


「同じ"闇"が好きなもの同士、分かり合えると思ったが残念だね」


勢いよく走ってくる黒ずくめを見るクロードは不気味な笑み浮かべる。

そしてローブの中にあった左腕を前に突き出し、手のひらを相手に見せるようにして開くと一気にそれを握った。


地下はさらなる深い闇に包まれた。

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