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橋の下の老人


コーブライド



クロードとメイアは老人を追いかけた。


時計塔の裏には壁伝いに細い階段がある。

ボロボロの布の服を着た白髪の老人はスタスタと階段を上って行った。


時計塔の真後ろからは町に流れる川につながる橋へと向かって道が伸びる。

老人は川へ向かって歩くが、その姿勢はピンとしていて綺麗だ。


老人の跡を追って数分で橋に差し掛かる。

橋は道路と同じで石造り。

横幅が10メートルほどで川の向こう側の住宅地までは100メートルはあった。

しっかり木材でできたフェンスを脇に設置して落下対策までされていた。


老人は橋の接続部分の横にある階段から、川が流れる下の方へとおりていく。


追いかけるようにしてクロードとメイアも階段をおりると、ひんやりした湿った空気が肌を撫でた。

そして、ちょうど橋の下、陰になっているとこのに何かが積み上げられているのが見えた。


暗くてよく見えなかったが目を凝らしてよく見ると、それは"大量の衣服"であった。

布を編んでいる安いものから、貴族が着る上等なもの、さらには騎士が身につけている鎧まで転がる。


「これは……一体……」


メイアが言うと老人がサッと振り向く。

すると首を傾げ、クロードとメイアを交互に見ていた。


「ん、あなた達は誰だ?」


先ほどまでとは打って変わり、老人はキョトンとした表情を浮かべていた。


「あなたに案内されてここに来たんだ」


「え……いや、ワシは誰も案内してない。あなた達は一体何者なんだ?」


「あなたの支える"お嬢様"の知り合いなんだが」


これはクロードの嘘だ。

会話を円滑に進めるためのものだった。


「お嬢様の知り合いだって?そんなわけない。アンジェリカお嬢様は十二歳で亡くなられたんだ。あんた達のような知り合いなんているはずがない!」


「それは失礼。そういえばカトレアという女性をご存知ですか?」


クロードがいきなり話題を変えると老人は少しの間、考えている素ぶりを見せた。

何かを思い出しているかのようだ。


「カトレア……ああ!知ってるよ、知ってるとも。何せ私の息子の結婚相手だ。もうすぐ結婚するのさ!」


「結婚相手?ということは息子さんは冒険者ですか?」


「まさか!そんな野蛮なものじゃない。ワシと一緒に屋敷で仕事することになったんだ。名誉な仕事さ。まぁけどワシの職に比べれば大したことはないがね」


「どこの屋敷です?」


「どこ?どこって……あれ、どこだっけ?」


クロードとメイアは顔を見合わせた。

やはり、この老人は間違いなく記憶障害を持っている。

2人は老人が思い出すのを待っていたが、その時は一向にこなかった。


次第に老人は頭を抱えて項垂れる。

メイアが心配そうにして近づくと、何かを呟き始めた。


「そうだ……スージーに会えばわかる……」


この発言に対してクロードが眉を顰めて言った。


「"スージー"とは誰のことです?」


「スージーはとても優しい子なんだ。ワシが落ち込んだ時はいつも励ましてくれる」


「そのスージーという人はどこにいるんですか?」


「だから、あの子にワシの大事な物を預けてあるんだ……ワシが無くさないように……最近は忘れることが多くなったからな……」


そう言いながら老人は2人に背を向けると頭を抱えながら川沿いを歩き始めた。


クロードとメイアは再び顔を見合わせるとため息をつく。


「あれではもう情報を聞き出せないな」


「そうですね……でも、あのおじいさんの息子さんがカトレアさんの結婚相手だなんて」


「嬉しい出来事だから記憶に残っていたんだろうね」


「でも、カトレアさんはもう……」


「ああ」


しばらくの沈黙があった。

カトレアの死亡によってあの老人の息子の結婚は無くなってしまったのだ。


しかし、ここでじっとしているわけにはいかない。

メイアは気を取り直して情報整理を始めた。


「息子さんはどこの屋敷で何の仕事をしているんでしょうか?あのおじいさんは"同じ屋敷"で働いてるって言ってましたけど」


「あの老人の立ち振る舞いからして、恐らく以前の仕事は執事だろう。間違いなく貴族に支えていた。それに比べて劣る、屋敷で男性がこなす仕事と言えば……料理人か御者、庭師といったところか?」


「そうですね。ですがこの情報だけだと、どこの屋敷かまではわかりません」


「うむ。あの老人の口から"ガンドッド家"が出てきたのなら話が早かったんだけどね。だが、どっちにしろあの屋敷の仕事のほとんどはメイドのパメラがやっているはずだ」


「それが気になっていたんですが、領主ほどの方が住む家となればとても大きいはずです。そんな屋敷の家事を一人でやるなんて不可解です」


「確かに。まぁ、いずれは行かなければならない場所だ。まだ日が暮れるまで時間があるから、領主様の屋敷へ行ってみようか」


「拒否されないでしょうか?」


「彼は冒険者に憧れを持っているようだ。決してないがしろにはしないだろう。それどころか、むしろ歓迎されると思うよ」


「それもそうですね」


「この衣服の山も気になるが、どのみち今の老人の状態だと聞き出せないからね。これについて考えるのは後のほうがいいだろう」


メイアとクロードは来た道を引き返して時計塔へと戻った。

二人は当初の目的地であった騎士団本部は後回しとし、先に領主のサンドラの屋敷であるガンドッド家を目指すことにした。


時刻は午後三時になる頃だった。

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