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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
171/250

第二王女


北の砦・ベンツォード



ガイとメイアが帰還してから数日後、遭難したと思われたクロードが帰ってきた。


朝日が照らす西門でクロードを迎えたが傷一つなく、さらに凍傷などもない健康そのものの姿を見たガイは目を潤ませた。


「無事でよかった」


「簡単には死なないさ。だが、一つ問題がある」


「なんだよ」


「ここまで稼いできたゼクを落としてしまった」


「お金なんてまた稼げばいいだろ。仲間の方が大事だ」


「そう言ってもらえれば嬉しい。メイアも無事かい?」


「ああ。今の時間なら砦にいると思うけど」


「そうか。2人とも無事でよかったよ。ローラはどうした?」


「ローラは……ダメだった」


「……そうか」


ガイの沈んだ表情を見たクロードはため息をついた。

命掛けで北を目指したが間に合わなかったのだ。


「とりあえずメイアに会おうか」


「……ああ」


2人は一緒に砦へと向かった。

だんだんと雲が日を覆って雪が降り始める。

そんな中、誰もいなくなった兵たちの居住区を抜けている途中、ガイは思い出したように言った。


「アッシュも呼んでくる。多分、ローゼルのところにいると思うからさ」


「ああ」


クロードはガイと分かれて、そのまま砦を目指した。

砦の入り口前の広場に到着すると、ちょうど砦から出てきたメイアが現れる。

クロードの姿を見たメイアは小走りで駆け寄って来た。


「クロードさん!」


「メイア、無事でよかった」


「クロードさんもよかったです!」


「また一段と凛々しくなったね。何か得るものがあったと見える」


「そうですね。……あのクロードさんは"炎の一族"というものをご存知ですか?」


不意な質問にクロードは少し驚く。

その反応を見るに明らかにクロードは"炎の一族"というもの知っている。


「前にリリアンの屋敷に行った時に"竜の置物"を見たのを覚えているかい?」


「はい。四人の竜の子のことも聞きました。その中でも最も強いのが火の王であり、それを倒した人間がいたと」


「そう。文献すら残らない神話だけどね。その二代目・火の王の血を引く一族がいると言われている。それが炎の一族さ」


「そう……なんですか」


「ゾルア・ガウスもそうだと言われていた。真紅の眼を持っていたし、類稀なるバトルセンスもあった。ただ……」


「ただ?」


「ただ、どんなに狂ったように戦い続けても"闘気"だけは見えることはなかったけどね」


メイアは眉を顰めた。

闘気という能力は身につけたいからといって願って得られる力ではない。

今までは戦闘能力が高ければ見えるものだと思っていたが戦闘狂のゾルア・ガウスが見えないとなると、その力を得る方法は不明と言っていい。


そんな会話の途中、ガイはアッシュを連れて砦の広場までやってきた。

振り向くクロードと目が合ったアッシュはニヤリと笑って言った。


「生きてたようだな色男」


「君も無事で何より」


一呼吸置いてから先に口を開いたのはクロードだ。


「ああ、そうだ。これを拾ったんだ」


そう言ってボロボロのローブの中を探りって取り出したのは"銀色の櫛"だった。

アッシュは眼光鋭くクロードを見る。


「どこでそれを?」


「ヨルデアンを歩いていたら偶然見つけてね」


「一体、ヨルデアンのどこを歩いていて見つけたんだ?」


「それは僕にもわからない。猛吹雪の中、無我夢中でここまで歩いて来たからね」


「そうか」


アッシュは銀の櫛を受け取ると、指でくるりと回して胸ポケットへと戻した。


「疲れたろう。何日か休んでから出発したらいい」


「ああ。そうさせてもらうよ」


「ちなみに次の行き先は?」


「少し稼がねばならないからね。ここからならコーブライドを目指したが、あそこはBランク以上じゃなければ入れない。一旦、王都へ向かおうと思ってるよ」


「うーむ」


アッシュは考える素振りを見せた。

少し間があった後、アッシュが続けて言った。


「俺が紹介状を書こう。コーブライドの門番とギルドマスター宛にな。君たちは急いでいるのだろ?それに王都のギルドは依頼の取り合いって聞いてるからさ。稼ぐなら前者の方がいいだろう」


「ギルドマスター宛?どういうことだ?」


町の門番は基本的に騎士がおこなうから高位の騎士の紹介状なら簡単に通れるだろう。

しかし王宮騎士とギルドマスターとの間には浅からぬ溝があるというのは暗黙の了解である。


「あそこのギルドマスターとは知り合いでね。昔の借りがあるから冒険者ランクくらいどうだってなる」


「なるほど」


「それに君らほどの逸材がCランクなんて勿体無い。さっさとSランクまで上がって少しでも俺たちに楽をさせてくれ」


この発言にはガイが声を上げた。


「なんで俺たちがSランクになれば騎士が楽になるんだよ」


「Sランクってのは"ナイト"の称号をもらうってことだ。ナイトの位は言うなれば高貴族と同等。仕事もギルドへ行って直接受けなくても国から高難度、高報酬の依頼が舞い込んでくる。そうなれば必然的に俺たちの仕事は減って楽になるってことさ」


ガイの顔が青ざめる。

そんな話はクロードや他の人間からも聞かされていない。

さらにずっと気になっていたのは"姫様との婚約"というものだ。

もしガイがSランクに上がったとすれば前代未聞。

男性で初のS級冒険者となるため婚約という流れになるのは自然だ。


「Sランクやら婚約やら……頭がついていかないって」


「婚約ねぇ……まだ内密な話だが第一王女との婚約というのは無くなるぞ」


「どういうことだよ」


「ザラ姫が死んだからだ」


ガイとメイアは絶句した。

なによりメイアは姿こそ見てはいないがザラ姫の直近まで行った経験があるため、なおさらショックを受けていた。


唯一、冷静なクロードは眉を顰めて言った。


「"第一王女"?王女はザラ姫だけだろう」


「表向きはそうだが、王女は二人いるんだ」


「それは初めて聞く情報だな」


クロードが知らないとなれば、かなりの極秘情報であることは間違いない。

だが気になる部分はそこではなかった。


「なぜ第二王女がいることを王宮は隠している?なぜ君がそれを知ってるんだ?」


「なぜ隠しているかは俺にもわからん。第二王女がいるというのは騎士の中でも団長以上しか知らない内部情報のようだ。俺も最近知ったからな」


「なぜそんな重要な情報をバラすんだ?」


「知られるのも時間の問題だからだ。なにせザラ姫が死んだということは婚約の件は第二王女になるだろうからな」


ここにずっと黙っていたガイが割って入る。

今まで気になってはいたが、ずっと聞けずにいたことだ。


「そもそも、なんで平民と貴族が婚約するんだよ。おかしいだろ」


「簡単な話さ。それは血が濃すぎるからなんだ」


答えたのはクロードだった。

続くようにアッシュがその後に口を開く。


「王族ってのは血が濃すぎて、同じ王族や貴族との間に子を作ることができない」


「濃すぎると子供ができないのか?」


「血は関係なく子供は作れるが極端に短命なのさ。凄まじい量の波動数値に体が耐えられないといったところだ」


「そういうことか……」


「話を戻すが、噂程度でも第二王女のことを聞いたことがないのか?」


「まぁ噂程度なら……」


アッシュが眉を顰める。

その表情から見て取るに、あまり"いい噂"でないことは確かだった。


「あくまで噂だが、王宮内で大きな事件を起こした問題児だと聞いた」


それを聞いたクロードはすぐに思考した。

この情報はおかしいものだ。

問題を起こすとなれば、ある程度でも成熟した歳であることは間違いない。

なぜそんな歳になるまで第二王女という存在を公表しなかったのだろうか?

非公表の第二王女と、その王女が問題児であるということの二つの情報にひずみが出るのだ。


つまり、それ以外の何か他に深い意図があるのではないか……そうクロードは思った。

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