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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
169/250

帰還(1)


ゾルア・ガウスは消えた。


ガイの強力な攻撃によって暗闇へと吹き飛ばされ、吹き荒むように降る雪と共に見失ってしまったのだ。


長い間、王宮騎士団を潰すために仲間を集めて大きくなっていた組織だったようだが、ボスが行方不明になったことから事実上、消滅で間違いない。


情報を整理した結果、ブラック・ラビットの主力メンバーの状況は、


・ゾルア 行方不明

・ホロ 死亡

・セリーナ 捕縛

・レイ 行方不明

・シグルス 行方不明

・カッツェ 行方不明

・アイヴィー 行方不明

・ローラ 死亡?


というのが現状であった。


__________



ガイ、メイア、アッシュ、ローゼルの4人は無事にベンツォード砦へと帰還した。


メイアとローゼルの傷はガイのスキルによって治っていたが、アッシュの体にはいくつかの火傷を残した。

封波剣の能力でガイの炎天五剣の能力を無効化していたことによってものだ。


傷によって痛みはあったが、そんなものはどうでもよかった。

アッシュは誰もいなくなったベンツォード砦で1人、南地区にある診療所へ向かっている。


雪は少しだけ降り、アッシュの防寒着に落ちてくる。

吐く息は真っ白で、ちょうど太陽が空の中心に来る昼間であっても異常な寒さであることを感じさせた。


診療所に着くと大きく深呼吸し、手櫛てぐしで簡単に髪を整えてから中へ入る。

簡易的な作りの診療所内には、いくつかの木造のベッドが並んでいるだけだ。

さらに、ほとんどがマットもシーツも敷かれてはいない。

たった一つのベッドだけ除いて。


一番奥のベッドには緑色の髪の女性が寝ていた。

ゆっくりと歩みを進めてベッドに近づく。


アッシュは隣のベッドに腰掛けると、女性は静かにまぶたを開けた。


「ローゼル、すまない。起こしてしまったな」


「いえ……ずっと起きてましたから」


「そうか」


少しの間があって、再び口を開いたのはアッシュだった。


「俺が無理して北へ向かわなければこんなことにはならなかった」


「お気になさらず……私は生きてますから」


「気にするなというほうが無理な話だ。初めて受け持った団を潰して、副団長代理に重症を負わせたとなれば、それこそ始末書じゃ済まない」


「私のことより責任問題が気になりますか?」


「いや、俺は決してそんな……」


アッシュが間髪入れずに発言するとローゼルは笑みをこぼす。


「冗談ですよ」


「……君でも冗談を言うんだな」


「冗談を全く言わない人間が、たまに言えば本気に聞こえるでしょう。それで私は他人を嘲笑あざわらってるんですよ」


「性格悪いねぇ」


ローゼルは再び笑った。

つられてアッシュも笑みを浮かべる。


「何より助かってよかった」


「彼のおかげですよ。彼がいなかったら全滅していた」


「そうだな」


「あんなに強い人間が平民にいるとは……並の冒険者ではない。団長が言われていたことがわかった気がします」


最初にアッシュが言っていたこと。

それはナイト・ガイというパーティは騎士団の一個小隊に匹敵する力を持っていると言っていたものだ。

しかし今になって思えば、恐らくガイという少年だけでそれほどの力を持っているだろうとも思う。


「少年君の妹も凄まじい強さだ。やはり俺の思った通りさ。波動数値なんてただの飾りだ。自らの持つ強さを引き出すには"想いの強さ"が必要なんだ」


ローゼルは何も言わなかった。

もしヨルデアンに行っていなければ反論したかもしれない。

だがガイという少年が持つ、波動とは違う何かを感じ取ってしまったローゼルはただ頷くしかなかった。


「彼の強さとは一体……」


「俺の予測だが"仲間を大切に思う心"だろう。組織を任される長という存在には最も必要な素質だ」


「たったそれだけ?」


「"たったそれだけ"を貫くのが難しいんだ。諦めずに自分の心と戦い続けていなければならないからな。それに引き換え、貴族の集まりである騎士団は利己的な人間の方が多く集まってる。しんがないからもろいんだろう」


「なるほど……そういうことですか」


そう言って無理にでも理解しようとしたがローゼルにはどうしてもわからなかった。

本当にそんな感情が強さに直結しているのか?

自分は他人には興味がない。

"大切な人"なんて存在しないのだ。


「ですが私には誰もいません。私にはその強さを知ることはできない」


「俺がいるだろ」


アッシュは真剣な表情で言った。

ずっと天井を見ていたローゼルは初めてアッシュの顔を見る。

そして、ため息をつくと再び天井を見る。


「そうですね」


「あれ、なんか素っ気ないきがするんだけど」


「いえ、そんなことはないですよ」


「また冗談なんて言わないよね?」


「言いませんよ」


妙に冷たい態度にアッシュは困惑しつつ頭を掻く。


ローゼルはそんなアッシュの姿を見ることなくまた目を閉じた。

まぁ、確かに近場から始めてみてもいいかもしれない……そう考えるとなぜか心が軽くなった気がした。

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