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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
165/250

疾走する者


ゾルアまでの距離は数百メートル。

無数の炎の羽が空中に停滞する中、アッシュは疾走した。


アッシュが持つ封波剣によって斬られた炎の羽は、"触れると爆発"という本来の能力を発揮することなく掻き消されていく。

さらに後衛を任されたメイアの杖に収束する炎は巨大な球体を作り、放たられる瞬間を待っていた。


ゾルアの真っ赤に染まったロングコートと腕に乗る炎の鳥が何を意味しているのかはわからない。


だがアッシュは止まるわけにはいかなかった。

ローゼルを抱えた時にした少しだけの会話を思い起こす。


"にげて、ください……"


"そうはいかない。仇は必ず討つ"


"り、理性を……わ、私のようなものに感情的にならないで"


"何を言ってる。こんな時に感情的にならないでいつなるんだ。俺は昔のように後悔したくない"


焼けただれた体、涙を流して苦しむローゼルを思い出すとアッシュの心に怒りの炎が燃え上がるようだ。

決して冷静さを失ったというわけではない。

今まで感じたことのない不思議な感覚がアッシュ包み込んだ。


「止まるわけにはいかない。なにがあろうともな!!」


ダンスのステップを踏むように剣を振るって、炎の羽を消していく。

残りの距離が数メートルというところでゾルアが動いた。


「やはり、この程度では止められないか。ならば」


ゾルアは炎の鳥が乗った腕を掲げる。

すると大きく翼を広げて爆風を起こす。


「まだまだ成長の余地はあるな。これだから戦いは辞められん」


風は周囲に広がった炎羽を一点に集める。

場所はアッシュの目の前だ。

瞬間、連続した大爆発を起こして行手を阻むどころか爆炎はアッシュの体ごと包み込んだ。


「いくら封波の剣といえども、この炎は防ぎきれんだろう」


笑みを浮かべるゾルアだが、それも一瞬のこと。

爆炎の中で数度、剣閃が走ると炎はすぐに消え去って煙しか残らなかった。

アッシュは多少の火傷はあるものの、ほとんど無傷に近い。


「どういうことだ?」


驚きも束の間、アッシュの後方にいたメイアが杖を振って巨大な炎の球体を放った。

地面を抉るようにして猛スピードで進む火球は横からカーブするようにゾルアへと向かう。


炎の羽は全てアッシュへの攻撃で使ってしまった。

メイアの攻撃に対応するには"回避"しかない。

一呼吸置いてゾルアはさらにバックステップして後退する。


そのため炎の球は当たることなく通り過ぎた。

それを目で追ったゾルアは眉を顰めていた。


「単純な攻撃だ……これで終わりなのか?」


すぐにメイアへと視線を送るゾルアはハッとする。


「"炎の天竜"!!」


メイアが大きな杖を掲げた瞬間、炎の球は急停止して、その場で炎の竜巻を作った。

天まで伸びる炎の竜巻から無数の炎線が放物線を描いてゾルアへと自動追尾する。


「なんという……見たこともない波動操作だ。まだまだ世界は広いな」


ゾルアは炎線を一つ一つ丁寧に回避する。

地面に着弾する炎線の間を掻い潜り、アッシュはついにゾルア・ガウスに到達した。


「このまま首をねられたくなければ負けを認めろ!!」


「負けを認めろだと?なぜだ?」


「明らかに劣勢だろうが!!」


「劣勢?俺はまだ本気を出していないぞ」


その瞬間、アッシュの体が燃え上がり吹き飛んだ。

すぐに炎は消えるが確実にその"衝撃"はダメージとなってアッシュの体に刻み込まれる。

地面に叩きつけられたアッシュには意識があったが動くことができない。

後方にいたメイアも同様、大きな爆発と共に数十メートルも吹き飛ばされて地面を転がる。

着ているローブのところどころから火が上がって燃やしていた。


ゾルアはため息混じりに言った。


「やはりな。力の半分程度でもこのザマさ。俺が本気を出せる人間はこの世界には一人もいない」


腕に乗った炎の鳥の隻眼が開かれていた。

ゾルアを見た者は炎に焼かれるという能力だ。

目の前に倒れている気絶寸前のアッシュ、炎に包まれそうなメイア、瀕死のローゼル。

これは完全なる勝利で間違いなかった。


「全滅だな……全滅……?」


"全滅"という言葉を口にした瞬間、酷い頭痛がした。

作り出されていた炎の鳥は風に靡くように姿を消す。

ゾルアの頭の中で記憶に無いはずの知らぬ会話が再生された。


_____________



"ヤツを倒す"


"無理だろ?いくつも*を持ってるんだぞ。殺す方法も不明だ"


"恐らく解明にはかなりの時間を要するでしょう。倒すとなれば我らの寿命が持たないですよ"


"なら利用してやればいい、ヤツの***を"


"バレずにどうやるのじゃ?ヤツは頭がいい。おいそれと***を使うなんて馬鹿な真似はせんじゃろ"


"簡単なことさ。僕が君らを『全滅』させる。そうすればヤツは***を使うだろう"


"下手な芝居だと思うけどねぇ"


"いや……芝居じゃない。僕が本当に**になる。そして全員でヤツをだますんだ"


"なるほど。だが、その方法しかないのか?"


"方法を考えている時間はない。****は頼んだぞ****。僕をこれ以上ないってほどの**にしてくれ"


"そこまでやる必要があるのか?この計画だと、お前は生き残れないんだぞ"


"人はみな平等にいつかは死ぬんだよ。それに念には念を……ここでヤツを永遠の時の流れに逃したら誰も倒せない。せっかく正体がわかったんだ、確実に僕たちが仕留める"


_____________



ゾルアは両手で頭を押さえていた。

いつ、誰とした会話なのか全くわからない。

気を抜けばすぐに忘れてしまいそうな妙な感覚に襲われる。


「なんだ……この会話は……俺はその場にいたってことか?」


頭痛がようやく治った頃、ドン!という轟音がどこからか聞こえた。

それはガイが吹き飛ばされた方向からだった。

遠くから凄まじい熱波がゾルアが立つ場所まで届き、さらに巨大な炎の柱が天を貫くように伸びていた。


「あの場所は……まさか……」


ゾルアの表情は引き攣った。

炎柱が上がる方向を考えるに"あの場所"であることをすぐに思い出す。


すぐに炎柱から何かが飛び出して等間隔に地面に突き刺さった。

"炎の剣"、それはゾルアと倒れたアッシュ、メイア、ローゼルを取り囲むようにして刺さる。


「なんだ、これは!?」


凄まじい熱を放つ炎の剣を見て驚愕するゾルア。

さらに炎柱から地面を這うように猛スピードで近づく赤い歪な線。

ほぼ一瞬で赤い線がゾルアまで到達すると同時にズドン!!という轟音が響き渡る。


「が、がは……」


時間差と共にゾルアは腹に激痛が走った。

何者かの攻撃……左拳によるボディブロー。

振り抜かれた拳によって後方、数十メートルもの距離を転がると地面に突き刺さっている5本の炎の剣の範囲から出た。

転がりながらも体勢を立て直し、片膝をついて赤い線の正体を見る。


「"五の炎・炎天五剣えんてんごけん"」


その姿は先ほど吹き飛ばした少年だった。

手に握られていたのはS字で銀色の短剣。

持ち手も刃になっているのか強く握ると血が滲む。

それを吸収して銀色の短剣は徐々に赤みを増していく。


ガイは伝説の武具であるロイヤル・フォース、"スター・ブレイカー"を手にしていた。

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