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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
156/250

絶氷(1)



ヨルデアン


北西の洞窟 下層



絶壁ならぬ絶氷の中央、アッシュとメイアの膝元まで上がった水は一瞬にして凍りついた。

足元が凍ったことにより、寒気が背筋を走り脳を刺激する。


数百メートル先にソファに腰掛けた男、ガガルドがパン!と勢いよく両手を合わせてから数秒もしないうちに凍ったのだ。


ガガルドは再び羽織っている分厚い毛皮の中に両手を戻すとニヤリと笑う。


「さてと、ここからはじっくりといこう。私には時間なんてたっぷりあるからね」


その言葉が何を意味しているのかはわからないが、おそらくこれ以上は水位を上げることはできない。

座っているソファより上まで水位を高くしてしまえば自分にも被害が及ぶ。

水の波動は持続的な攻撃には適しているが殺傷能力は乏しい。

簡単ではあるが思考するに、ガガルドがやろうとしていることは氷の波動による攻撃だろうとアッシュとメイアは同時に予測した。


2人は足元を強く動かすが、凍った部分はびくともしない。


「どうする?お嬢ちゃん」


「……まずは動けるようにします」


「できるのか?」


「はい。ただ"波動連続展開"を使って氷だけを溶かすので、その後は少しだけ無防備になります。どうしても波動再発動には数秒が掛かるので」


「そうか。だがそこは心配しなくてもいい。時間を稼ぐから二度目の波動発動は自由にやってくれ。俺がそれに合わせる」


「わかりました」


アッシュはメイアの実力を知らない。

若さで言えば自分の歳の半分といったところ。

だが、この若さで北に来るということは相当な実力者であることは間違いないし、さらに兄にいたっては闘気が見えるという。


正直に言って現状は敵が有利な状況ではあるが、メイアとの共闘は今までにないほどアッシュを高揚させていた。


アッシュは後方を少しだけ振り向いて見る。

大きな杖を掲げたメイアの周囲には薄く熱波が幾たびも放たれていた。


「この熱は……炎の波動の使い手か」


ガガルドが言った。

さらに羽織った分厚い毛皮の中からおもむろに片腕を出す。

そして広げた手を一気に握るとアッシュとメイアがいる場所を中心として天をもつらぬくほどの高さの水流が渦巻く。

水流は徐々に中心へ向かって収束していくようだ。


「一瞬で凍らせるのは勿体無い。水の中で恐怖におののく様をそのまま氷の彫刻として残してやるよ」


水流はアッシュとメイアを飲み込んだ。

そしてガガルドが親指と中指を合わせて擦りわせてパチンと鳴らす。

すると一瞬にして渦巻いた水が凍ってしまう。

2人は氷の中に閉じ込められるような形だ。


だが、その氷が維持されていた時間はほんの僅かだった。

なぜだかわからないがパッと氷の柱が消え、さらに勢いよく熱波が広がる。


「どういことだ!?」


驚愕のガガルド。

熱波によって溶けた氷によってできた水蒸気をかき分けて飛び出したアッシュは一直線にガガルドの方へと向かった。


「俺は波動嫌いでね。波動もそれをわかっているのか俺には寄りつかない」


「意味がわからん。どんな原理だ?」


「考えてる暇は無いぞ!!」


ガガルドの座るソファまで到達は一瞬。

地面の氷によって踏ん張りは効かないが、アッシュが使う"ルザール拳法"は北で生まれた武術だ。

このような地形でも対応はできる。


アッシュはガガルドの目の前で立ち止まり、しっかりと踏み締めると足を肩幅に開く。

左手を前に、右腕を腰に構えてゆっくりと息を吐き筋肉を最大まで引き締めた。


「ルザール拳法……猛虎正拳突き」


「"シルヴァーフェイス"だ!!」


正拳突きはガガルドの顔面狙い。

直撃と同時に骨が砕けるような鈍い音がした。


「冗談だろ……」


アッシュの顔が歪んだ。

右拳を引くと見えたのはガガルドの顔にある"氷の仮面"だった。


「危ない危ない」


「俺の拳で砕けんとは……」


「硬さには自信があるのさ」


ガガルドは自分の顔に装着された氷の仮面を人差し指でコンコン叩く。

アッシュがゆっくりと手を広げてみると指の骨がいくつか砕けていることは感覚でわかった。


「波動嫌いとは面白い。だが波動を使わずに波動使いに勝てるとでも?」


「何も俺一人で戦ってるわけじゃないからね。もしかして、()()()()()()()()()()()()()?」


「貴様……」


アッシュは凍る地面を蹴ってバックステップをした。

その体を横にかわすようにして4本の炎の球がガガルドへ向かって飛ぶ。


「数値を重ねろ。この炎の波動使いは波動連続展開を使ってる」


誰に言ったのかわからない言葉。

ガガルドが呟くと炎の球を防御するように分厚い氷の壁が現れた。

炎の矢は氷の壁を伝うように燃え広がる。


だがメイアの攻撃はこれだけではない。


「"炎の巨星"」


掲げた杖に熱が収束し始め、徐々に大きくなって最後には巨大な火球を作り上げる。

メイアが杖を振ると炎の球は燃え盛る氷の壁に目掛けて飛んだ。


ゆっくりと周りの氷を溶かしながら進む巨大な炎の球は氷の壁に激突すると四方八方にヒビを入れた。

さらに氷の内側に侵入した熱は中から徐々に溶かし、最後には破裂させるようにして氷を水蒸気にまで変えた。


「なんという凄まじい波動だ……この氷を溶かしてしまうとは」


ガガルドは唖然としていた。

目は見えずとも氷の壁が壊されたことは感覚的にわかる。


水蒸気が消えて視界が開けるとメイアが鋭い眼光でガガルドを見ていた。


「もう、あなたの秘密はわかってます。いえ、"あなた方"と言ったほうがいいでしょうか」


「まさかな……ここまでの実力者を招いてきたとは。しかも声から察するにまだ子供のように思えるが」


「年齢なんて関係ないです」


メイアがそういう言うとガガルドが羽織る分厚い毛皮から"細い指"が出てきた。

"細い指"はカーテンを少し捲るようにして毛皮を開く。

そこから覗かせたのは見開かれた"瞳"だった。

ガガルドとは別の顔が分厚い毛皮の中にあった。


「そうよねぇ。私もそう思うわぁ……お嬢さん」


低いトーンではあるが若い女の声。

ガガルドの着る毛皮の中にもう1人の人間がいたのだ。

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