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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
155/250

共闘



ヨルデアン 


北西の洞窟 上層部



冷静に考えるに、この状況ではメイアとアッシュは置き去りにするしかない。

ローゼルがその決断を下すより早くガイは決めていたようだ。


だが、ここで問題が起こる。

ガイとローゼルが先に進もうとすると、そこにいたはずの人物がいなかった。


「おい、あいつはどうした?」


「まさか……」


案内役であったブラック・ラビットのメンバーのホロと呼ばれた大男。

ガイとローゼルがやりとりをしている僅かな隙をついて姿を消したのだった。


「なるほど。そういうことでしたか」


その言葉に首を傾げるガイ。

この状況が一体どういうことなのか全くわからなかった。


「彼がここまで素直に案内した理由はこれだったのか」


「どういう意味だよ」


「あのホロという男は頑なに何も語ろうとしなかった。けど、ここまで何の抵抗もせずに案内していたのは、この洞窟に私たちを入れるためだった」


「……そういうことか」


組織の情報を全く喋らなかった者が、このままアジトまでの道のりを素直に案内にするというのは違和感がある。

途中、クロードが行方不明になったのは想定外だとしても、いまがたに起こった崩落が人為的なものだとしたら完全に嵌められたのだ。

ホロがこの場にいないということは、その確率はかなり高いと言えるだろう。


「とにかく前に進むしかないでしょうね。彼がアジトまで行くことはわかりきっていますから」


「そうだな。急げば追いつけるかも」


「だといいですが」


2人は氷で覆われた暗がりの通路をゆっくりと進んだ。

すると先ほどと同じようなドーム状の空間に出る。

明かりが少しだけ差し込むが、光が氷に反射して部屋を照らしていた。


中央、異様に大きくドス黒い存在がそこにいる。

その姿はガイには見覚えがあった。


「あれはベオウルフだ……なんでこんなところに」


犬のような顔した魔物だ。

二足歩行で手足が長く、両手の爪は氷の地面に直線の傷をつけるほど。

この魔物はガイの初戦の相手だが、あの時は波動を使えたことで勝てた。

今回は波動が使えず、さらにメイアの後方支援もない。


「この北部では珍しくない魔物ですからね。洞窟に迷い込んで、そのまま放置されていたといったところでしょうが……ですが妙ですね」


「何がだ?」


「この空間には私たちが来た通路の一つしかない。つまり、この場所にホロがいないのはおかしい」


この場所に来るまでは"一本道"のはずだった。

つまり行き止まりのはずの場所にホロがいないのは不自然だった。


「途中、横に抜け道でもあったんじゃないか?暗くてよく見えなかっただけとか」


「ええ。それが最も考えられる可能性でしょう」


「引き返す……っても、あいつは絶対追いかけてくるな」


2人が並ぶ正面に立つ黒い存在。

ベオウルフは無表情にこちらを見ている。

最初に出会った時のように振り向いて逃げようものなら確実に追ってくるだろう。


「前衛は任せましたよ。私は援護を」


「あ、ああ」


ローゼルは背負った弓を手に取る。

矢筒に手をかけて矢を一本取り出すと弓につがえ下に構えた。

ガイも数歩前に出ると左腰のダガーのグリップを左で逆手に握る。


それが戦闘開始の合図と見たのか、ベオウルフは猛スピードで走り出す。

距離は数百メートルはあったが、この速さならものの数秒でガイが立つ場所に到達するだろう。


ガイには不安はあった。

果たして組んだことのない者と共闘など上手くいくのだろうか?

だが、そんな悠長に考えている暇はない。

必ずここを突破してローラを救う。

その胸の奥から燃え上がるような決意がガイの瞳を紅くさせた。


「なんだこいつ……最初に戦った時のヤツより"遅い"じゃないか」


ベオウルフの攻撃は手に取るようにわかった。

左右の鋭利な爪による突きの攻撃。

なぜかガイにはベオウルフの動きはスローモーションにしか見えない。

ダガーを抜くまでもなく全て上半身の移動だけで回避する。


その様子を後方で見ているローゼルは眉を顰めた。


「なんなの……あの動きは?」


そこにようやくガイはダガーを引き抜く。

ベオウルフの突き攻撃に合わせてカウンターで合わせいく。

少し毛並みのあるベオウルフの腕は攻撃するたびに切り刻まれていった。


たまらずベオウルフも動きを変える。

手のひらを広げて地面を擦り上げるように引っ掻く。

範囲が広く回避しづらい攻撃ではあるが、ガイは冷静にバックステップして間合い外へ。

同時に右腰のダガーのグリップを逆手で掴み引き抜いて投げる。

高速回転したダガーはベオウルフの振り上げ攻撃後に脇腹付近に突き刺さった。


だがベオウルフはびくともせず、ガイの回避着地際を狙って踏み込んで突きの攻撃を繰り出す。


瞬間、後方からビュンと鈍い音と共に矢が飛ぶ。

矢は顔面狙いだった。

すぐさまベオウルフは突き出した腕を戻して矢を弾く。


「いいタイミングだ」


ガイは笑みをこぼした。

氷の地面では踏み込みが遅れる。

そこにローゼルの援護は一瞬だったとしてもベオウルフの懐に入る隙を十分あたえてくれたのだ。


あまり力まずに踏み込む。

狙いは心臓部分だった。


だがこの思考はベオウルフに読まれていた。

即座にクロスガードした動きにはある程度の知性を感じさせるものがあった。


「クソ!これじゃダメだ……」


逆手に握られたダガーを一気に横一閃で振り抜こうとしたが、ベオウルフの両腕に止められる。


そこにガイの後方から声がした。


「それでいいんですよ。これで"頭"はガラ空きだ」


その発言の後、すぐに弾かれて空中にあるローゼルの矢がクルりと回転してベオウルフの方を向いて止まった。

そしてすぐに爆風が起こると、空中にある矢がその場から瞬時に射出されベオウルフのこめかみを貫通した。


ベオウルフは力なく両膝を着いて前に倒れ込む。


驚くガイは振り向いて無表情のローゼルを見る。

天才的なアシスト能力。

ガイの動きと敵の動きを把握し、先まで読んだ上での攻撃だったのだ。


「先を急ぎましょう」


「ああ」


ローゼルの先導で暗がりの細道に引き返す。

そして先ほどの部屋へ戻る途中に壁を探ると、やはりもう一つ道があった。

さらに一段と薄暗い道を進むと、ようやく明かりが差す。


洞窟に吹き込む風を感じつつガイとローゼルはようやく外に出た。


雪が少しだけ降る一面が雪原の中、数百メートル先に2人の男女が並んでいた。

1人は修道服を着た長い緑髪の大男であるホロで、すでに封波石の手錠は外されている。

そして、もう1人は妖艶な笑みを浮かべる長い黒髪の女性。

この女性の顔を見たガイは驚愕した。

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