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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
154/250

前進する者

ローゼルは両膝をつくガイを無表情で見つめている。


"ああ、これはもうダメだろうな"


ふとそう思ったのは過去のとある出来事があったからだ。


数年前のことだが、入団したての新人騎士たちが魔物に襲われた。

強力な魔物の前に為す術がなく数人の犠牲者を出した。

助けに行った者も帰って来ず、かろうじて生き残って戻った者は精神を病んだ。

同じ騎士学校で切磋琢磨した友人が目の前で無惨に殺されれば当然だろう。


今回も事は違えど同じような状況だった。

この冒険者は仲間を取り戻すためにここまで来たが、それが起因となって他の仲間を失うことになったのだ。


ローゼルは特に人間には興味がない。

子供の頃に自分を溺愛していた父親が死んだ時も泣くどころか何も感じなかった。

"まぁ、生まれたからには死ぬのは当然"なんて冷めた感情で葬儀を終えたことを思い出す。


だからこのまま団長であるアッシュが死んでもどうせ自分は悲しまないし、何も感じることはないだろう。


ガイの姿を見るローゼルは眉を顰める。

感情なんてものが何の役に立つのだろうか?

出来事によって受けるものが"ポジティブ"ならいいが、"ネガティブ"であるなら不利益だ。

下手をしたら生きることすら諦めてしまう。


ガイが経験していることは明らかにネガティブな出来事であり、それは彼にとって不利益。

そして、この出来事は彼を立てなくさせるほどものであることは間違いない。



ローゼルが切り替えて、この先のことを思考し始めようとした時のことだ。

ガイは徐に立ち上がるとローゼルと視線を合わせて、一度だけ深呼吸して言った。


「先へ進もう」


「ええ」


その言葉を聞いたローゼルは自分が一体どんな表情で頷いたのかわからなかった。

ガイという少年の眼光は数年前に見た新人の騎士たちとはまるで違う。

ネガティブを立て続けて感じた者の瞳ではなかった。

年齢でいけば新人騎士たちのほうが上ではあるし、体つきも騎士たちが遥かに勝る。


だがこの少年には貴族出身で騎士学校を卒業し、実力があった若者達には無い何かがある。


"なぜこんなことがあっても前に進めるのか?"


まだローゼルはその答えを知り得なかった。


____________



ここは氷の洞窟の地下にあたる場所なのだろうか?

メイアは周囲を見渡しつつ思考を巡らせた。


上と同じで円形状の部屋で正面にはソファに寝そべる白髪ロングヘアの顔が焼け爛れた男。


頭上を見上げるが真っ暗で何も見えない。

かなりの高さから落ちたのだろう。


隣に立つアッシュはゆっくりと歩みを進める。

なぜか背負った剣を抜かずにいた。

メイアにはそれが引っかかった。


「あの、それは使わないのですか?」


メイアは相手の目が見えていないことを考慮して"剣"という単語をあえて言わなかった。


「ああ。これはここでは使えないよ」


「どうしてですか?」


「これは波動で作られた氷に見える。どこからどこまではわからない」


メイアは理解した。

波動で作られた部屋。

以前にもアダン・ダルにあった土の迷宮がそうだった。

あれは全てが波動で作られたものだったが、もしあの場所で封波剣を使って壁や地面にキズをつけてしまえば一瞬にして消える。

つまりこの洞窟が全て波動で作られていたとするなら、氷は消え去って自分たちは再び吹雪に晒されることになるのだ。


「では、どうするのですか?」


「君は遠距離型なのだろ?なら援護を頼むよ。俺はこの拳で戦う以外あるまい」


「波動は……使わないんですね」


「波動は嫌いなんだ」


「なぜですか?」


「君は素直に聞くね。誰もそんな質問を俺にはしたことがないよ」


「言いたくないのであればそれでいいですが、状況が状況なので」


この世界の人間は生まれた時から波動を使えるが、それを"好き"か"嫌い"かで判断することがメイアには理解できなかった。

いわば寝たり食べたりすることが好きか嫌いかというレベルの話だ。

そんなことを好き嫌いで分ける人間はいない。


「昔、騎士団に入団したての頃に自分の波動数値を過信しすぎて何人も犠牲者を出した者がいた。それから"波動至上主義"に疑問を持ったのさ」


「それが波動を嫌いな理由ですか?」


「残念なことに同じような出来事は騎士団の中で何度も繰り返されてる。数値が高い人間が犯した罪なんて問題視しない。処分されるのはそれ以下の人間なんだ。波動なんてものがあるからこうなる。そう思うようになったら自然に嫌いになってたんだよ」


「酷いです……」


2人が会話しているとソファに寝そべっていた男、ガガルドが徐に上体を起こす。

やはり、その視線はアッシュにもメイアにも定まらず、あらぬ方向を見る。


「作戦会議は終わったかな?」


「待たせて悪いね」


「今の話ぶりから察するに……考えづらいが"騎士団の男"と"冒険者の女"の組み合わせかな。なぜ一緒にいるのかは気になるところだが、まぁ殺した後にじっくりと考えることにしよう。なにせ私には時間はたっぷりあるからね」


ニヤリと笑うガガルド。

戦闘開始を予兆させる不適な笑みに身構えるアッシュとメイア。


「じゃあ始めようか」


ガガルドの発言から数秒。

何も起こらない状況に眉を顰めながらもアッシュは一歩踏み出した時、初めて"それ"に気づいた。

明らかに凍った地面を踏んだ感覚ではない。


「なぜだ、ありえん」


「地面に水が……」


地面に水が徐々に水位を増してきていた。

それは2人の膝まで上がる。


ガガルドの腰掛けるソファはそれより高いため、彼には全く影響がない。

そしてガガルドが両手を前に出してパン!と叩くと水は一瞬にして凍り、アッシュとメイアを動けなくした。


「なぜ二つも波動を使える?」


「私の他にもいるみたいだぞ、だが私のはそのたぐいでは無い」


「どういう意味だ?」


「教えるわけが無かろう。まぁ知ったところで私には勝てんよ」


アッシュとメイアは同時に思考を重ねる。

"水の波動"と"氷の波動"という違う属性の波動を使うガガルドという男。

この能力の秘密とは一体なんなのか?


ここから"絶氷のリヴァル・ウォール"の戦いは開始された。

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