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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
153/250

分散


冒険者であるガイ、メイア、クロード。

王宮騎士団のアッシュ、ローゼル。

そしてブラック・ラビットのメンバーで捕虜のホロ。

この6人は広漠なる雪原に足を踏み入れていた。


現在ヨルデアンは猛吹雪に見舞われ、視界はゼロに等しい。

ホロ以外の者は一体どちらに進んでいるのか全くわからないまま先に進んでいる。

いや、これが"進んでいる"というのかどうかすらもわからなかった。


思いの外、素直に先頭を歩くホロ。

続く他のメンバーは一列でそれを追う。

目も開けてられないほどの吹雪は、前方を歩く者を見失ったら遭難は必定だ。


彼らが目指していたのはヨルデアンの北西にある洞窟だった。

ブラック・ラビットのメンバーたちがアジトまで移動するために使う通路なのだという。

この場所を通らなくてもアジトまでは行くことはでき、そちらの方が早い。

だがヨルデアンは吹雪で視界を遮られることが多いためこの洞窟を利用しているそうだ。


そして歩き続けること数時間、ようやくこの洞窟に辿り着くことができた。

洞窟内はその寒さから一面が氷に覆われていた。


洞窟の入り口に小走りで入るガイ、メイア、アッシュ、ローゼル、ホロ。


「ようやく辿り着けたな」


そう言ったのはアッシュだ。

防寒着にローブを羽織り、背中にはガードのない黒い鞘の細剣を背負う。

ゴソゴソと胸元を探って取り出した銀の櫛で金色に光る髪を丁寧に整えていた。


「何日も歩き続けたような感覚になりますね。まだ数時間ですが」


ローゼルが防寒着のフードを取り、その綺麗なエメラルドグリーンのショートヘアをあらわにした。

背中には弓と矢筒を背負っている。


「メイア、大丈夫か?」


「ええ」


ガイとメイアは顔を見合わせて安堵する。

この猛吹雪の中なら案内役の人間がいなければ

遭難することは間違いない。

そう思いつつ2人は体についた雪を払っていた。


一方、腕を封波石の手錠で拘束されたホロは吹雪で白く染まって視界がない外をずっと見つめていた。


それが気なったアッシュが冗談混じりに言った。


「どうした、牢屋が恋しくなったのか?」


「……逸れたな」


「なんだと?」


時間差でガイとメイアが気づいた。

ローゼルも周囲を見渡してハッとする。


「彼がいませんね」


「そんな、クロードさん……」


「まさか……クロードが途中で逸れたのか!?探しに行かないと!!」


ガイは急いで洞窟の外に出ようとするが、アッシュに防寒着のフードを掴まれて止められる。


「待つんだ少年」


「何すんだよ!!」


「この状況で後先考えずに行動するのはナンセンスだ」


「仲間が置き去りにされてんだぞ!」


「そうだな。だが君一人が行ってどうなるものでもない。ましてや俺たち全員で戻ったとして、それで皆が遭難したら元も子もないだろ」


「だったらどうするってんだよ!」


「このまま進むしかあるまい」


ガイは言葉を失った。

このアッシュという男は仲間を見殺しにしろと言っている。

それがどうしようもなく許せなかった。

怒りのままメイアの方へと視線を送るが、彼女も横に首を振った。


メイアは頭がいい。

今まで彼女が間違っていたことはなかった。

このことから判断するにアッシュの言ったことは正しいということなのだろう。


「気持ちはわかるさ。俺も経験あるからね」


「……」


「しかし、まだ死んだと決まったわけじゃない。いや、あの男がそう簡単に死ぬとは思えないのさ」


「私もクロードさんは生きてると思います」


ガイはメイアの言葉に救われた。

仲間を置き去りにしたというだけでも耐えられないほどなのに、さらに死んだとなればなおさらだ。

だがメイアとアッシュが言うようにクロードが簡単に死ぬとは思えなかった。


だがガイは不意に思ったことが、そのまま口に出る。


「俺はお前が嫌いだ」


「そうか。俺は君が好きだがね」


笑みを浮かべて言うアッシュに対して鋭い眼光を向けるガイだが続けて口を開いた。


「先に……進もう……」


その表情は苦し紛れだった。

こうしてクロードを抜いた5人のメンバーは氷の洞窟を進んだ。


____________



洞窟の内部は道が枝分かれになっていた。

これを迷わずに進むとなれば完全に道を知っていなければ不可能だろう。


例の如く先頭はホロ、ガイ、ローゼル、メイア、アッシュの順番で進んだ。


そして、ここでも数時間ほど歩くと開けた場所に出た。

ここは不自然なドーム状になっており"部屋"と言っても差し支えるない。


正面には4つの分かれ道がある。

ホロが迷いなく右から3番目の道へと向かい、ガイとローゼルが続いた。

後方のメイアとアッシュもそれを追うようにして歩く。


部屋の中央に差し掛かった時、最後尾のアッシュが足を止める。

それに気づいたメンバーたちは振り向いた。


「どうしたんだよ」


ガイが呆れ顔のため息混じりに言った。


「……走れ」


「は?」


「走れと言ったんだ!!」


瞬間、地面の氷が中央から外側にかけて、だんだんと砕けて落下していく。

メンバーたちは全速力でこの部屋の出口へと向かった。

だがアッシュは完全に間に合わず、出口を目の前にしたメイアも砕けた氷と共に落ちていった。


「メイア!!」


部屋にできた大きな穴は真っ暗で、下がどこまであるのかわからない。

残されたのはガイとローゼル、ホロだけだ。


「そんな……クロードだけじゃなく、メイアまで……」


ガイは両膝をついて蹲る。

拳を何度も地面に叩きつけ、その音は虚しく洞窟内に反響していくだけだった。


____________



メイアが目を開くと抱きかかえられていた。

体格のいい男性で微かにいい匂いがする。


「無事かい?」


落下前よりも薄暗い場所であったため、目が慣れるまでに時間が掛かる。

それでも、その声の主はすぐにアッシュであることに気づいた。


「はい……ありがとうございます」


メイアがアッシュを見ると、その視線は遠くを見つめているようだ。

そしてすぐに"もう一つ"、男性の声が響いた。


「これはこれは、まさかまさかだな。こんな場所にお客人とは珍しい」


「何者だ?」


「ああ、申し遅れたね。私の名は"ガガルド・マーシス・フランジェスコ・マーキス・セルゲイ"。少しばかり長いだろ?他の人間からはガガルド卿と呼ばれてるよ」


「卿……とは、君は貴族か」


「いやいや違う違う。私はそんな身分ではない。ただ"この場所"をおさめてるからそう呼ばれてるだけさ」


おさめてるだと?」


「ああ、まぁでも少し違うか。これは幽閉みたいなものだ。要するに君たちのような組織と無関係な人間がここを通ったら始末するように命じられているのさ」


「なるほど。君はブラック・ラビットのメンバーというわけだ」


「まぁ……そうだな。だけど皆は私のことなんて忘れていると思うがね。なにせ洞窟を通っても挨拶一つありゃしないから」


「ここから出る方法はあるのか?」


「私を倒したらいい」


「そうか。それなら簡単だな」


「忠告しておくが、ここに落ちて上にがあがった人間なんて一人もいないぞ。魔物も含めてな」


「それはそうだろうな。君が生きてるということはそいうことになる」


「わかったら、ここで凍え死ぬまで私の話し相手になってくれよ。寒さより寂しさで死にそうさ」


「それはできないな。俺たちは急いでるんでね。すぐに君を倒して上へ行く」


「そうか……それは残念だ。なら、ここで死ぬしかないなぁ。この"絶氷のリヴァル・ウォール"で」


アッシュはメイアをゆっくりと下ろす。

目が慣れたのかアッシュの視線の先がようやく見えた。


そこにあったのはこの場には全く似つかわしくない黒く大きな毛皮のソファだった。

寝そべるようにしていたのはボサボサの長い白髪の男。

さらに分厚い動物の毛皮を羽織っていて体格が一切わからない。

目を細めてよく見るとガガルドの顔は全体が焼けただれており、あらぬ方向を見ている。


メイアは首を傾げるが、ふとある考えが浮かぶ。

このガガルドという男は恐らく目が見えていないのだ。

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