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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
146/250

追跡



広漠なる雪原に中にある集落。


集落の中央にある大きなコテージに集まったブラック・ラビットのメンバー。

最後に帰還したのはセリーナだった。


部屋にいたのはゾルア、カッツェ、アイヴィーだった。

ゾルアはちょうど真ん中に置かれた長テーブルの上座に座っている。

その左右にはカッツェとアイヴィーが席につく。


部屋に入ったセリーナは笑みをこぼして口を開く。


「あらあら……私が最後だったなんて」


「ホロはどうした?」


ゾルアが鋭い眼光を向けて言った。

その問いにセリーナはため息混じりに答える。


「ベンツォードで捕縛されたわ」


「なんだと?」


「第三騎士団長が帰ってきてしまったのよ」


「確か情報だとイース・ガルダンにいるはずだが」


「情報通りでなかった。あの男も当てにならないわね」


「イザークは殺せたのか?」


「直前で邪魔されたわ。ホロも第三騎士団長には敵わないことはわかっていたから、そのまま置いてきた。時間稼ぎにはなるでしょう」


「時間稼ぎか……奴らがイザークのことを知るのも時間の問題だぞ。ネルーシャンの件が明るみに出れば疑われるのは俺たちだ。いくら協力関係にあろうとも、この組織を壊滅させるための理由づけには十分なり得る」


「まさか、あなた達も失敗したの?」


セリーナが妖艶な表情でカッツェとアイヴィーを交互に見る。

すぐにゾルアがため息混じりに言った。


「どんな依頼を受けたのかは知らんが死神のパーティがネルーシャンに来て隠蔽を邪魔されたそうだ。イザークがスパイであるだけならいいが、あんな事件を起こしていたとなれば騎士団は必ずここに来る。お前とホロには失敗してほしくなかったな」


「それは申し訳なかったわね。でもベンツォードに残っているのはアッシュともう一人の女騎士だけみたいだから、私たち全員で残って戦えば処理できると思うけど」


「他の騎士たちは?」


「恐らくイザークが殺したわ」


「そうか……だが増援待たずして向かってくる可能性はある。少し計画は遅くなるが仕方あるまい。騎士様二人を待つとしようか」


「レイとシグルスはコーブライドに向かったの?」


「ああ。もう一人連れてな」


セリーナは首を傾げる。

当初はレイとシグルスの2人でコーブライドを占領する予定だった。

ゾルアが言う"もう1人"という意味がわからない。


「誰を連れて行ったの?メンバーはこれで全員のはずだけど」


「レイが連れてきた女だ。名前は確か……"ローラ"とか言ったな」


「それってもしかして短い青髪の女の子?」


「なぜ知ってる?」


「月の剣を回収する時に会ったわ。それ多分、"死神"のパーティメンバーよ」


「なんだと!?」


ゾルアの声に驚くカッツェとアイヴィー。

ここまで驚愕して取り乱すゾルアは珍しい。


「ワイルド・ナインの少年のパーティメンバーね。恐らくリア・ケイブスでその子を仲間にしたんでしょう」


「まさか……その少年とやらは赤い髪でダガーを何本も持ったガキか?」


「そうよ」


「レイと戦ったやつだ。波動を全く使わなかったからわからなかったが……あのガキがワイルド・ナインとは。そうなると死神のパーティはワイルド・ナインが三人もいるということか」


「三人ってどいうこと?」


「知らないのか?ローラとかいう青髪の女もワイルド・ナインだぞ」


「なんですって?」


「俺たちはめられたのかもしれん」


セリーナは目を細めて思考する。

一体誰に嵌められるというのか……この場合、1人しか思い浮かばない。


「レイが裏切ったってこと?」


「レイは元王宮騎士だからな。だがそれだけじゃない。ローラとかいう女はスペルシオ家の三女だ。グレイグのワイルドスキルは"記憶"を操る。二人とも、ここに来る以前から全て仕込まれていたということは可能性は十分にある」


「どうするの?」


「カッツェとアイヴィーに追わせる。間に合うか?」


「ええ。私とアイヴィーの二人ならすぐに追いつけるでしょう」


そう答えるカッツェに視線を送るゾルア。

ボロボロの黒いフード付きのローブを羽織ったカッツェの表情は見えないが、答えた声から察するに笑みを浮かべているようだった。

アイヴィーは相変わらずの無表情だ。


「ワイルド・ナインの女は確実に殺せ。レイとシグルスは生きてここまで連れてこい。何を企んでいるのか吐かせる」


「仰せのままに」


「殺すなら暗殺がいいだろう。あの女の"ワイルド・スキル"は他者の波動を封印する。そんなものを発動されたら勝ち目は無くなるからな」


カッツェは深々とお辞儀をして席を立つ。

アイヴィーもそれに続いた。

2人は出口へと向かい、セリーナには目もくれず通り過ぎるとコテージから出て行った。


「じゃあ残った私とあなたで最強クラスの騎士を相手にするということね。もしかしたら死神も来ちゃうかも」


「グレイグが死神と協力しているとは思えない。単独でローラを奪還するために道案内も無しにネルーシャンからヨルデアンに入るのは、いかに死神だったとしても自殺行為だ。来るのはホロを連れた騎士団の二人だけだろう」


「勝てるかしらね?厄介な相手よ」


「ずっと確実に勝てる相手とだけ戦って飽き飽きしていたところさ。久しぶりに楽しめそうだ」


ニヤリと笑ったゾルアの髪の色が赤く発光する。

"血湧き肉躍る"とはこのことだ。

この世界に存在する人間や魔物はほとんど相手にはならない。

そんなゾルアが警戒している人物の1人、アッシュ・アンスアイゼン。

この男と戦えることに高揚していた。


これが戦闘狂の宿命というものなのだろう。

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