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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
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感情と理性


早朝、イザークの自室を調べたが何も出てこなかった。

部屋は殺風景でベッドと机と椅子しかなく、生活感のかけらもない。


なによりもスパイであるイザークの死亡によってナイト・ガイのメンバーはヨルデアンにある盗賊団ブラック・ラビットのアジトへの足がかりを失ったのだった。



ガイとメイア、クロードは砦内にあるアッシュの書斎にいた。

アッシュは行儀などは考えず、机の上に足を組んで座っている。

相変わらず暖炉もないこの部屋では皆、吐く息は白い。


「やはり彼の部屋からは何も出なかったな」 


最初に口を開いたのはアッシュだ。

すぐにクロードが反応する。


「ああ。だが、そんなことよりヨルデアンに行く方法を失ってしまった。まさか自殺するとはね」


「そうだよ!これじゃ時間の無駄じゃないか!」


声を荒げるガイを見たアッシュは笑みを溢す。

その表情を見たガイは眉を顰めた。


「大丈夫さ。君たちはヨルデアンに行ける」


「どう言う意味だよ」


「盗賊団の一人を捕縛しているからさ」


「なんだって!?」


ガイのこめかみに血管が浮き上がる。

凄まじい怒りは腰に差したダガーのグリップを握らせるほどだ。

この間にもローラの身に何があるかわからないのだから。


「てめぇ!!最初から知っててこんなことやらせてたのか!!」


「そうだ」


アッシュの返答にガイは一歩踏み出そうとするが、それをクロードは止めた。


「やめろガイ。ここで争ってる暇はない」


「だけど許せるかよ!!やり方が汚ねぇだろ!!」


「言い分はごもっともだ少年。だがしかし、それが大人ってものだ。自分の目の前にある不利益を解決するためには他者を利用するのは当然のこと。たった一人の命なのか、これから先の未来の複数の命かと問われれば恐らく多くが後者を取る。俺はそれをしたまでだ」


アッシュが何を言いたいのかはガイにだってわかる。

もし、このままイザークを野放しにしていれば犠牲者は増えたことだろう。

つまりローラという一つの命よりも、この先の多くの命を守るために動いたということだ。


「だけど……俺は納得できない!!」


そう言ってガイは書斎を勢いよく飛び出して行った。

驚くメイアだったがアッシュに一礼すると追いかけるようにして書斎を後にした。


残られたアッシュとクロード。

両者どちらも苦笑いしていた。


「まぁ、とにかく僕らはヨルデアンに行ければそれでいい。準備を進めてもらえれば助かる」


「了解した。約束はきっちり守るさ。なにせ君らの仲間の命が懸かっているわけだからね」


「早急に頼むよ。ガイにとっては特別な仲間だからね」


「ほう。それはどういう意味かな?」


「本人はまだ気づいてはないが……ガイは"好き"なのさ、さらわれた彼女のことがね」


「なるほどな。あれだけ本気になるのもわかるね」


そう言ってニヤリと笑うアッシュは胸ポケットから櫛を取り出すと髪を掻き上げ整える。

そして、すぐに真剣な表情になりクロードに問いかけた。


「そういえばネルーシャンで吊るされた女性のことだが」


「ん?」


「その中に"黒いロングヘアの女性"はいたか?」


「いなかったな」


「そうか……ならいい」


クロードは少し首を傾げる。

するとそこにドアのノックが聞こえた。

入ってきたのはローゼルだった。


「失礼します。お取り込み中でしょうか?」


「いや。終わったよ。では僕はこれで」


「ああ。今回の件、礼を言う」


クロードはそれだけ聞くと書斎を出ていった。

2人はクロードを見送り、ドアが閉まるのを確認してからローゼルは言った。


「まさかこんなに早く解決させるとは思いませんでした」


「やはり俺が見込んだ通りだが……あの男は何か隠してるな」


「何かとは?」


「さぁ?なんだろうね」


「彼の仲間の"少年"と"少女"もですか?」


「いや、あの二人の瞳は純粋そのものだ。俺も見習いたいくらいさ」


「それは一体、どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味さ。俺もたった一人の女性のために命を投げ出すほどの純粋さがあれば……こうはなっていない。あのルガーラもそうだった。自分の本当に愛した女性を探し出すために"規則に縛られる王宮騎士"よりも"自由気ままな冒険者"になるとこを選んだ。正直、羨ましかったよ」


「王宮騎士と冒険者では地位が全く違いますが」


「"地位"や"金"や"名誉"が手元にあったから幸せってわけじゃない。それはただ生きるための目的を忘れさせる、言わば()()()()()のようなものだ。夢はいつかは覚める……死という形をもってね。俺は夢が覚める前に何か本当に生きる目的が欲しかっただけなのさ」


「なるほど。だから彼らを手伝うのですね」


「可笑しいかい?」


「いえ、私は最後まで付き合いますよ。あなたを一人にしておいたら何をしでかすかわからないですから」


「さすがローゼルちゃん。頼りになるねぇ」


「褒めても何もでませんよ。とにかく明日には出発できるように旅の準備は進めておきます」


「ああ、頼むよ」


ローゼルも書斎を出て行った。

1人残されたアッシュは銀色の櫛を胸ポケットに戻すと背後にある窓を振り向いて見た。


昨日とは違って雪がしんしんと降る。


「"物事を見て感情で動くほど愚かな行為はない、人間は常に理性的であるべきだ"……師匠が言われることはごもっとも。しかし感情的に動いた方が人間的だと思いますよ。それが愛する人のためならね。俺はいつだってそれができなかったんだ。あなたのせいだとは言わない。ただ俺には感情的に動く勇気が無かっただけですから」


目を閉じて、大きく息を吸い、少し止めてから深く吐く。

アッシュの白い息はいつまでも残ることは無く一瞬で消え去った。

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