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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
140/250

生き残りたち(4)


時は夕刻ではあったが、早朝より続いている曇り空によって夕陽すら見えない。

それどころか少しづつ降り始めた雪が地面に落ち、さらに積雪の層を重ねていた。


西門にいたのは馬に跨った2人の騎士だった。

アッシュとローゼルが姿を見せると2人は馬から降りる。


男女ペアの若い騎士だった。

整った服装と鎧、髪型と見るからにエリート。

恐らく第一騎士団の下っ端騎士だろうとアッシュは思った。


位で言えば第一騎士団の方が上であるが、王宮騎士団の中でも最強とうたわれるアッシュ・アンスアイゼンという男の滲み出る凄みに自ずと2人は馬を降りざるおえなかった。


最初に口を開いたのは男の騎士だった。

その口調は緊張感に満ちていた。


「アッシュ団長殿。第一騎士団長より伝令です」


「手紙でなく直接ここまで来るとはご苦労なことだねぇ。中に入れてお茶でも振る舞いたいところだが少し問題があってね。解決するまで誰も中に入れたくはないんだ。すまないね」


「いえ、これを伝えたらすぐに戻ります」


そう言って懐から封筒を取り出すと、それを開ける。

中にある手紙を広げて読んだ。


「"ベンツォード砦駐在の第三騎士団は解体とす。早急に王都まで戻ること"……以上です」


「なんだと」


アッシュは男性騎士を睨むように見た。

その鋭い眼光に息を呑む男性騎士。

背後の女騎士も緊張感で額から汗が滴る。


「砦に詳しいから団長になれやら、解体するから戻れやら……ずいぶんと忙しくさせるじゃないの。第一騎士団長殿は何をお考えなのかねぇ?」


「それは……私にはわかりかねます……」


「だろうね。アデルバート団長が何を考えているのかなぞ誰にもわからんでしょ」


アッシュはそう言いつつも少し考えるそぶりを見せた。

だが、すぐにそれをやめて口を開く。


「第三騎士団解体については了解した。……だが、今は王宮に戻れないな」


「え……」


「この砦を立ち退くのはいいが、ここで起こってる問題は第三騎士団を解体しただけで済む話ではない。俺はそれを見届けて、解決してくれた者たちに褒美をやる約束を果たしてから戻るよ」


「そ、それでは困ります!」


「君が困ったところで俺の知るところではない。さっさと王都へ戻ってアデルバート団長にありのまま伝えろ。処分なら俺一人が受けると付け加えてな」


アッシュの静かな圧に押された2人の騎士は顔を見合わせ頷き合うと馬に跨った。

そしてすぐに手綱を握って馬を走らせて王都へと走り去っていった。


アッシュの後ろにいたローゼルがため息混じりに言った。


「あんなことを言っていいのですか?もしかしたら騎士団ごとクビになってしまうかもしれませんよ」


「構わんさ。そうなれば俺もルガーラのように冒険者にでもなる」


「そうですか……でも"約束の褒美"とは?」


「ヨルデアンに行ってやることさ」


「何もそこまでしなくても……」


「"約束"ってやつはさ、一回破ってしまったら、それがたった一回であっても癖になっちゃうものなんだよ。癖は繰り返してしまう。だから男なら一度した約束は必ず守る。俺はそう決めてるんだ」


「……」


そう言うと西門に少しだけ強い風が吹き込んだ。

アッシュの髪が少し靡くが、珍しく構うことはしなかった。


「なら書類仕事も約束ですから、さっさと戻って終わらせましょうか」


「いやぁ、ローゼルちゃん厳しいねぇ」


アッシュは笑みをこぼしつつ砦へと戻るようにして歩み出した。

ローゼルもそれに続くのだった。


____________



ナイト・ガイのメンバーはイザークの先導により診療所までたどり着いた。


診療所はこぢんまりとした作りだった。

ベンツォードの大きさと人員を考えると妥当なのか……いや、それでも大規模な戦闘などがあれば対応しきれそうにないほどの大きさ。

周りに立ち並ぶ一般住宅より少しだけ大きいだけの診療所であった。


イザークが診療所の入り口のドアノブに手を掛けようとした時、ちょうど中から人が出てきた。


それは白衣を着た白髪の初老の男。

白髭は手入れされているのか上品に見える。

全体的に見ても清潔感のある男性だった。


「ああ、ウィルバー、ちょうどよかった」


イザークがそう言って後ろに下がる。

白衣の男、ウィルバーはドア閉めるとイザークと向かい合った。


「どうした?……彼らは確か」


ウィルバーは目を細めてナイト・ガイのメンバーたちを見た。


「彼らをご存知で?」


「砦の前で会ったな。彼らは一体何者だ?」


「彼らは冒険者で今回の事件の調査をしてもらってるんだ。アッシュ団長が雇われたのさ」


イザークの発言に少しだけ間があってからウィルバーはため息をついた。


「またあの若造は妙なことを。私のところに来ても何も話すことはないぞ」


「そう言わず、今回の件を早急に解決したいのでご協力をお願いします」


そう言って笑みをこぼすイザーク。

ウィルバーは再びため息をつくと鋭い視線をナイト・ガイへと送った。


「それで……何が聞きたくてここに来た?」


「では僕から。ザイナス・ルザールの死因はなんですか?」


「なんだと?」


あまりにも唐突な質問だった。

これにはイザークも青ざめた表情でクロードを振り向いて見る。


「あなたは前団長であるザイナスの主治医であったと聞きました。なら死因はわかるでしょう」


「……単なる流行病だ」


「本当に?」


「私が毒でも盛ったと言いたげだな」


「盛ったんですか?」


「まさか。私は医者だぞ。人を生かすのが仕事なんだ。"アレ"は……どうにもできなかった」


妙な含みがあったように思えた。

だがクロードはあえてそこには触れなかった。


「申し訳ない。今の僕の仕事は人を疑うことでね。そう言えばもう一つ……」


「なんだ?」


「ローゼルとは仲がいいのですか?ここに来た時に親しげに話していたようですから」


「いや彼女とはあまり話はしない。あの時は今回の事件で死んだ騎士たちの死因は何かと尋ねられただけだ」


「ほう。その死因とは?」


「"感電死"だと思われる」


その言葉を聞いたクロードはニヤリと笑った。

すぐに補足するようにイザークが口を開く。


「そういえば今回の襲撃犯の1人が雷の波動を使ってましたね。彼女の仕業で間違いないでしょう」


「なるほど。噂の美女とやらか。まぁ、とにかく参考になりました。ありがとうございます」 


クロードが笑顔でウィルバーに言う。

ウィルバーはクロードを睨みつけると、そのまま砦の方へと歩き去った。


それを見届けるとイザークが口を開く。


「これで全員ですので私もこれで失礼します。まだ仕事が残っていまして……」


「ありがとうございます。事件はすぐ解決するでしょう」


そう言ってクロードは手を差し出した。


「それは頼もしい。是非お願いします」


イザークは応えるようにクロードの差し出した手をとって握手する。

そしてイザークはナイト・ガイのメンバーに軽く会釈すると笑みを浮かべてその場を後にした。


イザークが完全に見えなくなったのを確認してすぐに口を開いたのはのはガイだった。


「なんか全員が怪しいな」


「ええ、そうね……みんな何かを隠してる気がする」


2人の発言を聞いたクロードは笑みをこぼした。

その顔を見たガイが眉を顰める。


「なんだよその顔は。結局クロードはわかったのか?」


「ああ。最初の推理通りだ」


「なんであんな短い会話だけでわかるんだよ」


「だって怪しいのは"たった一人"だけじゃないか。この人物は生き残りとしては逆に不自然なんだよ」


「は?」


ガイもそうだが、このクロードの言葉にはメイアも意味がわからなかった。

明らかに"全員"が何かを隠しているのは会話の中で見て取れる。

クロードの言う"たった一人"に当てはまる人物が思い浮かばない。

どんなに思考を重ねてもガイだけでなく、メイアすらも犯人の見当は最後までつかなかった。

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