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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
136/250

生き残りたち(1)


北部


ベンツォード砦



砦の地下には牢屋があった。

歪な石階段を下ると両サイドに3つ、計6室。

どれも大きさは1人部屋と言って差し支えない。

薄暗い牢屋は石造りで殺風景な作りだった。


その一番右奥の牢屋にいたのは緑色の長髪に黒い修道服を着た大男。

セリーナと一緒にこのベンツォード砦を襲ったホロと呼ばれる盗賊の1人だった。

地面に座り込み項垂れるホロは黒い鎖に両腕を繋がれている。

片手には包帯が巻かれていた。


牢屋の前に立つのは2人。

アッシュとローゼルだ。


「ダンマリ決め込んでいても状況はかわらんよ。何か言ったらどうだい?」


「……」


ホロはアッシュの問いに反応すら示さないどころか、ぴくりとも体を動かさない。


ため息をつくアッシュはローゼルを連れて階段へと向かった。

何度、質問してもこの反応であれば拷問したとしても口を割ることはないだろう。


アッシュの後ろを歩くローゼルは気になっていたことがあった。


「いいのですか?」


「何がだい?」


「捕虜のことです。なぜ彼らに言わなかったのか」


ローゼルが言う"彼ら"とはクロードたちのことだ。

もしかすればこの捕虜は"スパイ"や"吊るし事件"の重要な手がかりを握っている可能性がある。

それならばこの捕虜の件を伝えたほうが早急に解決できるかもしれない。

ローゼルはそう考えていた。


「あのクロードという男は侮れない。もしホロとかいう大男の話をしたら、ネルーシャンへ調査に行った交換条件で奴を連れて北を目指してしまうかもしれないからね。それだと俺たちが困る」


「私たちだけでも"スパイ"は見つけ出せるでしょう。あんな冒険者に頼まずとも。もう容疑者は少ない」


「時間を掛ければ恐らくはな。だが彼が言った"犯人だと思われる人物"……君は想像できたかい?」


「いえ……ですが決定したわけではないでしょう」


「そうだな。でも彼らにとって犯人を見誤みあやまることは許されない。なにせ仲間の命に直結してるからね。早急に彼らは真実に辿り着くよ」


「たかが冒険者に対してそこまで言いますか」


「ああ。"男の勘"だがね」


そう言って胸ポケットから銀の櫛を取り出したアッシュは輝くような金色の髪を整え始めた。


ローゼルからしてみたら"勘"なんという非論理的なものを頼りに犯人を突き止めようとしているアッシュの行動が理解できなかった。


「さて、彼らがどう動くのか俺も行って確かめてきますか」


「書類仕事が残っていますが」


「そんなめんどくさいのは後さ。こんな面白そうなものを見逃すと一生後悔しそうだ」


背中越しではあったが、ローゼルにはアッシュが笑みを浮かべていることが手に取るようにわかった。

深くため息をつくローゼルに構うことなく、アッシュはナイト・ガイのメンバーがいる砦の居住区へ向かった。


____________



この地域周辺の積雪は多い時で子供の全身を覆うほどだ。

考えると北部において、ここ最近の天候は恵まれていると言ってもいい。

そうは言っても決して日差しを感じるわけではなく、雲空でありながら雪は降らず。

住民は安堵しているだろうが、慣れていない人間にとってはどちらにしても同じことだ。

何せ"寒い"というのは変わらないのだから。


防寒着は着ているがやはり寒いのかブルブルと震えるガイは両手を肩へと回してさする。

メイアも肩をすくめ、手のひらに暖かい息を吹きかけていた。

一方、クロードは全く何も感じていないようだ。


「雪が降ってくれた方が暖かいんだがね」


「冗談だろ……」


ガイにとっては信じ難い話だった。

だがメイアが頷いているところを見ると恐らく事実なのだろう。


ナイト・ガイのメンバーがいるのはベンツォード砦を囲むようにしてある居住区だ。

真四角に建てられた塀の内側にあり、おおよそ100軒ほどの家が規則正しく並んでいた。

彼らがいるのは南地区で砦の生き残りたちは、なぜかここに集中していた。


まず最初に会う人物がガイたちに近づいた。

ミシミシと音を立てて降り積もった雪を踏み締めてやって来る。


それはあどけない顔の青年。

年齢はガイより少し年上くらいだ。

紫色の髪を七三分けにし、ぴっちりしたブラウンの胸ポケット付きレザージャケットを羽織る。

下はカジュアルなグレーのスラックスを穿き、腰にはレイピアを差す。

誰が見ても第一印象は"好青年"だろう。


「君がイザーク?」


「はい!よろしくお願いします!」


イザークは真剣な表情で返事をする。

騎士にとって"格下"と判断してもおかしくないはずの冒険者に対してこの対応はなかなか信じ難かった。


「婚約者の件、残念だったね」


「い、いえ……いいんです」


クロードの不意の言葉に悲しげな表情に変わって俯くイザーク。

そこにすぐ背後に現れた第三騎士団団長のアッシュはイザークの首に腕を回した。


「いやぁイザークちゃん、よく生きてたねぇ。"騎士団長候補"に死なれたとあっちゃ始末書どころじゃ済まないところだったよ。もしかしたら第一騎士団長に殺されてたかも」


アッシュは笑みを浮かべながら言った。


「私は運がよかったのです……他のみんなを助けられなかったのは私の不徳の致すところです。申し訳ありません……」


「いやいや、今回の責任は全て俺にあるのさ。イザークちゃんは気にしないで彼らと一緒に事件解決に動いてくれたまえ。期待してるよ」


そう言ってアッシュはイザークの胸元をポンポンと叩く。

ナイト・ガイのメンバーとアッシュの背後にいたローゼルは呆れ気味だった。

果たしてこんな騎士団長がいていいのか?

あまりにもフレンドリーすぎるし、まさかとは思うが、こうやって女性の騎士の"胸"もさりげなく触っているのではないかと思ってしまうほどだ。


「さてと、じゃあ聞き込みに行きますか」


「団長殿は書類仕事があるのでは?」


「あんたも固いこと言うねぇ。君、モテないでしょ」


「……」


一体、どこまでが冗談なのかわからないアッシュの言葉に絶句するクロード。

ガイとメイアはそんなクロードを見たのが初めてだったため顔を見合わせていた。


「とにかく行こうか。それじゃあイザークちゃん案内よろしく!」


「は、はい!了解です!」


ナイト・ガイとイザークに聞き込み調査を頼むそぶりを見せておいて全てアッシュが先導しているように見える。

ここにいる全員が彼の言動、行動に戸惑っていたが、この流れでベンツォードの生き残りメンバーの元へと向かうのだった。

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