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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
134/250

議論(2)


石造りの一室。

暖炉もない部屋で肌寒さを感じる。

机につくアッシュはクロードの言葉に眉を顰めていた。

ガイとメイア、ローゼルの3人は唖然としている。


"ベンツォード砦に潜むスパイと誘拐殺人犯が同一人物"


ベンツォードと西の街ネルーシャンを同時期に襲うとなれば、その考えは的を射ている。

この人物を殺めるとなればベンツォードとネルーシャン、同時に向かうことで確実性は増す。


だが、わからないのは動機だ。

"王宮騎士団"という組織を襲うというのはそれなりのリスクがあり、さらに協力関係にあるとなればなおさら。

ならばそのリスク以上の見返りか、そうせざるおえない理由が無ければならい。


クロードが続けて言った。


「恐らくブラック・ラビットにとってスパイの存在が"有益さ"より"不利益さ"のほうが勝ったのだと予想する。彼らにとって第三騎士団に潜むスパイの何が不利益のかは不明だけどね」


「だが……まだ可能性の話だろ?」


アッシュはたまらずに口を開いた。

まさか仲間の中にスパイという存在いるだけではなく、誘拐して吊るすという残虐な行為をする人間が近くにいるとは思いたくは無かった。


「ほぼ確実だと思うけどね。今回の砦襲撃の前にあった騎士団行方不明事件はネルーシャンに調査隊が派遣されたことで起こっている。あの町の"教会"に近づいてほしくない人間がこのベンツォード砦の内部にいた。その者が手を回して調査隊を消した」


「それが何故、ここの騎士団の人間だと?」


「ネルーシャンへの調査隊派遣の任務を知っているのはここの団員だけだろ。そうなると吊るしの犯人は砦の中にいる」


「調査隊の中にいたという可能性は?」


「ゼロではかいがかなり低いと思うよ。犯人からしてみたら自分だけ生き残った状態で砦まで戻らなければならない。魔物が全くいなくなってしまった地域でそれは違和感がある。かといって自分も消えるというのも難しいだろう。騎士団は貴族の集まりだ。冒険者と違って貴族という名の"しがらみ"から逃げることはできないし、そこから逃げるとなると生活水準をいちじるしく下げることにつながる。そこまでリスキーなことをするとは思えない」


「中間にある村の住民はどうだ?」


「騎士団が村を通ったとしても村の人間は騎士がどこから来てどこへ行くのかまではわからない。ネルーシャンへ調査に行くなんて内部情報を騎士が平民の村人に話すとは考えづらいし。さっき君も言っていたがネルーシャンに調査隊を派遣した理由は"住めるかどうか"の確認であって行方不明の女性たちを見つけるというのは二の次だ。そんなことを村人に話せるはずはない。つまり必然的に砦にいた騎士団の人間が最も怪しいということになる」 


「確かに筋は通るが、"スパイ"と"吊るしの犯人"を同一人物だと紐づける根拠にはならない気がするが」


「だから仮説だと言ったんだ。ちなみにその"盗賊団の美女"とやらはなんと?」


「スパイについては"面白そうだから言わないでおく"……と言っていた」


「その言い回しだと恐らく殺し損ねたな。そうなると今回の襲撃で生き残った人間の中に犯人がいるだろう。まぁ、なんにせよあとは君たちの仕事だ」


この推理に呆気に取られるアッシュはローゼルへと視線を送った。

自分たちが捜査したら数日は掛かりそうなものを、ものの数分で済ませてしまった。


「そう言えば名前を聞いていなかったな」


「僕はクロード。彼はガイ、そしてその妹のメイアだ」


その紹介に眉を顰める。

アッシュが気になったのは"クロード"という名だった。


「"クロード"……一つ聞くが、数年前にミディアの町のギルドにいなかったか?」


「……なぜだ?」


「少し噂で聞いたんだ。小さな町に六大英雄と同じ名の人間が現れたと」


「そんな噂がなぜ君のところまで届くんだ?」


「同時にミディアの町の周辺ではありえないほどレベルが高い魔物が出現したと。それが記憶に残っていたものでね。違ってたらいいんだ」


「……」


この件についてはクロードは何も言わなかった。


ガイとメイアは大陸にある町の名前などほとんど知らない。

だがこの"ミディアの町"のことは知っていた。

なにせミディアの町というのはナイト・ガイの出発地点であるカレアの町の隣町なのだ。


「そんなことより、約束通り北へ行かせてもらえるんだろう?」


「それはやめておいた方がいい」


アッシュの発言に口を開いたのはガイだった。


「どういうことだよ!約束通り、西の街に行ってきただろ!」


「落ち着け少年。俺は善意で言ってるんだ。君たちが行こうとしているのは豪雪地帯で有名なヨルデアン。クロードとやらにはわかるかもしれないが、"道案内"も無しにここに入るのは自殺行為だ」


「ヨルデアン……」


メイアはそう呟いて血の気が引いているようだった。

ヨルデアンはセルビルカ王国の北に位置するが、その面積は王国の半分を占めると言われている。

アッシュが言うように何の当てもなく入るにはあまりにも無謀だ。


「そこで追加の依頼をしたい。これはヨルデアンに入る君たちにとっても有益なものだと思うよ」


アッシュがニヤリと笑みを浮かべて言う。

その表情に全てを察したクロードがため息をついた。


「今回の犯人を見つけろと?」


「そうだ」


「あなたがやったらいい」


「俺はこの通り書類仕事が忙しい」


この男は遠回しに"頭の使う仕事は苦手"と言っている。

ならば適任と思われる者に任せてしまったほうがいい。

それが自分より身分が劣る冒険者であってもだ。


「もちろん人は付けるさ。この砦の生き残りの"イザーク"という騎士がいる。こいつは次期騎士団長候補と言われた男でバカ真面目なやつだ。この砦では副団長として指揮を取っていた優秀な男さ」


「そいつが犯人ということもあり得るだろ」


「それは無いと思うけどね。なにせ婚約者が調査隊の中にいたみたいだから。調査隊が行方不明になって一番、気が動転していたのはこの男さ」


「なるほど」


会話が難なく進行しているが、それについていけない者もいた。

それは、もちろんガイのことだ。


「お前らだけで話進めすぎだろ!なんでその犯人を見つけることが俺たちにとって有益なんだよ!」


「この犯人がもしスパイだとするならば盗賊団と繋がってることになる」


「だからなんだよ」


「そいつを見つけて広大なヨルデアンにあるブラック・ラビットのアジトまで案内させるんだ」


そう言ってクロードはアッシュへと視線を送る。

この条件というのは普通はあり得ないものだ。

スパイで誘拐殺人犯と思われる犯罪者を裁きもせずに冒険者たちの案内役にさせる。

このアッシュという男はそれを許すつもりだった。


これにはローゼルもたまらず声を上げた。


「団長、それは流石にマズイです」


「いいじゃないか。その時は俺たちも一緒に行ったらいい」


「は?」


「気になるんだよ。噂に名高い"盗賊団のボス"とやらの強さが」


アッシュの笑みを見たローゼルの顔が引き攣っていた。

そんな状況には構わずクロードが口を開く。


「ちなみに他の生き残りというのは?」


「イザークの他に三人いる」


そう言ってアッシュが"生き残り"の紹介を始めた。


"イザーク・パルデン"

第三騎士団副団長。

温厚な性格で頭がよく、冷静に物事を判断できる騎士。

ネルーシャン調査隊の中に婚約者がいた。

調査隊行方不明によって一番ショックを受けていた人物。


"ウィルバー・ドランク"

ベンツォードに派遣された医師。

おもに負傷兵の手当てをしていた。

元第三騎士団長のザイナスが寝込んでからは、ずっと看病していた。

ちなみにザイナスの病名は不明。


"ケイレブ・ダートス"

食糧庫担当の騎士。

見た目が太っているため女騎士からは白い目で見られていた。

今回、食糧庫でつまみ食いをしていたおかげで助かったようだ。


"エマ・ランストン"

第三騎士団で唯一、女性の生き残り。

アッシュ曰く、地味な女の子で貴族っぽくない。

家柄はそれなりに大きいようだが波動数値が低いため北に飛ばされてきたとのこと。



この4人がベンツォード砦の生き残りだった。

クロードは簡単な人物説明を聞いて笑みをこぼす。

その表情をアッシュは見逃さなかった。


「何かわかったのか?」


「ああ。犯人はわかったよ」


「なんだと!?」


「だが確証を掴みたい。みんなに話を聞きたいがいいかな?」


「それは構わない」


アッシュとローゼルは顔を見合わせた。

たったこれだけの情報で犯人がわかるなんてある得るのか?


この後、2人はすぐにその名を聞かされることになる。

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