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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
133/250

議論(1)


廃墟と化したネルーシャンで戦闘に巻き込まれたナイト・ガイのメンバー。


3人は教会前で合流し、聖堂内で吊るされた女性たちを手分けして下した。

その中にローラの姿がないことに安堵する。

 

そして彼女たちをどう埋葬するかの話し合いがなされると思っていたが、クロードが自らそれを引き受けた。


その間、ガイとメイアが広場で待っていたのだが、クロードは予想以上に早く終わり姿をあらわす。

時間にして1時間も掛かってはいないだろう。


「やけに早くないか?」


「僕のスキルでなんとかね。こんな時に役に立つ能力なのさ」


「どんな能力だよ」


「まぁ機会があれば見せるさ」


そう言って笑みを溢すクロード。

考えてもみればクロードの波動は見たことがない。

一体どんなスキルを持っているのか気になっていた。


「クロードの波動数値は"3"だよな?……ってことは三つスキルを持ってるのか」


「そうだね」


「一つくらい教えてくれてもいいんじゃないか?」


その言葉にクロードは表情を一切変えずに返答する。


「一つならもう知ってるだろう」


「え?」


「触れた物から波動の粒子を感じ取る能力だ」


ガイは眉を顰めた。

その能力は闇の波動の使い手であれば皆が所有する力だということはエリザヴェートから聞いている。

つまり"触れたものの波動粒子を感じる能力"というのはワイルド・ナインのスキルとは別物だということだ。


だがガイはこれ以上の詮索はしなかった。

自分の頭の片隅にある、"とある考え"がもし当たっていたらと思うと途端に恐ろしくなったのだ。


「そんなことよりも今は砦に報告しに行く方が先だろう。ローラのことが心配だ。急ごう」


そうクロードは笑みを浮かべて言った。

ガイはその表情を見て少し安堵する。



3人は町の入り口へ向かう。

すると来た時とは明確に違う部分があった。


"町に入った時にいたはずの数頭の馬が全て消えていたのだ"


____________



ナイト・ガイのメンバーが砦に到着したのはネルーシャンを出発して3日後だった。


到着するなり、砦の周囲に立つ家屋が破壊されていることに唖然とした。

砦の方へ歩くにつれて被害は拡大しているように見えた。


最初は魔物がやったものだと予想したが、ネルーシャンでの出来事を思い出すと盗賊団の仕業とも考えられる。


3人は急ぐように中央に位置する砦へと向かった。



円柱形の石造りの砦の入り口付近に人の姿があった。


「あれは確か……ローゼルと言ったか」


それは緑色のショートカットの女騎士。

間違いなくイース・ガルダンでアッシュと一緒にいた女性だ。


そしてもう1人、白衣を着た初老の男性。

白髪と白髭、どちらも整えられたもので清潔感はある。

見る限り医師のようだった。


ローゼルと白衣の男性は3人に気づくが表情を全く変えなかった。


白衣の男性はローゼルに対して頭を下げるとナイト・ガイのメンバーとすれ違うようにして居住区の方へ歩き去った。


構わず3人はローゼルが立つ場所へと赴く。


「ネルーシャンでの出来事を報告しにきたが、第三騎士団長殿はいるかい?」


「ええ。自室に篭ってますよ。こちらに」


ローゼルはそう言って背を向けると砦で数少ないと言っていい木造りのドアを開いた。

3人はローゼルに続いて砦へと入る。

少し歩くと螺旋状の階段があり、それを上った。


この間の沈黙に耐えられなかったガイが口を開く。


「何があったんだ?」


「例の盗賊団に襲われました」


ローゼルの言葉に一同が驚いた。

まさか自分たちだけでなく騎士団の拠点たる砦まで襲われていたとは。


「妙だな」


言ったのはクロードだ。

さらに続けて、


「なぜ砦が襲われるんだ。ここの騎士団とブラック・ラビットとは協力関係にあるはずだろ?」


「なぜここが襲撃されたのかはわかりません」


「調べてないのか?」


「団長はそれどころではないですから」


「どう言う意味だ?」


「団長は書類仕事は苦手ですので」


ローゼルはため息混じりに言った。

この発言にはクロードは眉を顰め、ガイとメイアの2人は顔を見合わせる。

書類仕事が苦手……そんな抜けた人間がなぜ団長という最高職に就いているのか不思議だった。


そんな会話をしていると団長の自室に辿り着いていた。


部屋に入ると殺風景な色合いが目に飛び込む。

石造りということもあるが、やけに陽当たりが悪い気がする。


正面の壁に四角く穴が空き、そこにガラス窓を嵌め込んでいる作り。

そこから差し込む光が極端に少ない気がした。

その前には大きめの机が置かれ、席につく金髪の男が項垂れるように頭を抱えている。

入り口の脇にはこれまた大きな全身を写す鏡が置かれているが、部屋の家具といったらこれだけで他には何も無かった。


「失礼します。団長」


ローゼルが言うと、パッと頭を上げるアッシュの顔は引き攣っていた。


「ちょうどいいところに!ローゼルちゃん、ここはどう書くのさ!」


「そんなことより、冒険者たちが戻りましたよ」


「なに?」


一転して真剣な表情に変わるアッシュ。

ローゼルの後ろにいるナイト・ガイのメンバーを見て笑みをこぼした。


「ほう。戻ったか。それでどうだった?」


「報告は三つある。結論から言うが騎士団の団員たちは見つからなかった」


「そうか……それであとの二つは?」


「ブラック・ラビットのメンバーだと思われる二人組に襲われた。なんとか退けたけどね」


「なんだと?そっちもか」


「ああ。もう一つ、これが一番最悪かもしれない」


「あんまり聞きたくないねぇ」


「ネルーシャンにある教会の聖堂の中に誘拐されたと思われる女性たちの遺体が天井一面に吊るされていた。生きて吊るされたのか死んでからなのかは不明だ」


アッシュの顔が歪んだ。

ため息混じりに目頭を強く摘む。


「調査隊の派遣についてだが、もしかして行方不明の女性たちを探すためのものか?」


「まぁ、それもある。一番はネルーシャンが住めるようになるかどうかの確認だった。あわよくば女性たちの行方の手がかりになるものを見つけ出せればと思ったが……最悪な結果だな」


「魔物は全くいなかった。恐らくブラック・ラビットがしっかり依頼をこなしたんだろう」


「だったとしても、まさか誘拐殺人とはな」


「……いや、僕が考えるに盗賊団と関係はしているが彼らが犯人じゃないと考えているよ」


「どういうことだ?」


「僕と戦った少女が言っていた言葉だ。"私たちは解決しに来た"と」


アッシュはその言葉を聞いて思考する。

発言通りとなればクロードが言うように盗賊団に関係する誰かが犯人であり、その犯人をどうにかしようと彼らが動いていると受け取れる。


「もしかしたら師匠が言っていたことと関係するのか……?」


「師匠?」


「元第三騎士団長のザイナス・ルザールだ。師匠は最近まで寝たきりでね、なんでも問題が大きくなってきたとのことで俺が呼ばれたのさ」


「問題とはなんのことだ?」


「このベンツォード砦に騎士団内部の情報を漏洩ろうえいしている"スパイ"がいると」


クロードは眉を顰めた。

考えるそぶりを見せるが、構わずにアッシュはさらに続けた。


「それで半ば極秘で俺とローゼルちゃんが王都から派遣されたが、その時にはもう師匠の意識は無かった。師匠はその"スパイ"が誰だか知っていたんだろう」


「君は聞けなかったんだな。スパイと思われる人物の名を」


「そうだ。ここに来た盗賊の美女も知っているようだった。つまり"盗賊団"と"スパイ"は間違いなく繋がっている」


「なるほどな。盗賊団がこのベンツォード砦を襲った理由はそこにあるのかもしれないね」


「どういうことだ?」


「仮説だが……恐らくブラック・ラビットがこの砦を襲った理由は、そのスパイを殺すことだった」


「情報提供を受けてるのにか?」


「ああ。そこにネルーシャンの出来事だ。そこにいたのもブラック・ラビット。あの少女が言った"解決しに来た"というのは女性を吊るしていた犯人を殺すためだとしたら?」


「ネルーシャンと同時にベンツォードを襲った……まさか……」


首を傾げていたのはガイだけだ。

あとの皆はクロードの言葉で、ある推測がなされていた。


「この砦にいるという"スパイ"と"女性を吊るしていた犯人"は同一人物だということだ」


これが事実なのだとすれば、このベンツォード砦に配属されている第三騎士団の団員の中に誘拐殺人犯がいるということになる。


クロードの言葉に唖然とする一同ではあったが議論はさらに続く。

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