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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
フレイム・ビースト編
132/250

ホロ


数年前、イース・ガルダンの闘技場で"非公開"でおこなわれた大会があった。


それは騎士団の騎士達を集めて強さを競わせるというものだった。

どうやら第一騎士団長が考えたものらしい。


ルールは通常の闘技大会と同じで3対3のチーム戦。

波動の使用は大将のみというのも変わらない。


この大会には多くの騎士が自らの力用を試すためにこぞって参加した。


みながフルチームで参加する中、"ある者"だけ、たった1人で出場した。


この男は波動を全く使用しない戦闘スタイルでトーナメントを勝ち抜き、数多くいる精鋭を全て薙ぎ倒して優勝した強者。


決勝の大将戦は"ゼニア・スペルシオ"だったが第一騎士団副団長である彼女ですら全く歯が立たず、この男の圧勝だった。


だが、この事実は隠されていおり、知っている者は騎士団の人間のみ。


情報が公開されないのは、この出来事が騎士団にとって衝撃的な出来事だったため。


"波動を使わぬ人間"が"高位の波動使い"を圧倒したなど口が裂けても言えることでは無かったのだ。


____________



ベンツォード砦



雪が降り積もる中庭。

砦を背負っているのはセリーナと名乗った女性と緑色のボサボサの長髪で修道服を着た大男。


そこから少し離れたところに男性騎士が1人。


そしてその男性騎士の後方にアッシュとローゼルがいるという構図であった。


アッシュの引き抜いた剣は真っ黒なグリップと鞘だが刃が光り輝く銀色。

グリップ部分から切先まで黒龍のような模様が刻まれた独特な細剣だった。


ローゼルは弓を下に構えて矢筒から矢を一本だけ抜くと弓に添える。


2人は完全に臨戦態勢。


アッシュは男騎士のところまで歩くと、通り過ぎる際につぶやくように言った。


「君は確かイザークだったな。すぐに居住区へ行って生存者を探すんだ」


「わかりました」


イザークは騎士たちが寝泊まりしている居住区へと走り出した。


この時もアッシュの鋭い視線はセリーナから逸らされることはない。


「だが、おかしな話だな。俺の"名"と"強さ"を知っているとなれば……やはり師匠が言っていたことは本当なのだろう」


「どういう意味かしら?」


「このベンツォードに外へ情報をばら撒いてる"スパイ"がいると」


「……」


セリーナの表情は変わらない。

それどころか少し口元が緩んだようにも見える。


「その顔を見るに、君は知ってるようだな」


「さぁ、どうかしら?それとも言ったら見逃してくれるの?」


「それは無理だな」


「なら言わないでおこうかしら。そっちの方が面白そうだから」


真剣な表情のアッシュを嘲笑あざわらうかのようにセリーナが妖艶な笑みを溢す。


「それなら仕方ない。力づくでいくとしよう」


その言葉を言い放った瞬間にアッシュはドン!と地面を蹴った。

降り積もった雪が円形状に飛び散り、茶色い地面が見えるほどの衝撃だった。


セリーナまで数百メートルといったところだがアッシュのワンステップの跳躍が尋常ではない。

恐らく次に足が地面につく前に彼女に到達するだろう。


「ホロ。全力を出さなければ殺されるわ」


「……わかった」


セリーナが"ホロ"と呼んだのは隣に立つ黒い修道服を着た大男。

手のひらをアッシュに向けて力強く握る動作をする。


「"狂風爪きょふうそういん"」


するとホロの足元から雪の上に三つ並んだ直線が入る。

直線は高速で迫るアッシュへ向かって地面を走るように進むが、なぜか途中で線が消えて無くなった。


「なるほど目に見えぬ攻撃ねぇ。まぁ見えなくてもなんとかなるさ」


そう言ってニヤリと笑ったアッシュは思いっきり地面に足を突き立てて急停止し、何も無い虚空に対して剣撃を放つ。


斜め下から斜め上へ。

グリップを逆手に持ち替えて横へ一線。

凄まじいスピードの斬撃だった。


「よし……斬ったな」


一言だけ呟くとアッシュは再び地面を蹴ってセリーナとホロの方へと向かう。


「なぜ、あれを斬れるの!?」


驚くセリーナだがホロは冷静だった。

彼女を守るようにして前に出る。


「いいねぇ、気に入ったよ。レディを守るのは男の勤めだからね」


アッシュとホロの間合いは殴り合える距離まできた。


アッシュは逆手に持った銀色の細剣を雪を切るようしにて振り上げる。

狙いは下から上への縦の胴切りだった。

ホロはすぐさま反応し、両腕をクロスして剣の刃を受ける。

その際、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡った。


「服で隠してるが"鉄甲型の武具"だな。しかし波動を使わずともこのパワー。なかなかだね」


「"狂風圧縮きょふうあっしゅく"」


ホロがボソリと呟き、一気に腕に力を込める。

しかし、なぜか波動が発動しない。

この時に初めてホロは目を見開き驚いた。


「ホロ!その剣に触れてはダメよ!」


「もう遅い」


アッシュはホロの両腕の間で止まった剣から手を離すと思い切り蹴り上げる。

剣が空中で回転すると同時にホロはバンザイする形でのけ反った。


アッシュはさらに一歩踏み込み、スッーと息を吐きつつ右拳を腰に溜める。

そして一気にホロの胸めがけて溜めた拳を突き出した。


「"ルザール拳法・猛虎正拳突き"」


ズドン!という鈍い音が鳴り、ホロの巨体が宙に浮く。

そのまま数百メートル吹き飛ばされると石造りの砦の外壁へ激突した。

両膝が落ちホロは胸を両手で押さえてうずくまる。


だが戦意は喪失していない。

ホロは再びアッシュの方へ手のひらを向け、波動を発動しようとした。


「させるわけがなかろう」


アッシュは空中から回転して落ちてきた銀色の細剣をホロへ向かって、回し蹴りで飛ばす。


ハイスピードで飛んだ剣の切先はホロの手のひらを貫通し、さらに砦の外壁に当たってはりつけにした。


「お前の波動は封印した。少しそこで黙ってろ」


ホロは剣を抜こうとグリップを掴み力を入れる。

しかし外壁に深く刺さった剣はびくともしなかった。


セリーナの顔が引き攣る。

恐らくホロは組織の中でも波動数値は随一だ。

さらに戦闘能力もかなり高く、ゾルアも一目置く存在。

それを子供をあやすように簡単に倒してしまうとは……

アッシュから睨まれたセリーナは息を呑む。


少し間があってアッシュが口を開いた。


「おっと……ちょっと待ってくれ」


そう言うと胸ポットから銀の櫛を取り出すとブロンドの髪を整え始めた。

ゆっくり後頭部を撫で付け、サイドはもう片方の手を添えて優しく。

特に入念に櫛を入れたのは少し上へ盛り上がった前髪だ。

上方に膨らませているボリュームある部分が一番気になるようだった。


「いやだねぇ、少し動くとすぐに崩れちゃうのよ。レディの前だからさぁ、身だしなみはしっかりしておかないと。あっ、これ師匠の受け売りね」


その瞬間、背後から叫び声が聞こえる。

女性の聞き覚えある声だ。


「団長なにをやってるのですか!逃げられますよ!!」


「え?」


アッシュが前方を見るとセリーナの両手には黒いグローブのようなものが着けられていた。

グローブからはバチバチと雷撃が走っている。


「流石にあなたとは戦いたくないわ。これで失礼させてもらう」


セリーナは雪の積もった地面に手のひらを当てると雷撃が周囲に走り始めた。


そして雷が落ちたような轟音が響くと積もった雪が蒸発して霧を作った。

さらに霧を伝うようにして放たれた雷撃によって視界が遮られ目を開けていられなかった。


「残念だけどデートはまた今度ね色男さん」


セリーナの気配は一瞬にして消えた。

しばらくすると霧も消えるが残っているのは、砦の石壁に腕を磔にされたホロと呼ばれる大男だけだった。

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