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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
123/250

北へ



その夜、部屋に集まった人間は5人いた。


男が3人、女……いや少女が1人。

もう1人は全身を黒いローブに身を包んでいるため性別が不明だった。


男の1人である赤髪の男は部屋の奥のソファに腰掛けテーブルの上にある"短剣"を眺める。

グラスに入った酒を口に運び、一気に飲み干した。


「本当に説得できるのか?逃げられたんだろ」


その言葉に反応したのは青髪のローブを着た青年だ。


「やってみますよ。彼女の姉が死んだのは騎士団の策略によるもの。それを交渉材料にする」


「それはもう話したと聞いたが」


「念を押します」


「……よかろう。まぁ、あの能力が手に入るなら確実に戦力は上がるからな。魔物相手には全く意味をなさないが、対人戦闘なら世界最強の能力だろう」


「ええ。彼女が仲間になってくれれば、この先の戦いにおいても必ず役に立ちます」


「だが、もし説得できなければ……」


「わかってますよ」


青髪の青年は笑みを浮かべた。


その光景を見ていたガーリーワンピースの少女はため息をつく。


緑色の長髪の修道服を着た大男は頭をポリポリと掻いているだけだ。


黒いローブ姿の者は彫刻のように、その場を動くことはなかった。


____________



ガイが目を覚ましたのは夕方ごろだった。

目を開けると、ここ数日の間で見慣れた宿の天井だとすぐに気づく。


「ガイ!」


メイアの声だ。

体を起こして部屋を見渡す。

ベッドに駆け寄るメイアとドアの前に立つクロードがいた。


「また派手にやられたようだね」


「ローラは……ローラはどうした!?」


ガイの叫びが部屋中に響き渡る。

メイアの悲しげな表情とクロードの深いため息で簡単に状況を把握できた。


「俺が……俺が弱いばっかりに……ちょっとでも成長できたと思った俺がバカだった」


「気に病むことはない。相手は二人だったんだろ?」


「それでも、たった一人の波動にやれたんだ……」


ガイは奥歯を噛み締めて俯く。

目に涙を溜めたメイアはベッドに腰掛けてガイの背中を優しくさする。


「どこに行ったかわからないし……どうすることもできない」


「もし、行き先がわかるとしたなら君は行くかい?」


「わかるのか!?」


「少し金は掛かったが、なかなか面白い情報を掴んでね。だが恐らく彼らからローラを奪還するのは至難の業だろう。なにせ君が闘技大会で勝てなかったローブの男もいるし、セリーナもいる。もっと仲間がいるかもしれない……何よりも彼らのボスは六大英雄のゾルア・ガウスだ。下手をしたら僕たち全員の命は無い」


「それでも、行くに決まってんだろ!!」


「男に二言はない……か。メイアも異論は無いね」 


「ええ!」


ガイもメイアも決意に満ち溢れる表情だった。

そんな2人に笑みを溢すクロード。


「なら本題だ。この町の騎士団員、数人から妙な話を聞いた」


「妙な話?」


「ああ。北の第三騎士団についてのことだ」


ガイとメイアは顔を見合わせる。

今まで第三騎士団とは関わりを持ったことはない。

この騎士団については情報は皆無だった。


「第三騎士団は高位の魔物が多いとされる北のベンツォード砦を守っている騎士団で、現在の団長はザイナス・ルザールという男だ」


「ルザール……どっかで聞いたような気がする……」


「もしかすると、あの悪目立ちしているB級冒険者のルガーラ・ルザールと接点がある可能性もあるが、それは今はどうでもいい。大事なのは、この騎士団と関わりをもっていると噂される組織があるということさ」


「組織?」


「その組織の名は"ブラック・ラビット"と言うそうだ」


ガイは言葉を失った。

なぜ騎士団が盗賊団と関わりを持つというのだろうか?

明らかにお互い敵対するべき相手だ。


「これ以上の詳しい情報はわからないが、"黒い兎"を追うならベンツォードへ向かうのが得策だろう」


この情報が確かであれば、ローラの行方は掴んだも同然。


だが様々な疑問もあった。


騎士団と盗賊団の関係性。

第三騎士団長のザイナス・ルザールという男。

盗賊団がローラを誘拐した理由。


これらの疑問を抱えたままガイとメイア、そしてクロードの3人は北のベンツォードの砦を目指すこととなるのだった。




エターナル・マザー編 完

____________________





セルビルカ王国


王都



ある部屋の一室。


この広い部屋には何段もある本棚が部屋一面、壁伝いにある。

中央には大きな机、その上には分厚い本が山積みに置いてあった。

部屋の灯りといえば本棚の間にある一つの窓しかなく薄暗かった。


椅子に深く腰掛け、本を読む1人の男。


そこにドアのノックが聞こえる。


「入れ」


とても低い声で男が言うと、"失礼します"と言って入室したのは第二騎士団長のゲイン・ヴォルヴエッジだった。


男の姿は山積みにされた本で遮られていて見えない。


ゲインはかしこまった様子で机の前まで進んだ。

その表情は緊張感に満ちており、強張っていた。


「ご報告が……」


「ザラ姫が死んだな」


男の言葉に、一気に顔が青ざめるゲイン。


「も、申し訳ありません……私の……私の責任です」


「いや、元の計画とは少し違うがこれでいい」


「は、はい」


「それで、他はどうなってる?」


「やはりリア・ケイブスのギルドは無人になっておりました。リリアンの報告通りです。……次に北の山脈付近で起こった巨大な地震ですが、現在、調査チームを編成しております」


「なるほど」


「あとはイース・ガルダンの闘技大会でのことですが、優勝したのは"ブラック・ラビット"だったそうです」


「そうか、ご苦労。下がっていい」


「はい。失礼致します」


ゲインは姿見えぬ書斎の主に頭を下げると部屋から出ていった。


男は深呼吸する。


「リア・ケイブスのギルドが無人となったとすればミルは逝ったな。北の地震は恐らくフィオが浮かせていた魔王城が落ちたと推測できる。そうなれば彼女もまた……」


そう呟いてパタンと読んでいた本を閉じた。


「ゼクスは何年か前に"ヤツ"に仕留められ、残りの最高位の魔物も二体討伐された……そうなれば残っているのは私とゾルだけだ」


男はゆっくりと椅子から立ち上がると積み上がった本の上に、また本を重ねるように置いた。


「本当にお前が言うことが正しいとするなら順番的には私の方が先でなければならない。本当に"ヤツ"を倒すのが()()()だとするなら……それは十中八九、ゾルなのだろう」


そう言って男は力強く拳を握った。

この先の運命は決まっている。


「もう少しで終幕だな……そうだろ?"クロード"」


書斎はしばらくの間、静けさが続いた。

そんな中、微かに外で音がする。

部屋に一つだけの窓の外では曇り空。


そして数刻後、静寂を打ち消すが如く雷鳴が響き渡ると強く雨が降り出した。

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