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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
120/250

ガイとルガーラ



その夜、ガイは街へ出ていた。

目指したのは露天商が立ち並ぶ場所だ。


大きめの一本道、両サイドに多くの出店が並んでいる。

もう日も落ちているにも関わらず人が多いのは闘技大会の影響だろう。

店にとっては今の時期が一番の稼ぎ時なのだ。


道ゆく者は冒険者や商人、中には鎧に身を包んだ騎士団の人間もいた。

それらの人たちを掻き分けつつ進むガイ。

目指していたのは数日前に一度立ち寄った武器店。


そこに到着するまでの間、ガイへと注がれる視線は尋常ではかった。


ガイは思う。


"どうせ今日の酷い試合で目立ったせいだろう"と。


なにせ相手は遠距離型と思われる冒険者でありながら、こちらだけ一方的にダメージを受ける形になってしまった。

さらに立ったまま気絶して試合終了なんて目も当てられない。


「馬鹿にするなら馬鹿にしろよ……」


ため息混じりに小声で呟くガイ。

いっそのこと言葉にしてもらったほうが楽というものだ。

ガイを見た者はヒソヒソと何かを語っていたが一体なんなのか?


すると、そこに一人の少女が近寄った。

それはガイより少し年下のようでメイアと同い年ほど女の子。

とても綺麗な顔立ちの少女だった。

ブラックとブラウンが混ざった髪でパーマのかかったツインテール。

黒色のガーリーワンピースのスカートは丈が短く、胸元には上品にリボンを付けてある。

印象的なのは大きなまんまる眼鏡で、そこから覗くやる気のない眠そうな目。

両手で抱えるようにして本を持っているが、どう見ても数百ページはありそうなくらい大きなものだった。


「お兄さん」


少女は無表情にガイを呼び止める。


「な、なんだよ」


「闘技大会に出てた人でしょ」


「そうだけど。なんか文句でもあるのか?」


ガイは遂にきたかと思った。

この少女も今日の観戦者であり、何か言いたいことがあるのだろう。

何を言われても受け止める覚悟ではいたが、それでもやはり緊張するものだ。


少女は少し間があってから口を開く。


「とてもカッコよかった。特に"瞳が真っ赤"になった後……」


「え?」


「あなたのファンになっちゃった。またどこかで会えることを願うわ」


そう言って少女は口元だけニコリと緩ませ、そのままガイを通り過ぎる。


すると、さらに少女の背後にいたボロボロのブラックローブを全身に身に纏った、男か女かもわからない者がそれに続いた。

背が高く、かなりの細身で存在感が無いため通り過ぎるまで全くわからなかった。

気になったのは歩みを進めるたびにローブの中から何かジャラジャラと金属の擦れる音が聞こえていたこと。


「な、なんなんだよ……」


この出来事にガイが唖然としていると他の通行人も笑顔で近寄って来る。

その数は1人や2人ではなかった。


「本当に凄かった!負けたのは残念だが、久しぶりに興奮する決勝だったよ!」


「この年であれほどの動きができるなら、この先S級になる可能性があるな!」


「本当は決勝で、あの赤髪と戦うところを見たかったが、あんな化け物と戦ったら生きて帰れないだろうな!」


「いいもの見せてもらった!一杯おごるぜ!」


これはガイが聞き取れたほんのわずかな声だった。

たった1人の少女が話しかけたことによって、ガイのことが気になっていた人間が次々に近づいては激励してくれたのだ。

ガイは冒険者やら商人やら住民やらに取り囲まれ揉みくちゃにらされていた。


ようやく解放されたのは、それから数刻後のことだった。


____________



酷い目にあった。

結局、目当ての買い出しもできずにガイは逃げるようにして宿へと戻っていた。


「でも……悪い気はしないな……」


ガイの口元が少し緩む。

旅の始まりを思い出すと、考えられないほどの成長を遂げている。

そう思わずにはいられない。

これもやはりクロードのおかげだろう。

あの時、仲間になってくれたことでガイの旅は多難であれど飽きはせず。

何よりも実感できるほどの成長がガイを高揚させていた。


そんなことを考えながら宿の前に到着すると、ちょうどドアを開けて出て来た男がいた。


「ん?」


「ん?おお!少年君じゃないか!」


「げ」


最悪なタイミングで最悪な男と出会ってしまった。

それは準決勝で戦ったチーム、ダークナイツのリーダーのルガーラ・ルザールだった。


嫌そうな表情を浮かべるガイに構うことなく目の前に立った笑顔のルガーラ。


「今日は残念だったね。だが凄い戦いだった!」


「あ、ああ。ありがとう。ていうか、なんでここにいるだ?」


「彼女のことが気になってね。怪我は大丈夫かなと」


「エリザのことか。そういえばあんたが助けてくれたって聞いたけど。よくあんな"化け物"の前に立てたな」


これはローラから聞いた話だった。

ゾルアとエリザヴェートが戦っていた時、ガイは気絶していたのだ。


「"化け物"か……それでも正義のためには立ち向かわなければいけない時もあるのさ。それに私は君には負けたが、これでも波動数値12万のルガーラ・ルザール。なかなか強いのだよ」


そう言ってニコリと笑うルガーラの歯がキラリと光ったように見えた。

だがガイはルガーラの発言に呆れる。

自分で強いなんてよく言えたものだ。


「そう言えば気になってたんだけど、なんでそんなに自分の名前と波動数値を人前で堂々と言えるんだ?俺には理解できないぜ」


「……」


ルガーラから笑顔が消えた。

一転して真剣な表情へと変わる。


「ある人を探していてね」


「ある人?」


「ああ。私の初恋の人なんだ」


ガイは眉を顰めた。

もしかしたら触れてはいけない話だったかと思ったがルガーラは構わずに続けた。


「こうやって馬鹿みたいに叫んでいれば、いつか会えるんじゃないかと思っているんだ。いつか見つけてもらえるんじゃないかってね」


「……」


「ガキくさいだろ?だけど……本当に会いたいのだよ。その人と」


そう言ってルガーラは笑みを溢した。

そして、ガイの肩をポンと軽く叩くと歩き出す。

向かう先は町の中央の方向だった。


「少年にもいつかわかるさ」


「なんだよそれ。あんたの方がガキじゃないか」


「うむ。否定はしない。ああ、それと君に一つ助言をしておこう。"闘気が全く見えない相手"には気を許すなよ。そいつは……かなりの確率で人間じゃない」


ただ、それだけ言うと背を向けたまま手を振ってルガーラは町の方へと歩き去った。


ガイはその姿が見えなくなるまで、その場に立ち続ける。

ルガーラが言った言葉の意味を時間を忘れて考えていたのだった。

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