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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
118/250

ローラとレイ


闘技大会ではガイとエリザヴェートが負傷。

ガイはさほど大きな怪我は無かったため、すぐに意識を取り戻して宿にいる。

一方、エリザヴェートは何度もゾルアの波動の衝撃を受けたせいか、皮膚や骨がボロボロだった。

命に別状は無いものの、短くても一ヶ月ほどは安静にしたほうがいいというのが医者の見立てだった。



闘技大会が終わった夜、ローラは街に出ていた。

それは青髪の青年レイに会うためだ。


怪我をした2人が少し気になっていたが、それ以上に"レイ"という人物に妙な感情を抱いていた。

それは決して下心などではなく、どうしても確かめたいことがあったからだった。


ローラの考えが正しければ彼は……


____________



夜空は満天の星が輝いていた。

街灯が設置してあるが光の数でいえば空の方が多い。


街の中央付近に大きな噴水がある。

待ち合わせ場所はそこだった。


ローラは緊張の面持ちでレイに会った。

レイは笑顔で手を振って迎える。

彼の姿は闘技大会で着ていたローブというのは変わらず、手には大きな杖を持っていた。


ローラはここで一度安心した。

もし上等な服で来られたらどうしようかと思ったのだ。

なにせローラの格好もいつもと変わらず白いキャミソールに青のホットパンツだったから。


だが、それでも緊張は全てほぐれるわけでもない。

無意識にも緊張しているという事実を恥ずかしく思ったローラは第一声をあげる。


「ま、待たせたわね」


「いえいえ、私も今来たところなので」


ローラの裏返った声を気にすることもなくレイは笑顔で対応した。


「そ、それで、どこに行くのかしら?」


「この街に来て色々と探索してたら、なかなか雰囲気のいい店を見つけて。そこに案内しようかと」


「そ、そう」


ローラは"どうぞ"と促されるままレイの隣を歩いた。

この際は無言。

色んなことが頭を駆け巡るが、ふと先ほどのレイの言葉を思い出してローラは眉を顰める。


"雰囲気のいい店"


言われた時は、その響きに違和感は持たなかったが、考えてもみたら変な意味なのではと思って顔がみるみる青ざめる。


数刻ほど歩いた後、叫ぶようにしてローラは口を開く。


「ああ!!やっぱり、あ、あたし!!」


「着いたよ」


その店は街の中央から少し離れたところにあった。

こじんまりとした木造のレストランだった。

ガラス越しに店内を覗けるが、大きさに反して高級そうなインテリアが並べられている。

天井にはシャンデリア、テーブル席が4つしかない店で客は1人もいなかった。


「なかなかオシャレでしょう。今日のために貸し切ったんだ。ボスには怒られたけどね」


そう言ってクスクスと笑うレイにローラは唖然とした。


そしてレイは一歩前に出て店のドアを開き、再び"どうぞ"と促してローラを先に店内に入れた。

テーブル席は向かい合うようにして椅子が置かれているが、店員が来る前にレイは椅子を引いてローラを座らせた。


この行動でローラは確信した。


「やっぱり、あんた……貴族でしょ」


「御名答。と言っても"元"貴族だよ」


「元?」


そこに店員が現れた。

向かい側の椅子を引くとレイは店員に会釈をして腰掛けた。


「没落貴族なのさ。北の下級貴族だったんだが遂に領地を取り上げられた」


「領地を取り上げられるなんて、何をしたの?」


「逃げたんだ。戦場から」


「は?」


ローラの困惑をよそに食事が運ばれてきた。

町の酒場とは違う豪華な料理に圧倒されつつ、懐かしさも感じていた。

屋敷にいたときは普通に食していた料理だったが、今はほとんど見ることもない。


「私は元騎士なんだ。第四騎士団にいた」


「第四騎士団ってミューネ団長のところだった……かしら?」


「そう。今は第四騎士団自体が解体されて空席だけどね」


レイは上品にナイフとフォークを使いこなして食事を口に入れた。

ローラもそれに続くようにしてナイフとフォークを手に取る。


「ロスト・ヴェローの事件は知ってるかい?」


ローラは首を横に振った。


「少し前の事だが、ロスト・ヴェローで大規模な戦闘があった。最初はただの冒険者同士の小競り合いだと思ったが全く違った」


「どういうこと?」


「パーティの仲間同士での殺し合いだったんだ」


「え?」


「その事件で第四騎士団は総動員された。私は後方部隊だった。最初はたかだか平民の冒険者程度と思っていたけど前衛部隊はほぼ壊滅した。中には高位の貴族で波動数値が100万近い者も多くいがほとんど死んだ」


「誰にやられたのよ」


「さぁ?私はその冒険者たちの姿を見る前に逃げたんだ。全騎士団でも精鋭揃いと言われた第四騎士団の前衛のほとんどが殺されたとなれば、さすがに誰だって怖気付く。逃げ出したのは私だけじゃなかったからね」


「でも、あんた結構強いじゃないの」


「それはボスに拾われた後の話さ。ボスの特訓は命掛けだからさ。まぁ私は他の"皆"と違って覚えが悪いから、こうして今でも戦わされてるけど……」


「なにそれ。どういう意味?」


「兄弟の話さ」


そう言ってレイは笑みをこぼす。


「それより君のことが聞きたいな。もしかして君も貴族なんじゃないかと思っていたんだが……」


「スペルシオ家だけど」


「やはりか。名前を聞いてもしやと思ったが。ということはゼニア副団長とは姉妹ということかな?」


「ええ、そうよ」


「そうか……彼女のことは残念だったね。まさかあんなことになるとは」


「仕方ないわよ。偶然が重なってああなっちゃったんだから」


ローラはため息混じりに言った。

好きだった姉にもう二度と会えない……そう思うと寂しさと悲しさが込み上げてくる。


「偶然……ねぇ」


レイは含むようにして、そう呟いた。


「なによ。何かあるの?」


「君は騎士団に入りたいとか……そういう願望はあるかい?」


「突然なによ」


レイの無言で真剣な表情に息を呑むローラ。


「無いわよ。昔は憧れたけど今は無い」


「そう」


「何が言いたいの?」


レイは一考ののち、ようやく口を開く。

やはりその表情は真剣なものだった。


「王宮騎士団には近づかないほうがいい。特に第一騎士団にはね」


「どういう意味?」


「現在の王宮騎士団は危険だ。騎士団のトップであるアデルバート・アドルヴはある重大なことを画策している」


「画策……画策って何を?」


「それはまだ言えないが、ゼニア副団長は巻き込まれた可能性がある」


「はぁ?お姉様が殺されたのは単に嫉妬によるものだって……」


「それも全て仕組まれたものなら?」


ローラは驚愕した。

平和を愛する王直属の騎士団のトップである第一騎士団長が一体何を画策するというのだろうか?

そして、その画策というものに姉が巻き込まれた可能性があるとはどういうことなのか?


「私たちはそれに対抗するために動いてる」


「対抗……って、何を言ってるの?」


「私たち"黒い兎"は騎士団を潰す」


「黒い兎……?騎士団を潰す……?」


「もし騎士団のトップが君の姉さんの死に関与しているとするなら、君には復讐の権利があると私は思う。君さえよければ私たちと一緒に戦わないか?」


ローラの呼吸が荒くなる。

そして"黒い兎"という名前を以前聞いたことがあることを思い出す。

それはリア・ケイブスの町で出会ったセリーナが言っていたものだ。


「あ、あんた……まさかセリーナの仲間なの?」


「ええ。彼女を知ってるのかい?」


レイの言葉を聞いた瞬間、ローラはすぐに席を立つと走って店を出た。

"ブラック・ラビット"というパーティ名で気づくべきだった。

彼はセリーナが所属する盗賊団の一員であったのだ。

ローラは振り向くことなく宿まで全力で走った。



店に一人だけ取り残されたレイは目の前で起こったことに唖然としていたが、すぐにため息混じりにナプキンで口元を拭いた。


そして店の外に出る。

すると店の脇の路地裏から声がした。


「あらら。フラれちゃった」


子供のような高い声。

やる気のないような気の抜けた声だ。

姿は暗がりでよく見えないが"少女"のようだった。


「彼女はセリーナと面識があったみたいだ」


「あの女は見た目通り、()()()だからね」


「これは誤算だったな」


「どうするの?」


「ボスにはありのままを報告するよ。そうなれば結論は一つだろうけど」


「だよね。"波動を封印するスキル"なんて仲間なら心強いけど敵にしたら危険だ。もしかしたらボスでも勝てないかも」


「ええ。こうなると次に会った時は……」


そう言いかけてやめた。

何か他の可能性を模索したかったのだ。

それほどレイは彼女に惹かれてきたことに気づかされた。

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