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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
117/250

決着


熱気に漂うステージを疾走するエリザヴェート。

斜め下に構えた大鎌の刃が地面を擦って火花を散らす。


ゾルアまでの距離は数百メートルはある。

その間、彼の波動である"隻眼ノ焔鳥"が放った炎の羽が無数に浮遊していたが、闇の波動によって全て掻き消されていた。


エリザヴェートは目を閉じ、一切見えないまま突撃した。

少しでも目を開けてしまったらゾルアの波動スキルの餌食になる。


観客の歓声が最高潮に達しているため、音でゾルアの位置を特定するのは難しい。

だが彼が放つ熱波は"彼自身"を中心としているため、そこを目指せばいい。

狙いは闇の波動で炎の鳥の吸収だ。

エリザヴェートの闇の波動の間合いは4、5メートルほどで、それは大鎌がギリギリ届く距離だった。


「か、か、か、必ず勝つわ……な、仲間のために!」


エリザヴェートの思いはこれだけだった。

何度もパーティ追放を経験したが、それはこのパーティに入るためだったのだろうと思わずにいられない。

それほど彼女はガイとローラのことを気に入っていた。

だから決して負けるわけにはいかなかったのだ。


そんなエリザヴェートの勇猛な姿を見たゾルアはニヤリと笑う。


「まさか目を閉じて走ってくるとは。闇の波動で焔羽を消せるから最善策に間違いはない……だが、この"隻眼"はこれだけではないぞ」


ゾルアの言ったことは気になるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。

この攻めで確実にゾルアを闇の波動の間合いに入れなければ勝機は無い。


そしてエリザヴェートは完全にゾルアの間合いに入る。

闇の波動の間合い内……炎鳥は消したと確信していた。

エリザヴェートは下に構えた大鎌の刃を天へ向けると同時に"開眼"して振り上げ攻撃をおこなう。

凄まじいスピードで大鎌の刃はゾルアの左脇腹へ向かった。


「俺を見たな?」


しかし、その瞬間、エリザヴェートは爆音と共に燃え上がる。


「があはあああ!!」


「残念だったな。もう少し目を閉じていればよかったものを」


ゾルアはステップを踏み、燃え上がるエリザヴェートの懐に入ると腹に右拳によるボディブローを叩き込む。


「が、が、がは……」


エリザヴェートの体は吹き飛び地面を転がる。

炎は闇の波動に吸収されて消えるが、大きなダメージを負ったせいで、仰向けに倒れたまま動けなかった。


「な、な、な、なぜ……」


「まだ気づかないのか?」


エリザヴェートは虚な目で空を見てハッとした。

雲が流れ、太陽が少しだけ覆われると、それは姿を現す。


"炎の鳥は遥か上空にいた"


炎の鳥は闇の波動の射程外まで飛翔していたことで"隻眼"の能力は発動状態だったのだ。


「だが驚いたな。ここまで"隻眼の炎"を何度も食らっても生きているとは……やはり闇の波動は危険だ。ここで殺しておくべきか」


そう言ってゾルアはコートのポケットから果物ナイフを取り出した。

そして数メートル先で倒れるエリザヴェートへとゆっくりと歩み出す。


もう勝負はついている。

だが、審判はびくびくと怯えてステージに上がることすらできない。


エリザヴェートは死を覚悟した。

この男は失格をものともしていない。

それ以上に、この先に自分の障害になるものをなるべく早く消すことを考えているのだろうと思った。


ゾルアが歩みを進めると真っ赤に染まっていたコートの色が次第に黒に戻る。

そして、いつの間にか炎の鳥も空中から姿を消していた。


「わ、わ、わ、私を……殺したら……武具は手に入らないわよ……」


「構わんさ。負けても奪えばいいだけのことだ。どうせガキのパーティだしな。"青髪の女"は少々厄介だが、波動を発動させる前に殺せば問題は無い」


「さ、さ、さ、させないわ……ローラは……と、と、友達なのよぉぉぉ!!」


エリザヴェートは最後の力を振り絞り、奥歯を噛み締めて立ちあがろうとする。

だが、それは叶わなかった。


「ぐ、ぐ、ぐ……」


「残念だが、お前らの旅はここで終わりだ」


あと数メートル。

もう少しでゾルアは倒れるエリザヴェートのもとに辿り着く……


その瞬間のことだった。

"何か"が空中から高速に飛来する。

ゾルアはすぐさま反応すると地面を蹴って後方へと飛び引いた。


「なんだ!?」


轟音を立ててステージ中央に激突した"何か"の周囲には巨大な"氷の柱"が無数に突き上がる。

それはすぐに砕け散り、細かい氷の結晶と冷気がステージ上を包み込んだ。


「はーはははははっ!!」


冷気の中から姿を現したのは地面に大剣を突き刺した漆黒の鎧の男だった。


「何者だ!!貴様は!!」


「私か?私は波動数値12万の男……人呼んでルガーラ・ルザール!」


ルガーラは不適な笑みを浮かべて地面に刺さった大剣を持ち上げると肩に乗せる。

そしてゾルアに鋭い眼光を向けた。


「12万だと?その程度の波動数値で、この俺の前に立つとは笑わせる」


「波動数値の大小など些細なことだ。それが誰かを守るためなのであればなおさらさ」


そう言ってルガーラは目を細めてゾルアを凝視した。


「どうした、何か見えてるのか?」


「……いや、何も。何も見えないな」


ルガーラとゾルアの立ち合いは数分続いた。

その間、観客はざわめく。

まさか他のパーティが乱入するとは思いもよらなかったのだ。


数刻してゾルアはため息をつくとステージ下でぶるぶると震えていた審判の方を見て口を開いた。


「この試合、俺の勝ちでいいな?」


その言葉に審判は無言で何度か頷く。

それを確認するとゾルアはルガーラを一瞥してから振り向いてステージを降りていった。


これにより闘技大会の優勝パーティはブラック・ラビットとなった。

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