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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
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焔の鳥


闘技場は凄まじい温度上昇だった。

その"熱"は視界を赤く染め、さらには空間を歪めて蜃気楼を見せる。


そんなステージ上を眺める観客たちだが、ゾルアとエリザヴェートの姿がハッキリとせず、皆が目を細めて見ていた。


この熱はゾルアの右腕に乗った炎鳥から発せられているのだろう。

予選で見せた"狼"を模った炎とは比較にならないほどの圧をエリザヴェートは感じる。

炎鳥は瞳が無く、かわりに額には数センチ縦一線に切り傷のようなものがあるだけだ。


エリザヴェートはゾルアを凝視した。

真っ黒だったはずの彼のコートは逆に真っ赤に変化している。

このことが何を意味しているのかわからない。


2人の距離は数百メートルほど。

先ほどの熱波の風圧によってエリザヴェートは後方へと追いやられる。

地面を踏み締め、腕をクロスして熱風に耐えていた。


ゾルアは右腕を掲げる。

腕に乗った炎鳥は翼を大きく広げた。

すると"炎の羽"が無数に四方八方へ散らばり、空中に浮遊し始めた。


「"死神"を狩るのは……この俺だ」


誰も聞き取れぬほどの声で呟くゾルア。


エリザヴェートは大鎌を両手で持ち、斜め下に構えると片足を前に出す。

炎鳥の羽は熱波に乗ってエリザヴェートへと向かうが、波動であるため全て掻き消されていた。


「や、や、や、闇の波動で消さなければ全身まる焦げでしょうね……」


熱波はゾルアを中心として広がっている。

炎の羽はヒラヒラとランダムな軌道を描いて飛び、触れるものを火炎に包むようだ。


審判はすぐさまステージ下へ避難する。

幸運なことに、この熱波による炎の羽の射程範囲はステージ内に収まっているということ。

ステージを過ぎると羽は自然と消えていった。


「こ、こ、こ、この程度の能力なら……!!」


予選で見せた炎の狼の能力よりも劣る。

そう一瞬で判断したエリザヴェートは地面を蹴った。

熱波をものともしない凄まじいダッシュでゾルアへと迫った。

大鎌の刃が地面を擦り火花を散らす。

そのままゾルアへ向けて斬り上げ攻撃をおこなう寸前のこと。


「何を勘違いしてる?この"焔羽えんば"はこいつの能力じゃないぞ。これは、こいつの能力の補助の役割だ」


「!!」


瞬間、爆音と共にエリザヴェートは炎に包まれて後方へと吹き飛ばされる。

地面を転がると次第に炎が消えていく。

闇の波動に炎が吸収されたようだ。


ステージ下で見ていたローラは唖然とした。

今のは見えないほど高速の攻撃なのか?

それよりもエリザヴェートは闇の波動によって、相手の波動を吸収する。

なぜダメージを受けたのか全くわからない。


ただ先ほどと違う部分はゾルアが掲げた腕に乗る炎鳥の額の傷が開いていた。

そこにあったのは、たった一つだけの巨大な"眼"だった。


エリザヴェートはゆっくりと立ち上がる。

そして彼女の鋭い眼光はゾルアを睨んだ。


すると再び爆音が鳴り響くとエリザヴェートの体は炎に包まれて吹き飛ばされる。

今回はかろうじて踏みとどまり、すぐに炎は闇の波動によって吸収された。


俯いたままエリザヴェートは思考していた。

目にも追えないほど高速の攻撃が自分を襲っている。


そこにゾルアの声が聞こえた。


「やはりそうか。闇の波動は攻略できる」


「な、な、な、なんですって?」


エリザヴェートは顔を上げた。

そしてゾルアを"見た"瞬間、三度目の爆発が起きて吹き飛ばされ地面を転がる。

すぐに炎は消えるがダメージは蓄積されているようで、すぐには立ち上がれなかった。


「闇の波動が相手の波動を吸収するまで少しだけ時間差があるようだな。恐らく体が波動を感知し、無意識に闇の波動を発動させてるのだろう。そこに若干の遅れが生まれる」


「……ぐ、ぐ」


鎌を支えに立ち上がるエリザヴェート。

そして、ゆっくりと顔上げる。

だが今回は爆発は起こさなかった。


「そ、そ、そ、そういうことね……」


「やはりS級冒険者といったところか。気づくのが早い」


「あ、あ、あ、あなたを"見なければ"いいのね」


「御名答」


エリザヴェートの顔は長い黒髪で覆われているが、その下では目を閉じていた。


「今回は少し力を抑えてステージ上だけに制限してあるが、実際こいつの炎の射程は"無限"だ。どこにいても、この隻眼を発動中に"俺を視界に入れた者"は一瞬で灰になる」


とんでもない能力だった。

敵を視界に入れずに倒すというのは至難の業。

さらに目を閉じたまま熱波によって放たれる無数の炎の羽を掻い潜ってゾルアへ向かうなど不可能だろう。


「ご、ご、ご、御丁寧に教えてもらえるなてね……自分の能力を明かすようなことをしていいのかしら?」


「この能力を知ったところで、お前には何もできん。どんなに高い波動数値を持ってようが、高魔だろうが対策不能のスキルさ」


「ど、ど、ど、どうかしらね?」


それでもエリザヴェートは大鎌を下に構えて臨戦体勢を取った。


「もう闇の波動についてはわかった。お前に用は無い。降参しろ」


「で、で、で、できるわけがないわ!!」


そう叫んだエリザヴェートはドン!と地面を蹴る。

目を閉じたまま、一直線にゾルアへと向かった。

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