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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
106/250

大将戦


世界で最強と言われる武具。

六大英雄が使用したとされる伝説級の武具は6つある。


"嵐の杖 ストーム・ヴェイパー"

"月の剣 グロウ・ゼル"

"地の鉄甲 カイザー・グラウンド"

"夜天の衣 カオス・スカイ"

"星屑の短剣 スター・ブレイカー"

"太陽の大剣 フューチャー・ストラクション"


これらは存在すら疑わしいもので、世界各地に偽物が多くある。


数百年もの間、偽物が出回るという出来事が続いたせいか、人々はこれらの伝説の武具には見向きもしなくなった。


もし本物が存在するならば、その価値は計り知れないだろう。


____________



闘技場の観客席はどよめいていた。


六大英雄が愛用した武具であれば、誰だって喉から手が出るほど欲しい逸品いっぴんだ。


だが冷静な観客は、なぜそんな伝説級の武具が闘技大会の賞品なのか頭を傾げる。


ただ、どちらにせよ皆が気になるところは、この"短剣が本物かどうか"であり、"誰の手にこの武具が渡るのか"ということだった。



一方、ステージ上では先鋒戦のスタンバイに入っていた。


"ナイト・ガイ"対"ベル・ベリーチェ"の試合だ。


最初にステージに上がったのは騎士風の女性。

銀色の鎧に金髪のポニーテールの細身の冒険者だった。


「あら、"あの坊や"はどうしたのかしら?」


笑みを含んだ言い回しにローラの顔が歪む。

やはりガイは来ない。

これだと先鋒戦は諦めるしかないだろう。


思わず審判がナイトガイの方へと駆け寄る。


「先鋒はどうした?」


「昨日の試合で負傷して、今日は来れないわ」


「そうか……なら、先鋒戦は不戦勝ということでいいな」


「……ええ」


不本意ではあったが仕方ないこと。

ローラはそう自分に言い聞かせた。

昨日の試合では全く役に立てず、ガイとエリザヴェートの健闘によってここにいる。

ガイの負傷で来れないことに文句は言えない。


一方、ローラの苦渋の表情を見たステージ上の鎧の女性はニヤリと笑った。


「ラッキーだわ。あの坊やは厄介な相手だと思ってたから」


すぐさまステージ中央に戻った審判は不戦勝を告げた。

観客席からはどよめきが聞こえる。


ステージを降りる鎧の女性。

それとすれ違いざまにステージに上がったのは軽装でミニスカート、金のロングヘアの女性だ。


こちらからはエリザヴェートが出る。

ステージに上がるエリザヴェートをミニスカートの女性は笑みをこぼしつつ見つめた。


そんなミニスカートの女性の余裕の表情に眉を顰めるローラ。

何か秘策でもあるというのだろうか?

昨日のエリザヴェートの試合を見る限り、彼女に勝つには相当な実力が必要なのは明白だ。

なにせエリザヴェートはまともに波動を使わずに、凄まじい強さで大将戦を勝ち抜いている。


「まさか、勝つつもり?」


ローラは呟く。

もしエリザヴェートが負けてしまったら敗退が決定してしまう。



ステージ上、向かい合う2人。

間に立つ審判が両手を広げて開始の合図を送ろうとしていた。

ローラを含めて会場は大きな緊張感に包まれている。


「それでは中堅戦、はじ……」


審判が言いかけた瞬間、ミニスカートの女性が口を開いた。


「降参するわ」


いきなりの出来事に静まり返る会場。

そして、すぐさま観客席からは怒声が飛び交った。


「ふざけんじゃねぇ!!」


「俺たちは戦いを見にきてんだよ!!」


「降参とはどういうことだ!!」


観客は言いたい放題だったが、ローラはミニスカート女性の思考が理解できた。


"勝てないと思った相手とは最初からやらない"


これに尽きるだろう。

薄々はわかっていたことだが、先鋒戦が不戦勝なら中堅戦は無理に戦う必要がない。

逆に中堅でローラが出ていたなら、おそらくミニスカートの女性も戦っていただろう。

勝てると思う相手となら戦うという選択肢は、戦闘経験者であれば自然なこと。


「無理に戦って負傷するだけなら、最初っからやらなければいい。決勝のこともあるからね」


ミニスカートの女性はステージを降りる際に言った。


続いてエリザヴェートもステージを降りた。


「た、た、た、大将戦、任せたわ」


「ええ……ここまで来たらやるしかないわよね」


ローラは深呼吸しステージに上った。

早くも大将戦だった。

これで勝てなければナイトガイは敗退となる。

だが、鎧の女性、ミニスカートの女性が出たとなれば必然的に大将は決まる。


チーム、ベル・ベリーチェから出たのは巨体の金髪ベリーショートの女性。

肩に乗せたこれまた大きな斧が印象的。

昨日戦ったダークナイツの大将で出た男が持っていた斧よりも大きい。

そして首から下げた波動石は緑色だった。


「あらあら、お嬢ちゃんが相手か。これはラッキーだわね」


わざとらしい発言。

中堅でエリザヴェートが出た時点で必然的にローラが出ることはわかる。


「何それ、嫌味なの?」


「まさか。あんたのことは知ってる。"低波動のローラ"。名家スペルシオ家の汚点であり失敗作」


「な、なんですって?」


「冒険者の間でも有名な話だわ。ああ、可哀想なローラちゃん。とんだ言われようだわね」


そう言って巨体の女性は大きく笑った。

ローラのこめかみには血管が浮き出ていた。


「あ、あんたねぇ……」


「そんな失敗作なんていたら、パーティの名が落ちるわね。せっかく周りが強くても、一つでも隣に腐った実があれば全てを腐らせる。あんたはそんな存在なのよ」


「……」


ローラは言い返せなかった。

確かに、ここまで来るまでに全くと言っていいほどパーティに貢献したことはない。

今回の闘技大会でもそうだ。

初戦から無様に負けてしまった。


「とにかく、これで負けたらパーティを離脱ことをオススメするわ。みんな、あんたみたいなのいるだけで迷惑だって思ってるわよ」


そう言ってケラケラと笑う巨体の女。

そこに審判が間に入り、両者を交互に見ながらルールの説明をする。

だが2人にはそんなものは聞こえてはいない。

ただ睨み合うだけだった。


そして遂にその時は来る。

 

「それでは大将戦……」


審判が大きく手を広げた。

ローラは腰に差したレイピアを引き抜くと前に構える。

巨体の女は斧を肩に乗せたまま構えもしない。


「始め!!」


審判が告げた瞬間、会場は大きな声援で包まれる。


先に飛び出したのはローラだ。

相手は隙だらけ。

見た目も重そうで早く動けなさそうだ。


"ハイスピードで攻める"


そう思い、ダッシュで近づく。


……だが、この試合は波動を使用できる。

ニヤリと笑った巨体の女は肩に乗せた斧を持ち上げると両手で掴み、グルグルと回し始める。


「なに!?」


爆風が吹き荒れ、闘技場の周囲が竜巻で覆われる。

それがどんどんと近づき、離れていた審判は飲み込まれて消えた。


竜巻は2人を囲うようにして、天まで伸びる。

観客席からはもはや2人の姿は見えなくなっていた。


足を止めるローラは周囲を見るが、どこにも逃げ場は無かった。


「これで誰にも邪魔されないわ」


「どういう意味よ!!」


「"降参"なんて言わせないってことよ。両腕、両足を切り落として、この斧に乗せて飾ってあげる。お人形さんみたいにね」


不気味な笑みを浮かべる巨体の女は斧を前に構える。

凄まじ圧だった。

明らかに実力差を感じさせる戦いだったが、ローラには一切、逃げ場はなかった。

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