家の中で
サトシは冷静になり目の前の家に尋ねる事にした。彼にはそれまで非常に荒々しい出来事があったが、この奇妙な事態により、彼の頭の中の優先度は目の前の事態に絞られた。扉の横にあるインターホンを押す。なかなか来ないのでイライラしてドアを強く叩くと驚いたように人が出てきた。髭の生えた大柄の男だった。扉を開けると同時にぶっきらぼうにサトシに質問した。「君は誰だ?どこからきた?」サトシは聞き直した。「こちらこそ聞きたい。ここはどこだ。」髭の男はさらに聞き直した。「本当に知らないのか?」サトシは知らないと答えると髭の男はサトシを家にあげた。
家は木造で出来きていたが決してボロ屋ではなかった。その家は土足で入って良かった。家のリビングに案内され、大きなテーブルに座らされた。髭の男はキッチンでコーヒーを入れ、サトシに振る舞った。髭の男はサトシの正面に座るとサトシに言った。「端的に言おう。ここは異世界だ。」サトシは極端には驚かなかった。異世界の話は昔からよく聞かされており、興味はあった。しかし、自分に不必要だと考え、深く追求はしなかった。髭の男はサトシの反応が薄い事に驚いていた。彼はさらに続けた。「異世界へはある条件をクリアすると来れる。来るやり方はこうだ。ある図形の上で生物を焼き殺す。」髭の男はその図形を描いてみせた。サトシはなるほどと思った。自分はあの時タバコを床に擦り付けた。その際蟻か何かの虫を偶然殺してしまったとしてもおかしくないと思った。髭の男は続けた。「君は俺が描いた図形が原因で偶然やってきたのだ。」サトシはさらに尋ねた。「現実世界に戻れるのか。」髭の男は答えた。「ああ、現世と異世界は同じ地点が繋がっている。だからきた時と同じ地点に図形をかけば、全く同じ場所に戻れる。」
話の後、髭の男に「今日は泊まっていけ」と言われ、奥の部屋に案内された。サトシは疲れもあり、部屋のベッドで横になった。これまでの衝撃的な出来事で全く寝付けず、ずっと天井を眺めていた。それから時間が経ち深夜になったころ、誰かが家に入ってきた。サトシの感覚は冴えていたので、何か様子がおかしいことに気づいた。男の荒い息遣いで、足をひきづっているようだ。その時、サトシは脳裏にある指示を与えられた。「この家から逃げろ」サトシはその指示に従うことにした。男がリビングに入っていくのを確認したあと、サトシはこっそり玄関に行き、靴を履いた。音を立てないように扉をゆっくりと開けた。幸い気づかれた様子はなかった。外へ出ると正門まで走り、そこを越えた。目の前に一本の小道が伸びていたのでその道を走っていった。