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今日から学校と仕事、始まります。②莞

え?まだ人として扱うんすか?

作者: 孤独

2階建てのボロアパートの廊下で配達員とお客様が揉めている。

荷物が配達不能で、出したお客様に戻されたため。


「テメェな!!自分で探すとかできねぇのか!?会社名書いてあんだろうが!!読めねぇのか、日本語がよおぉっ!!」

「そーですねー」


髪をポリポリとしながら、怒鳴られる配達員。そーいう態度を出せるというのは。1つ、その人とのをとっているだけ。人と人との距離ではなく、心と心の距離。



「”アズガンブコーポ”って書いてあるだろ!!」

「読めます、読めます。でも、お客さん」


住所書いてなかったら、届けませんけどね。電話番号とかもないし。


「気が利かないのか!!これは俺にとって、急ぎなんだぞ!!ノロマ野郎!!テメェで調べるぐらいできねぇのか!?」

「すみませんねー。もう一度、ちゃんと住所書いてくださいね。僕達、そーいうのしないんで」


謝り方に問題があるんだ。ただ、普通はこっちがキレるもんだよ。


「人の人生なんだと思ってるんだよ!!訴えるぞ、テメェ!!」


そんだけ大事だったら、もう少しちゃんとしろよ。


「まぁ、いいんじゃないっすか?」


この人は、大変な人だなぁ。


◇        ◇



ガツガツ……。


「あーっ。あのアパートは行きたくねぇぜ。まともな住人がいねぇ。荷物なんて滅多に来ないがよ」


昼休憩にしては、16:00を過ぎている時間だ。自分には関係のないトラブルの連続で、昼休憩が今にスライドした状況の配達員、山口は食堂で飯を食っていた。

そして、山口と同じくスライドして休憩をとっているさねさん。


「あそこはしょうがないよ。言い方悪いけど、そーいう人達が住むところだから。その管理会社と、紹介している不動産からしてね」

「マジで他の宅配業者に行って欲しいー。なんで俺達の荷物は、どんな奴だろうと、どんな状況だろうと届ける仕事なんだ?」

「仕事だからだよ」


あー、嫌だ嫌だ。

今から休憩に入っても、夕方からの配達があるから17:00には車を出さなきゃいけない。どんだけ人いねぇんだよ。って愚痴愚痴言いたくなる労働環境にいる山口。

パワハラ絶対ダメ!!……その通りのくせして、荷物頼みまくってるテメェ等!手伝えクソ野郎!関係ないからなんでも言えるんだよ。


「仕事してねぇ奴等がやれってんだ」

「無理無理。あーいう連中にこーいう仕事、無理だから。車とか暴走させるわ、覚えも悪いわ、やる気もないような人達だろうから。務まる仕事じゃないから、これ。働けても1週間だよ」

「ボロクソ言うなー、実さん」

「第一、お客様からしたら。そーいう危険人物がお宅を訪ねるって事、怖く感じるものじゃないか?」


まぁ、一理あるか。一理あるが。山口がここに務めた時を思い出せば


「『”できるできねぇ”聞いてない。”やれ”』……って、あんた等はよく俺に言ってたよな」

「そーだねぇー。でも、そーいう事をやる人間じゃないと、無理だからね」

「今だとパワハラだからね。限りなく、どす黒いパワハラだからね」

「うん。それでも今の状況からして、利用者に言ってね?あいつ等、パワハラダメとか言いながら、物流関係にパワハラを仕掛けてくるからね。そのくせ、いつでも募集してるのに。こんな人間のゴミがやるような仕事はしないって言うからね。あいつ等」


この際、猫の手でもいいんだよ。誰でもいいんだよ。やれば。

そのやり手がまったく、これっぽちも足りてないんだよ。新人が来たかと思えば、


「8連敗中だもんねー。4名欠員のまま、平常業務をしなきゃならない」

「なんで2年間も人募集してるのに、誰一人として1か月続かねぇーんだよ!!教育と環境に問題あるだろ、これ!!」

「君の父親(部長)が言うじゃないか。『常識のある新人を3人雇うより、尊厳がなくなった奴隷を1人雇った方が安上がりで長持ちする』って」


常識がある奴は、すぐ逃げ出すからな。雇う時も続けば、儲けもんという採用だ。


「どんだけ時代が後退してんだよ!この業界!!」

「物流は昔からそーいうものだよ」


嫌なことがあった。辛い。体力的に無理。給与も少ないし、休みも少ない。働く人はこれからどんどんいなくなるけれど、荷物は必ず届けないといけない。

それがそーいうお仕事。


「まー、山口くん。君の父親が言うようにさ。この国からすれば、当たり前にできる事は誰でも当たり前にできなきゃいけない。そーいう社会なのさ。部長が言う通り、奴隷がやるべき仕事だと国民は思うから、こーいう仕事には、感謝なんか要らずに動ける奴隷を選ぶべきなのさ」


言葉がキツイが、言葉では嘘っぱちに思える現実もちょっと見えてしまうところだ。

深くはないけど、広いくらい人間関係も知れる仕事だ。

山口も嫌ってほど見てきている。


◇       ◇



ピンポーン


「お荷物でーす」


なんでこーなっているのか分からないが。

基本、弱い存在を虐める風潮はどうなんだろうかと思う時がある。


ピンポーン


「………不在票入れますよー」


玄関の明かりや部屋の光は見えないが、家庭音(主にテレビかな?)は聞こえているからいるんだろうけど。聞こえなかったんじゃしゃーないの精神で不在票を入れる。待つだけ意味なし。

そうして入れた不在票は必ずと言っていいほど


【在宅してるのに、不在票を入れるなんておかしいんじゃねぇのか!?】


10分後くらいにクレームが来る。これだから爺さん婆さんは……って思いながら、もう一度お宅を訪れる。再配の仕方分からないとかで文句も言ってくるし……。まぁ、最近は減ったんだけどさ。


ピンポーン


「荷物でーす」


……これだよ。出てこないんだよ。次のパターンは風呂入ったとか、トイレ入ってたとか。自分の言い訳だけは一人前なんだよ。ただし、今日は違うのであった。


ピンポーン


「荷物でーす……?」


ガンガンッ


「??」


金属音ではないが、何かを叩いている音が聞こえる。時折、人の声もする。


ガンガンッ


「早く出ろ!」

「……はい」


二つの声はどっちも年寄りだ。怒っているような声を出しているのは、爺の方か。

そして、よちよちと歩いてきた婆さんが顔を出す。すみませんとした声はないのだが、なんか複雑そうな表情。それよりも目立つのは、顔にある痣の形。一方、怒鳴り声を出すのは爺さん


「どーいう配達してるんだ、テメェ!!」


そう怒鳴る爺さんは、目の前にはいなかった。

いや、ホントにどこにいるか初見では分からなかった。

手に持っている杖で壁を叩く事だけでも異様なのに、それだけで驚けない。ワザとじゃないよなって確認をとりたいものだ。


「在宅してるのに、不在票入れるのがお前の仕事か!?」


ゾンビのように俯きの姿勢。杖を持って床を這ってきながら、こちらに怒鳴るのだった。どうやら、左足が骨折か、神経のなんかで動かないのか。歩く事ができないらしい。

あー、そーいうお宅だったのとか。知らん事は多いからーで流すんだが……。


「インターホンも押せないのか!?いい加減な仕事するんじゃないよ!」


爺さんが怒るの?呼んだんだけどねって、応えても


「俺の耳に聞こえてないなら、押してないんだよ!お前は!!」


知ってた(笑)。

激し過ぎるくらい、気持ちを抑えられない爺さん。ともかく、さっさと去りたいから婆さんにハンコかサインを要求。婆さんにボールペンを貸してあげるのだが、


「さっさと書け!」


ボコォッ


なんと爺さんが杖で婆さんを殴ったのだ。なんか気に入らなかったらしい。なんで結婚して、介護されてんの?って不思議に思うのだが、そんな行為が吹っ飛んでしまう思い。正直に反応できんわ。


ボコォッ


「ちょっ!止めなさい!」


思わず、自分も声が出る。

床に這いつくばっている爺さんは、右手に持った杖で婆さんを殴った。やる行為そのものがオカシイのだが、……。


”爺さんは後ろから、婆さんの首と後頭部にめがけ、杖で叩くのだ”


ほとんど殺しに来ている。下から上に突くように杖を扱うんだから、危険極まりない。若いものでも、場所によってはやべぇ。

爺さんはその行為をまったく悪いと思っておらず、むしろ。


「お前達がノロマなのが悪いんだ!」


もう歩けない人にそんな事を言われたのは、初めてだ。

その後、両隣部屋の老夫婦達が騒ぎに顔を出す。見た目、爺さんとそんな年が変わらないのに、介護環境にあるこの爺さんを抑えに来た。……アパート内では有名らしい。婆さんが爺さんを介護しているのだが、爺さんは腕は多少動くらしく、杖で婆さんや壁をよく叩くとかなんとか……。気に入らない事があるとすぐそうだとか……。


「ああはならないように、生きよう」


爺さんに良いところを頑張って挙げれば、反面教師ってとこ。

あー、こーいうお宅には尋ねたくない。

善良で真面目な心で仕事をしてたら、やっていけない世界。

仕事は特にそうなんですよねぇ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヒューマンドラマ?え、ホラーでしょ??
[良い点] 「え?まだ人として扱うんすか?」 というのは、上司あるいは“お客さま”から【配達員】に対しての言葉ですね。 仕事なんだから愚痴は許容範囲だけど文句は(以下略)、というのが「一般的な感覚」…
2020/07/17 08:23 退会済み
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