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女々しい俺のデートとは  作者: 山猫ねっこ
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天野のその言葉を聞いた時、さっきから自分を襲っていた違和感と緊張がやっと正体を明かしたと思った。


(男友達でこんな手を繋いで夜景を見るなんて、やっぱり変だったもんな…)



この付き合って下さいというのは十中八九、恋愛的な意味なのだろう。彼女のいたことが無い経験が乏しい俺でも、まるでドラマで見る、惹かれ合う二人が思いを伝える時のような空気を読み取ることができた。


ただやっぱり違うのは、俺は天野に対してそういう気持ちがないこと。今の今まで、天野とそういう風になりたいなんて考えたことはない。


(だって、男同士だぞ…俺たち…)




「…あの、一応聞くんだけど、恋愛の意味で言ってる…んだよな?」


「うん、俺、丸山と友達じゃなくて恋人になりたいと思ってるよ」


「罰ゲームとか本当にそういうのじゃなくて?」


「そーいうのは違う、俺罰ゲームなんて受けたこともないもん」


さらっと今まで勝ち組でしたアピールをされた気がする。でもだからこそ、クラスの中心に立つようなこの男が俺と付き合いたいだなんて訳が分からなかった。




「…丸山、俺は本気だよ。」



天野の真剣さを帯びた声に、今自分の中でぼんやりと出ているこの答えが残酷なことのように思えた。どんな形であれ、自分を好いてくれている友人に拒絶の言葉を掛けることが、愛の告白を受けた時の衝撃よりも自分の心に痛く突き刺さる。


その確かな痛みを感じながら目を伏せると、俺は繋がれた手をそっと外した。




「……ごめん…天野と付き合うことは出来ないと思う……ごめんな…」


「……」


「天野とは友達、でいたい……」


「……俺のこと嫌い?」


「それは違うんだ…!お、俺はクラスでもすげー地味な奴って思われてるけど、でもそんな俺でも話しかけてくれただろ…天野と友達になれて嬉しかった…」


これは俺の本心だ。男同士で付き合うことは俺には出来ない。でも天野と一緒に遊んだこの数ヶ月は俺にとって一番楽しい時間だった。大切な友達が出来たと心から思える。それだけは天野にちゃんと伝えたくて、伏せていた目を天野へ向けた。


しかし、天野と目が合うことはなかった。さっきまで俺に向けていた真剣な顔は下へ伏せてしまっていて、イルミネーションのように光る明かりだけではその表情を伺うことは出来なかった。


「天野……」


「………男同士だから?」


いつもの緩い柔らかな声ではなく、黒い雫がポタリと垂れるような暗い声。その声を聞いてさらに心に痛く突き刺さるが、俺は静かに頷いた。 そして訪れる沈黙の後、口を開いたのは天野だった。



「…じゃあ聞くけど、男同士なのに何で俺とデートなんかしたの……」


「は……、ちょっと待って天野……あ、あれは友達の間で使うジョークなんだろ…?だってお前もそういう意味で言ってたんじゃないのか?」


「違うよ…俺は友達相手に毎回デートしようなんて冗談使わない。丸山だからデートしたかったんだ…俺はずっと本気だったよ」



絶句する俺に、天野は伏せていた顔を上げるといつもの緩い笑顔をどこかに置いてきたかなように泣きそうな表情を見せた。


「だから、今まで回数重ねた今日のデートで告白したのに……丸山、酷いよ…」





もはや何と声をかけていいのか、全く分からなかった。俺だって天野以外とデートしようなんて言ったことはないけれど、天野だからこそ冗談として使っていたのだ。


他人と話す事にあまり慣れていないし、冗談を言い合う友達だっていない俺とは反対の所にいる天野だからこそ、そんな冗談を使えたのに…


でもそれは俺の考えであって、天野の方は俺相手だからこそ、毎回冗談ではなく本気でデートするつもりで誘っていたということになる。


天野にとって俺は、毎回デートは行ってくれるくせにいざ告白したら断られた酷い奴に見えるのだろうか。でもそんなの男同士なのだから、本気のデートするなんて思わない人の方が多いと思う。


俺は悪いことはしていないはずだ。けれど、目の前にある今にも涙がこぼれそうなほど傷ついた顔を見ると、本当に何と声をかけるべきなのか分からなくなった。



「なんか困らせちゃってごめんね…もう丸山には話しかけないから大丈夫だよ…」


さようなら…


天野は目に溜めた涙を服で拭いポツリとそう告げると、何も言えず途方に暮れていた俺に背を向けて歩き出した。


天野が行ってしまった。それは分かるのに俺はまだ動けずにいた。

ただ、別れ際に告げられた言葉が頭の中で渦巻いている。


(もう丸山には話しかけないから大丈夫……さようなら……それって友達をやめるってこと…?)





気づくと俺は走り出していた。


(もう天野と話せなくなるのだけは嫌だっっ……!)


その思いだけが動けなかった俺を突き動かす。天野と付き合う付き合わない話は頭からすっかり抜け落ちていて、とにかく去って行った天野の手をもう一度繋ぎ止めなければと思った。


明日になってしまったら多分、天野の中にいた俺は無くなってしまう。今でなければ、俺の隣にいてくれた天野を失ってしまうんだ。



「天野っっっ!!」


走って上がった息が苦しかったが、俺は全力でその名を呼んだ。


「天野っっ、待って!」


きっと俺の声は聞こえているはずなのに、その背中は止まることなく遠くなっていく一方だった。それでも自分の出せる力全てで走ると、俺はその手を掴みこちらへ引き寄せた。

振り向いた天野の顔はやっぱり悲しい顔をしていて、そして少しの怒りを滲ませていた。


「……なんで追いかけてくるの?丸山って空気読めないんだねぇ……」


「天野っ!……お、俺はやっぱり天野と友達でいたい…話せなくなるなんて嫌だ…」


「だから俺は友達じゃなくて付き合いたいって言ったよ…俺は普通に話せないし、だからデートのことだって本気で言ったから丸山が困ることになったんだろ…」


「そうかもしれないけど…でもこれで終わりなのは嫌なんだよ…なぁ、これからも一緒にいるには、」

「じゃあ、恋人になる?」


俺は天野に抱き締められていた。

華奢に見えていた天野の身体は、身動きが出来ないほどに俺をしっかりと包み込む。



「……っていうかさ、丸山って俺のこと大好きだよね。普通は、自分が振った相手を追いかけることなんてしないよ。」


耳元で聞こえる甘さを含んだ声に、背筋がゾクっとするような今までに感じたことのない感覚が俺を襲う。


「ねぇ、丸山は友達ばかりにこだわるけど、これからも俺と一緒にいることが一番の願いなんでしょ…だったらこれからも一緒にいよう…その代わり、


俺の願いも叶えてくれる?」



天野がこれからも俺と一緒にいてくれる。その言葉を聞いたとき、固まっていた俺の体にじんわりと血が巡って、また暖かさを取り戻したような気がした。










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